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足の先端はかかとか指先か 体の構造を知ろう

ランニングインストラクター 斉藤太郎

日ごろのランニング指導時に最も大切にしていることは、木でいう「幹」の部分を活性化すること。そのために骨盤、肩甲骨、姿勢と「こけし」の3要素に整理してアドバイスをしています。並行してフォームチェックする際の着眼点に、枝先に当たる「足」の使い方があります。重力とうまく付き合いながら、左右の足で交互に地面を捉えて弾み、体を運搬するのがランニング。足首や足の指が機能している方と、そうでない方の走り方の差が大きいと感じていますが、「こけし」とセットでうまく機能させることで楽に前に進めるようになります。

足の先端の意識は指先に置くべき

日本人の一般ランナーの多くは膝から先を前へ降り出すようにし、かかとから接地して指先(足先)で地面から離れていきます。「足を前に」という意識が強すぎると「股関節を折りたためない(屈曲せずに、角度がゆるいまま)」「骨盤が後ろに傾く」といった、体重移動の効率悪化をもたらす難点が出てきます。

かかと着地でスムーズに走れるランナーもいますが、おおよそ日本人の6~7割は足首が硬いなどの欠点を抱えていて、強い着地衝撃を受ける、けがをしやすい走り方に陥っているのが現状です。かかとが先に着けば足首の前方向への屈曲が鈍くなり、体が後ろに残ってしまいます。衝撃を受けて腰が落ちる、体はなかなか前方に進めない。その結果、体重移動を脚のキックだけに頼る。そんな繰り返しに陥ってしまうのです。

望ましくないフォームになる原因には生活習慣の影響があります。あまり歩かない、舗装された平たんなところばかりを歩く、職場などでずっと同じ姿勢でいる。シューズ選びの成否も絡んでくるでしょう。走り方を改善するには、起伏や凸凹のある道を走ることや、後述する「改善ドリル」「足の意識のチェンジ」といったアプローチをするとよいでしょう。

「足」の意識について

足の骨格の形を意識することはあまりないと思いますが、過去に足のイメージを受講者に描いてもらったことがあります。ほとんどの人が靴下のようなL字型の絵を描いていました。ここからうかがえるのは「かかとが脚の先端として地面に接している」「かかと部分に多くの体重が乗っている」という意識です。

私が期待した絵は逆さ「Y」字でした。くるぶしの真下に体重がかかっています。そこからかかとにも指先にも足の骨が伸びていて、前後のバランスを保って体を垂直に支えているイメージです。

足の「先端」の意識は指先におくべきだと考えます。とても細かい部分になってきますが、親指と人さし指の間の、ちょうど鼻緒が引っかかるあたり。この部分が足の先端であり、そこを基点にバランスを取る感覚で歩く、走る、立つという意識です。そのように考えると、ランニング中の体重移動がスムーズになってきます。

足の先端の意識を「かかと」と「指先」のどちらにおくか。双方の考え方を比べてみます。

「かかとが先端」と意識している人が脚を前に振り出すと、指先が前に出すぎることになります。指先より後ろ側のかかとを先端と位置づけ、前に出しすぎているのですから、当然のことですね。過度な振り出しで地面を斜めに突き刺す「かかと接地」になり、膝関節が伸びきってしまう。前述した着地衝撃大のフォームに陥ることになります。

一方、「指先が先端」だと意識して脚を前に振り出すと、柔らかく地面を捉えることができます。脚を伸ばしきっての着地でないため、膝関節はやや曲がって「遊び」がある。足首が前方へスムーズに屈曲して体が前へ進みます。しっかりと体重移動ができているから、指先が「デコピン」をするときのようにしなって地面から離れていく。足首に膝関節と、どの関節にも適度な遊びがあってサスペンションとして機能し、体を前に傾けるとどんどんピッチが上がっていくような走りになります。

足首(足関節)が硬いとどうなるのか。棒高跳びの棒をイメージしてください。鋭角に地面に突き刺さり、浮力が生じて上方向に体が浮かんでしまいます。跳ね上がっては落ちる。かかとから接地して体を支えきれずに腰が沈み、また跳ね上がる。こんな上下動の激しいランニングフォームになります。

先日、イタリア・モンツァで実施された男子マラソンの2時間切りを目指したプロジェクトで、リオデジャネイロ五輪金メダリストのエリウド・キプチョゲ選手が2時間0分25秒のタイムで走りました。そのときの動画を見たのですが、接地していたのは小指の付け根あたり。足首のクッションにより、かかとも地面に着くか着かないかというところまで沈みますが、親指と人さし指の間あたりを基点に柔らかく路面から離れていくフォームでした。

この時履いていたシューズは、底にカーボンプレートが挟み込まれた構造だったそうです。おそらくは接地から地面を離れるまでの指先の張力をサポートしてくれる絶妙なバネとなっていたのではないでしょうか。

直立から前進へ

「立っている」というのは指先でブレーキをかけている状況です。体が動かないのは指先で踏ん張っているからです。両足をそろえて真っすぐ立ってみましょう。耳、肩、骨盤、膝が一直線を描きます。最終的にくるぶしの真下に体重が乗ります。かかとではありません。静かにその感覚を研ぎ澄ませてみてください。次に指先の力だけをオフにしてください。指先が潰れるようになり、足首が前へ屈曲し、体は前方向に傾きます。蹴るでもなく、力をオフにすることで前に進むエネルギーが生まれます。これを「ゼロパワー」と呼びます。

サッカーのレフェリーへの指導でも用いています。彼らは前後左右、しかるべきタイミングにしかるべきポジションへ移動していなくてはいけません。1試合に走る距離は約13キロ。90分間に50本前後のスプリントがあるそうですが、筋パワーに頼らず走れるかを追究しています。素早さと省エネを兼ねた走りの技術によってエネルギーが節約でき、試合終盤まで持続力が保たれ、ゆとりを持ったレフェリングにつながる。そう西村雄一さんは言っています。

隙のない構え

台車を押すトレーニングでは足の指先をしっかり使う

私は8年間剣道を習っていたのですが、自画像に描かれた剣豪宮本武蔵の脚がぴーんと伸びる真っすぐ立ちではないことに、少年剣士だった頃は違和感を持って見ていました。ただ、これまでに述べてきた理論を抑えて眺めると、足首、膝、股関節と、どの関節にも遊び(ゆとり)を持たせて、指先に意識がある。どの方向へも瞬時に重心移動が可能な隙のない構えであることがわかります。

お待たせしました。最後に「改善ドリル」をご紹介しましょう。

・前スクワット(膝出し)20回

両足を肩幅に開いて直立。足首を深く折りたたむようにして腰を落とし、持ち上げます。

・台車押し

台車にしっかりと体重を乗せて押します。壁を押したり、ブレーキをかけながら進む人の背中を押したりしてもよいでしょう。足の指先をしっかり使いましょう。

体のメカニズムを抑え、足の意識を改善し、ドリルを実践する。この繰り返しで、今までよりクオリティーの高い走りを突き詰めてみてください。

<クールダウン>熱中症に注意、安全重視の走り方
 熱中症に気をつけて走る季節になりました。クラブ練習会ではコースの周回距離を短くします。拠点から遠出しないことで、何かあったときにいつでも拠点に戻れるようにしています。
 安全重視の走り方の一例を紹介します。60分間かけて10キロ程度を走る際、続けて走るのではなく「20分間走(3~4キロ)×3セット」「15分間走(2~3キロ)×4セット」と分け、間に5分程度の休息を設けます。
 指導経験上、途中で体調異変を起こすケースで注意していただきたいことが2つあります。
・ナイターとデーゲーム
 専ら夜に走られる方(ナイター型ランナー)が久々にレースに出場(デーゲーム)。日差しに耐えきれず、意識がもうろうとすることがあります。レースは通常日中に行われます。出場を控えている方は、事前に何度か日中に走っておくべきです。
・補給の前に満タンか?
 だるさ、寒気、鳥肌、あくびが出る。練習中にそうした体調異変を起こす方に尋ねると、朝ごはんが軽かったというケースが多くあります。せいぜいパン1枚で、味噌汁などの塩分を取っていません。走り出してから水分と合わせてナトリウムを摂取するには、水やお茶ではなくスポーツドリンクが好ましい。ただ、スタート後の補給の前に、準備として体のガソリンタンクにエンプティーマークが点灯していないことが大事。しっかりチェックするようにしてください。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「マラソンと栄養の科学」(新星出版社)など。

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