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地方から火おこす 女子サッカー・本田美登里(上)

長野パルセイロ・レディース監督

長野市の女子サッカーチームが全国有数の強さになると、5年前に想像した人がいただろうか。

県が中学の朝練を原則廃止。冬の夜はつらいほど凍え、練習拠点も多くない。サッカー熱は乏しい長野のパルセイロ・レディースに2013年から監督として乗り込んだ本田美登里(52)は、選手を集め、意識をたたき直し、市民が女子サッカーを見る目も変えた。

定位置のリーグ2部下位から15年に1部へ昇格、1年目で3位に食い込む。改築したての長野Uスタジアムの平均観客数はリーグ1位だ。

"女子サッカーおこし"ならお手の物。01年に人口3万人弱の岡山県美作市で「湯郷ベル」を立ち上げ、日本代表主将となる宮間あやを見いだし、10年で有数のチームに育てた。長野市は人口38万人、スタジアムにも恵まれ「マイナスからのスタートだった湯郷に比べれば、一からどころか、3くらいからの出発」と口ぶりに余裕がある。

「選手が納得し、成長できるサッカーをさせたい」という。そうであればスタイルは問わない。システム論や戦術ありきとも、勝てばよし、とも違う。原則、選手の好きにさせる。そうして開花した一人が日本代表FW横山久美。突進できるドリブルは強烈だが、我も強い。本田は長所を引き出しつつ「それは違う、というところだけは線を引く。わがままと個性をすみ分けさせる」。

横山はしたいドリブルをしているだけ、と周りが反感を抱くようでは監督失格。細かい事はとがめないが、横山が他の選手と同じミスをすれば頭ごなしに叱る。「なぜ私にはそんなに」と横山が嫌がり、険悪になってもひるまない。特別扱いがあっては他が納得しないし、チームにならない。

縛らず、かといって離さず

岡山で、宮間という「個」とも同様に接してきた。自分の枠を超えた発想と力を秘める選手は、押さえつけても生きぬと学びながら。「私のサッカーを押しつけていたら、彼女はアジア最優秀選手になっていない。私がなっていないのだから」

縛らず、かといって離さない。「選手を突き放すときは突き放す。でも選手が気持ちよくできる距離感をうまく作る」。かつて同じ長野で男子チームを率いて、腹を割って語り合う間柄の美濃部直彦・現GMは評する。

「自由でいい、その代わり責任を持てと。だから責任感が芽生えた」とはMF国沢志乃。自己責任で判断するうちに「ゴール前のプレーで幅が増えた」と語るのはCB坂本理保だ。その坂本、国沢、横山らがノビノビと自分を出す。規律と鍛えられたフィジカルで、イタリア男子代表を思わせる勝負強さで強豪から勝ち点を奪う。そんな軍団に本田は仕立て上げた。

黎明(れいめい)期の代表で戦い抜いた「なでしこ」であり、女子のS級ライセンス取得第1号。女子サッカーへの関心・人気は一時より下火だが、この開拓者はまきをくべ続ける。「都市で女子サッカーの火が消えるのなら、地方から火をおこす」(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊5月29日掲載〕

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