2018年8月16日(木)

がん治療・解体新書(3)細胞のゴミ袋、実は元凶

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2017/5/17 6:30
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 ゴミ袋を宝の山に変えた男――。医学界でこう呼ばれる研究者がいる。国立がん研究センター研究所、落谷孝広・主任分野長だ。2016年の講演回数は100回超。日本はもちろん世界からも講演依頼が殺到する。人気の秘密、それは「『エクソソーム』こそ、がんの転移の元凶である」ことを突き止めたことだ。

国立がん研究センター研究所の落谷孝広氏

国立がん研究センター研究所の落谷孝広氏

 「エクソソーム」――。微少なカプセル状の粒で、直径は100ナノメートル前後。電子顕微鏡を使ってようやく見えるサイズだ。カプセルの中にはたんぱく質や核酸の一種であるリボ核酸(RNA)が入っている。

 このエクソソームは1983年に発見された。当初、このカプセルは細胞内の不要な老廃物などを中につめ外に運び出すためのゴミ袋だと考えられていた。

■死のメッセージ

 しかし、違った。このエクソソームこそ重要だった。2007年スウェーデンのグループがエクソソームのなかに大量のRNAがあることを発見したのだ。これを受け10年、落谷・主任分野長がエクソソームが細胞同士の情報伝達の役割を担っていることを解明、エクソソームは極めて重要な研究テーマに変わった。がん研究者にとって宝の山に変わった。

 落谷主任分野長らがこの事実を発表した論文は医学界で話題を呼びその後、学術論文で引用が始まった。現在までに引用件数は1000回を超える。エクソソームの研究は今、まさに旬だ。

 エクソソームを考えるうえで最も大切なのはカプセルの中身だ。特にマイクロRNAと呼ばれる分子は、がんの転移を考える際の鍵となる。正常な細胞に入り込み「死のメッセージ」を送り、受け取った正常細胞をアポトーシス(細胞死)させてしまうのだ。

 からくりはこうだ。

 マイクロRNAは20~25個の塩基がつらなり形成された分子。まるでスパイのように正常な細胞に入り込める。するっと侵入し、正常な細胞が持つ「メッセンジャーRNA」という分子にさっとくっついてしまう。

 一方、マイクロRNAがくっつくメッセンジャーRNAはいわば、たんぱく質生産の設計図。設計図に基づき、たんぱく質が生産され細胞組織が維持される。このメッセンジャーRNAを標的にするのだ。

 メッセンジャーRNAを捉えたエクソソームのマイクロRNAは、ある指令を送る。これがくせ者で内容は「ある特定のたんぱく質をつくるな」というもの。たまたまマイクロRNAが「つくるな」と指令した、たんぱく質が細胞の生存に必須だった場合、これは致命傷だ。その指令は「死のメッセージ」となる。

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