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自分に合った投資 長く続けるには「まず資産を把握」

『投資の鉄人』座談会から(2)

定期預金からいきなりトルコ投資に行く個人投資家もいるという(撮影・新木宏尚)

前回の「『投資の鉄人』著者が激論 失敗しない情報の見抜き方」に続き、書籍『投資の鉄人』(日本経済新聞出版社)から著者4人の座談会部分を転載して、個人投資家の陥りがちな罠を解説するミニ連載の第2回です。今回は「自分に合った資産運用を長く続けるためにはどうすればいいか」がテーマ。自分の資産の現状を正確に把握する方法や、確定拠出年金(DC)・少額投資非課税制度(NISA)の適切な使い方を、この道の第一人者の4人が解説します。

投資教育の前に必要なこと

――個人投資家の方々と接していて、感じることはありますか。

竹川 私は10年以上前から企業のマネープランセミナーで講師をしていますが、昔に比べて明らかに晩婚・晩産化傾向が強くなっています。昔のように、結婚して出産して住宅ローンを組んで、そのあとに老後資金を貯めるというのは難しくなっています。60歳くらいで子どもが成人するという方もいますし、シングルのままという方も増えています。

公的年金のモデルは「2人でいくら」と表示されることが多いので、1人だと当然少なくなります。いろいろなライフイベントが終わってから貯める、ということができなくなってきていますから、若いうちから、少額でもいいので、ライフイベントと並行して積立投資を行うなど、自分で取り組んでいく必要があるでしょうね。

大江 投資って水泳と同じなんですよね。水泳の本を100冊読んでも、1回水に入らなければ泳げません。投資も同じで、いくら本を読んでも、自分が体験しないとダメなんです。退職金でいきなり投資をするという人は、水に入ったことがないのに、沖合でボートから飛び込もうとすることと同じです。それはもう、絶対におぼれてしまいますよ。

岡本和久さん

馬渕「今まで定期預金しかしていなかったのですが、トルコはどうですかね」といった質問が、以前から結構多いですよ。

竹川 飛び越え方がすごいですよね。

馬渕 すごいですね。いきなりそこへ行っちゃう。

竹川 若いころから投資をする意味というのは、経済に関心を持つようになるというメリットも大きいでしょうね。仕事にも生かせるのではないかと思います。

大江 「with」(講談社)という若い女性向けの雑誌で読者の質問に答えるコーナーがあり、私が回答者になったことがあります。「私は貯金が苦手で、すぐ買い物をしてしまい、お金がありません。でも買い物はやめられないから、手っ取り早く投資で儲けたいんですが、何かありませんか?」という質問に、「あなたは投資をせず、地道に貯金したほうが良いですよ」と答えました(笑)。

岡本 最近、「投資教育」「ファイナンシャル・リテラシー」などという言葉をよく聞きますが、その前にある、モヤモヤっとした部分をもっと取り除くことが先決です。ファイナンシャル・プランナー(FP)が金融機関についていって第一歩を踏み出せるようにするとか、いきなりプールに飛び込むのではなく、まず足先をぬらしてみるといった体験を無理なくできるようにしたいですね。リスクだ、リターンだと言う前に、温かいサポートが必要です。

大江 投資教育が大事だということは否定しませんが、それ以前に大事なのは社会保障教育だと思うんですよ。年金がいくらぐらいもらえて、介護にどれくらいかかり、税金がどう使われているかなどを知ることが、自分でお金を貯めていくことの重要性や自分がやるべきことを考えることにつながっていくのです。上がる株式銘柄当てゲームのようなものが投資教育だというのは違うのではないかと。社会保障教育を行うことで、世の中の仕組みがわかり、ムダなことにお金を使わなくなる、ということがとても大事だと思います。

年1回は資産の現状を把握

竹川 商品を買うのは最後の最後ですよね。私は、年に1回、損益計算書とバランスシートを作るだけでも、お金に対する意識が格段に変わると思うんです。

損益計算書は、税込み年収から社会保険料と税金を引いた手取り年収を出し、そこから支出を引いて、手元に残ったお金がいくらかを表すものです。会社で言えば利益がどれくらい出ているか、ということですが、個人では1年間にどれくらい貯められているかがわかります。それと、「わが家はいくらあったら生活できるのか」を押さえておくことも重要です。1カ月または1年間で、最低限必要な金額がありますよね。その金額を押さえておくことは、失業など何かあったときのリスクマネジメントにもなります。

バランスシートは、自分が持っている預金や投信、株、住宅といった資産と、住宅ローンなどの負債を一覧にした表です。

馬渕 家計簿をつけることも大事ですよね。私の友達のFPで、自己破産した方の生活再建を専門としている方がいます。そのFPはまず、家計簿をつけてもらうと言います。自分がどのくらい使い、いくら収入が入ってくるのか、把握していない人が結構いるそうです。基本的なことですが、それだけですごく違うと。

岡本 あとはバランスシートですね。

竹川美奈子さん

竹川そうですね。年に1回、作っていただきたいです。これはわが家の資産(金融資産と固定資産)と負債、資産から負債を差し引いた純資産を把握するためのものです。リタイアするまでに金融資産を積み上げて負債を圧縮し、大きくて健全なバランスシートを築いていくのが目標になります。簡易なものでかまわないので、バランスシートを作ってみると、「住宅ローンを早く返したほうが良いな」といった判断材料になります。

岡本 それはまさに、資産運用と言うときの「資産」の部分なんですよ。持っている個別の銘柄が上がるか下がるかは二義的な問題であって、全体がどう増えているか、あるいは減っているのかを確認することが大事なんですよね。本当に大切なのだけど、あまりみんなが行っていないのが財産の棚卸しです。金融機関ごとの投資対象を資産クラスごとに組み替えてみる。そうするといろいろなことがわかってきます。

竹川 知り合いの税理士が、「会社を経営していくことは、純資産を長期的にどんどん増やしていく作業なんだ」と言っていました。個人も基本は一緒です。リタイアまでには健全なバランスシートを作ることを目標に、1年1年バランスシートを作っていきたいですね。

レコーディングダイエットというのがはやりましたね。体重を書いたからやせるわけではありませんが、書くことで反省したり、食事のバランスを考えたりすることで、改善するから結果的にやせるんでしょうね。

岡本 グラフを書くと、もっとやせるよ。できれば移動平均線も入れて、デッドクロスやゴールデンクロスをチェックする(笑)。

竹川 え、そうなんですか!?(笑)バランスシートも、Excelでグラフ化するように勧めているんですよ。そうすると、大きさが意識できますから。

DCとNISAをどう活用するか

――投資の非課税制度、DC(確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)はどう使い分ければいいでしょうか。

大江 DCは老後の資産作りにしか使えません。将来、家を建てるためということには使えないわけですよね。ということは、どうしたって長期の運用にならざるをえません。

NISAは価格が上がれば3カ月で売ってもいいわけですが、DCは途中でお金を引き出すことができないため、60歳までの20年、30年という長期の運用になります。長期運用は先が読めないわけですから、ある程度、分散しておく必要があります。長期投資で分散するとしたら、私は、期待リターンが高いもので運用することが正しいと思います。DCで定期預金のような元本確保型商品を選択するのはもったいない。定期預金自体が悪いわけではなくて、今のように金利が低いときは、わざわざDCを使わなくても、ふつうの課税口座を使えばいいでしょう。つまり、期待リターンが高くプラスが出る可能性の高い商品ほどDCを使ったほうが良い、というのが私の考えです。

NISAは、定期預金のような貯蓄型商品は使えません。その人の考え方次第で、株でも、ETF(上場投資信託)でも、バランス型投信でも良い。それぞれ一長一短がありますから、これが絶対というものはないと思います。

岡本 DCとNISAは用途が違いますよね。退職後のための資産形成ということでしたら、まず、第一にDCです。でも、そのためにNISAが全然使えないわけではありません。DCを使った上で、NISAも部分的に使うということはありうる。順位としては、DCがあって、NISAがあって、課税口座ということになるんですけれど。要するに、税金はコストであるという認識をハッキリさせるということでしょうね。

大江 よく「一番良いものを教えてくれ。それに全部入れるから」といった発想になってしまうんですが、そうではないわけです。個人型DC(iDeCo、イデコ)は月々の積み立てで、会社員だと毎月2万3000円が上限です。それ以上は投資できない。すると、それが自分の全資産ではない方が多いと思います。NISAもそうですよね。全体の資産の中で、自分が失業して給料が入ってこなくなったときの備えとして、一定額を定期預金などの現金で持っておかないと怖くて仕方がありません。そういう資産までNISAに突っ込んでしまえ、というのは考えものです。バランスの問題だと思うんです。

馬渕 DCを使っている方の中には、DCの中だけで適正な資産分散をしなければいけないと誤解している方がいます。あなたにはDCしか資産がないんですか、という話です。そこに大きな誤解があるような気がします。

竹川 iDeCoは2017年から加入対象者が大幅に拡大されたため、新たに入れる人に注目が集まっています。けれど、私はむしろ、従来から入れる自営業者や企業年金がない方々が積極的に使うべきだと思います。自営業者は公的年金は国民年金だけですし、まとまった退職金もない。企業年金がない会社員は退職一時金だけで企業年金がありません。国や会社から受け取る年金が手薄なので、自分で準備をする必要があります。iDeCoは60歳までお金が引き出せないことが気になるのだったら、自営業者なら小規模企業共済とiDeCoの両方に入るという選択肢も考えられます。

大江英樹さん

大江法律上は企業型DCに入っている人もiDeCoを使えるのですが、やる企業はあまりないでしょうね。やろうと思ったら、会社の規約を変更して拠出上限を下げる、すなわち会社が出す掛け金を減らす必要があります。それに労働組合が同意するわけがないですね。

竹川 私も、DC口座については優先的に期待リターンが高い商品を振り向ければよいと思います。一方、NISAは非課税期間が5年なので、注意点もあります。5年を超えて保有する場合、(1)新たに開始するNISA口座の投資枠に移す(ロールオーバー)か、(2)課税口座(特定口座など)に移管することになりますが、いずれも移管時の時価がそのあとの取得価格になります。値上がりしていればよいのですが、値下がりしていたときに課税口座に移すと課税強化になる可能性もあります。

例えば、投資した100万円が非課税期間終了時に80万円になったとします。この場合、課税口座に移管すると、その後の取得価格は80万円になりますから、その後に値上がりして90万円になると(90万円―80万円で)10万円に対して税金がかかってしまいます。でも、実際には損をしているわけですよね。制度が少々複雑なので、制度の理解と運用方針をしっかり決めておくことが必要です。

2018年からは、新たに積立NISAも始まります。積立NISAは投資金額の上限が年間40万円、非課税期間20年という制度です。投資対象は一部の投信などに限定されるため、個別株への投資などを考えている人は既存のNISAを活用することになりますね。

岡本 選択制なんですよね。従来のNISAか積立NISAか、どちらかだけ使える。

竹川 はい、どちらか一方の制度しか利用できません。積立NISAは、買いたい投信が積立NISAの対象になっていて、積み立てで購入していきたい人向きと言えそうです(2017年3月時点)。

■この人に聞きました
馬渕治好さん 世界経済・市場アナリスト
竹川美奈子さん ファイナンシャル・ジャーナリスト
岡本和久さん 投資教育家&ファイナンシャル・ヒーラー
大江英樹さん 経済コラムニスト

日経プレミアシリーズ『投資の鉄人』の一部を再構成

投資の鉄人 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 岡本 和久, 大江 英樹, 馬渕 治好, 竹川 美奈子
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

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