テニス錦織、歴代強者に劣らず データで実力比較
テニスの全仏オープンが28日、パリで開幕する。今年は世界ランキング1位のアンディ・マリー(英国)と2位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が精彩を欠く一方、「赤土の王者」ことラファエル・ナダル(スペイン)が鮮やかな復活を遂げた。男子シングルスは若手の台頭もあり、群雄割拠の時代にある。日本の錦織圭(日清食品)には今大会、どれだけの勝機があるだろうか。国際テニス連盟やATPなどのデータをもとに錦織と歴代の強豪選手との実力について比べてみた。
四大大会優勝はないが、錦織の戦績は四大大会優勝経験者と比べても悪くはない。むしろ、テニス史上でみてもかなり強い部類の選手だ。
グラフ1の上部は、四大大会でベスト16以上に勝ち進んだことのある461選手を、錦織と同じ27歳時点での四大大会の勝率で比較したものだ。錦織の勝率は69%、四大大会3勝のスタン・バブリンカ(スイス)よりも高く、同世代で四大大会1勝のマリン・チリッチ(クロアチア)とも遜色はない。

2003年、ロジャー・フェデラー(スイス)がウィンブルドン選手権を制し、四大大会初優勝を飾ったのを境に、男子テニスは「ビッグ4」による優勝トロフィー寡占時代が始まる。05年には19歳で全仏を制してナダルが登場、ようやく2人の勢いにやや陰りが見えてきた11年以降、ジョコビッチ、マリーが立ちはだかった。「ビッグ4」はテニス史上でも突き抜けた存在だ。07年にプロに転向し、ベスト4まで勝ち進むには彼らのうち、最低でも1人は倒さなければならない錦織は、選手としてはややアンラッキーな時代に生まれたといえる。
そうした時代背景も考慮に入れて、選手の実力を比較できるのがEloという指標だ。もともとチェスで使われていたもので、何万もの試合の勝敗、対戦相手ごとに奪ったポイント、失ったポイント数などを解析、数値化することで同時代の選手だけでなく、過去の選手と比較できる。
グラフ1の下部は全選手のEloを比較、上位20選手を示したものだ。それぞれの最高ポイントを順に並べている。歴代最強は四大大会12勝のジョコビッチ、16年1月のパフォーマンスがキャリアで最も素晴らしかった。ちなみに錦織はそのとき、全豪オープン準々決勝でジョコビッチに敗れた。当時のジョコビッチは異様に強かったのだ。2位は四大大会3勝のマリー、3位は同11勝、1970~80年代初頭にかけて活躍したビョルン・ボルグ(スウェーデン)、同18勝のフェデラーは4位になる。錦織のベストパフォーマンスは昨年8月、リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得した時期であり、四大大会8勝のアンドレ・アガシ(米国)の少し下、同4勝のジム・クーリエ(米国)よりも上だ。
グラフ2は錦織がプロデビュー以降、Eloポイントのトップにいる選手(=その時点での最強選手)と、錦織のポイント差、つまり力量差を比較したものだ。世界トップ10入りした14年後半以降、トップ選手との実力差は縮まり、16年夏時点で最小になっている。
歴代上位20人の中に四大大会で優勝している現役選手のバブリンカやチリッチはいない。錦織も対戦選手との組み合わせ、調子次第では十分、四大大会を制する力も、可能性もあるのだ。

クレーコートで球足が遅い全仏は長いラリーが多く、四大大会の中でも最もタフだ。今年1月の全豪に続き、格の高いマスターズを連覇した35歳のフェデラーは芝のシーズンへの調整を優先し、欠場を発表した。優勝争いはナダルが中心となりそうだ。
■ナダル復調、10度目V狙う
19歳で初制覇した05年以降、9度の優勝を積み重ねてきた。強烈なトップスピンと広い守備範囲は赤土で一段とすごみを増す。手首を痛めた昨年は3回戦を棄権して涙をのんだが、故障が癒えた今年は準備万全。3年ぶり10度目の栄冠に視界は開けている。
全豪では難敵との激闘を次々と制し、決勝まで進んだ。クレーコートシーズンに入ってからは圧巻の強さを見せている。4月中旬のモンテカルロからバルセロナ、マドリードと3大会連続制覇。マスターズの優勝回数を30とし、史上最多でジョコビッチに並んだ。「いい流れが続いている」と手応えは十分だ。
昨年の初優勝で生涯グランドスラムを達成したジョコビッチは連覇を懸ける。ただ、昨年の全仏後はモチベーションの低下に右ヒジの故障などが重なり、圧倒的な強さが影を潜めた。全豪では2回戦で敗れ、マドリードの準決勝でもナダルに完敗を喫した。先日、長年連れ添ったコーチやトレーナーのチームを解散した。「自分のテニスは移行期に来ている」。直近のイタリア国際では準優勝と復調の気配は見せている。
今年の獲得ポイント数で3位につける23歳のドミニク・ティエム(オーストリア)は躍進が期待される。片手バックハンドながら、力強いストロークが持ち味。過去8度のツアー優勝のうち6度をクレーが占めている。バルセロナ、マドリードでは準優勝。いずれもナダルに敗れたが、三たび対戦したイタリア国際ではストレート勝ちで借りを返した。また20歳のアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)はイタリアの決勝でジョコビッチを圧倒し、マスターズを初制覇した。198センチからのスケールの大きなプレーは将来のナンバーワン候補と目される。旋風の予感は十分だ。
世界1位のマリーは厳しい戦いが予想される。昨年後半の充実ぶりから一転し全豪ではベスト16止まり。直近のイタリア国際で初戦ストレート負けを喫するなどマスターズでも格下相手に早期敗退が続いている。3月のマイアミは右ヒジの故障で欠場しており、心身とも本調子には遠い。
錦織も見通しは甘くない。今年は全豪の後に南米のクレーの大会を回るなど日程を組み替えて全仏に照準を合わせてきた。しかし勝負どころを取りきれず、右手首の痛みもあってランキングを9位に落としている。
とはいえ、右足のケガで出場が危ぶまれながら、決勝まで進んだ14年全米の例もある。一発勝負のトーナメント、何が起こるかわからない。