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打ちのめされたくて… 100キロの連戦に挑む

編集委員 吉田誠一

6月11日にいわて銀河100kmチャレンジマラソン(岩手)に挑み、さらに7月2日に日光100kmマラソン(栃木)を走る。ウルトラマラソンの連戦を前に、私はわくわくしている。

「バカなこと」に、なぜかわくわく

こういう気分になったのは久しぶりかもしれない。やはり、人には新たなチャレンジが必要なのだと思う。純粋な気持ちで日々のトレーニングに取り組めている。

100キロの大会は2008年から13年の間に4度、走ったことがある。09年のサロマ湖マラソン(北海道)は気象条件に恵まれて9時間20分45秒でこなしたが、13年の柴又100K(東京)は11時間11分44秒を要して体がガタガタになった。柴又の苦闘のダメージが大きかったので、以後、ウルトラマラソンを避けてきた。

にもかかわらず今回、ふと、ウルトラ再挑戦を思い立ったのは、フルマラソンでの不振続きと関係しているのかもしれない。100キロを走って自分をたたき直してみたくなった。

おそらく、身も心もヨレヨレになるだろう。ぐったりして体に力が入らなくなるだろう。途中で「なんでこんなバカなことをしているんだ」と思うだろう。

そんな自分を想像すると、不思議なことに、わくわくしてくる。100キロを連戦すればダウンするだろう。私の「わくわく」の理由はそこにある。

小学校の遠足の前や、初めてのデートの前や、サッカーの欧州チャンピオンズリーグ決勝の前に感じる「わくわく」とは種類が違う。

自分が打ちのめされて、ふにゃふにゃになってしまうことへの期待。エネルギー・ゼロになって倒れ込んでしまうことへの大いなる期待。それは、もしかすると「原点」に立つことへの期待・願望でもあるのかもしれない。

そこまで自分を追い込むことで、新たな力が湧いてくるのではないか、新たな世界に踏み込めるのではないかと、心の奥底で期待しているのかもしれない。

そこから人生をやり直そうとか、生まれ変わろうとか、暗い顔をして深刻に考えているわけではない。とにかく自分を「ゼロ」の状態にしてみたい。そんな興味がある。わくわくの理由を説明すると、そんな感じになる。

冷雨にたたられた3月26日の佐倉朝日健康マラソン(千葉)でも惨敗し、昨季はフルマラソンで1度も3時間半を切れずに終わった。それ以降、ウルトラの連戦に向け、1回のトレーニングで走る距離を徐々に伸ばしてきた。時間が許す限り、ゆっくり長く走っている。

いわて銀河でも日光でも記録を狙うわけではない。どちらもアップダウンのあるタフなコースなので、そもそも記録は期待できない。

できる限りの準備をしたい

しかし、当たって砕けろではなく、しっかり準備をして挑みたい。最後はヘロヘロになるだろうが、自分なりに100キロという距離にきちんと向き合い、走破したい。

13年の柴又の惨敗はウルトラマラソンをなめた結果だった。河川敷の平たんなコースだから何とかなると思っていたのが大間違いだった。いつまでたっても残りの距離が縮まっていないのではないかという恐怖と無力感に襲われた。

いい加減な気持ちで登山をしてはいけないのと同じで、いい加減な気持ちでウルトラマラソンに出走してはいけない。柴又の反省をもとに、今回はできる限りの準備をしておこうと心を決めた。

50キロ走、60キロ走をしたわけではないが、1回に走る距離=時間を伸ばし、私にしては20キロ以上のトレーニングの頻度を高めている。

4月29日に郡山シティーマラソン(福島)のハーフマラソン、5月13日に千葉deランニングフェスタの30キロに出たのもトレーニングの一環だった。

郡山では序盤を1キロ=4分45~50秒という無理のないペースで進めたため、最高気温が23度と高めで、しかも前半はほとんど上りだったにもかかわらず、心に余裕があった。

折り返し前の急な上り坂をクリアした時点でレースが終わったような感覚を覚え、下り基調の後半は1キロ=4分35~40秒に少しペースアップできた。

フィニッシュタイムは1時間41分33秒(ネットタイム)なので悪くない。記録を気にせず、練習のつもりで距離をこなすことだけを考えて走ったので、ストレスをほとんど感じなかった。いつも、こういう感じで走ればいいのではないか。

千葉の30キロは不幸にも天気予報がずばりと当たり、土砂降りの中のレースになった。この日はなるべくたくさん走ろうと、レース前に5キロをこなしたうえでスタート。そのウオームアップが効いて、最初から動きがスムーズだった。

100キロマラソンは1キロを5分40秒~6分で進めようと思っている。だから、この日の30キロも1キロを5分半前後で走ればいいと思っていたのに、だいぶペースが速めになった。

1周3キロのコースを10周するレースで、1周目は15分25秒とゆったり入ったが、その後は15分ほどで走ってしまった。30キロのタイムを狙うにはかなり遅いペースだが、ウルトラのための練習としては速すぎる。100キロのペースに体を慣らす練習としては失敗だったかもしれない。

ごく小規模な大会で、30キロの部のエントリーはわずか46人。疾走する10人ほどはスタート直後に私の視界から消え、後続は私よりかなり遅いペースで走っている。前後に30キロの参加者がいないなかで黙々と走った。

リレーマラソンのチームはわいわいと盛り上がっているが、30キロのランナーは土砂降りの中、ストイックに歩を進める。いつまでも走り続けるずぶぬれの参加者をはたから見たら「ちょっと変な人たち」、単刀直入には「変人」と映っただろう。

周回コースなので、いつでも簡単にリタイアできた。そうしなかったのは、ウルトラマラソンのために距離を踏んでおくのだという固い決意があったからにほかならない。私にそこまでさせるのだから、ウルトラマラソンとは偉大なり。

スタート前に5キロを走ったこともあり、8周目から前腿(もも)と腰周りが重くなった。9周目は16分45秒、最終周は17分31秒にペースダウンし、2時間36分24秒(ネットタイム)でゴールした。

参加人数が少ないため、50歳代で2位という結果はちょっとうれしい。途中で投げ出さずに30キロ(ウオームアップを合わせると35キロ)を走り切った褒美かもしれない。予定ではゴール後も少し走るつもりだったが、降り続く雨に負けて断念した。

ばったりと倒れたい

この時点で、いわて銀河まで残り4週間。一度、50キロ以上の距離をこなしたいが、もうタイミングが遅すぎるだろうか。

いわて銀河のコースマップを机に貼り、常に目に入るようにしている。この大会は既に2度走っているので、中盤の上りのきつさは承知している。過去の2回はここでだいぶ歩いたが、今回はしっかり走りたい。

終盤は下りになるが、そのころには脚筋力が落ちているので下りの恩恵はあまり受けない。しかも、ゴールが近づくと気が抜けて急失速するものだ。ここで緊張感を保って、粘り強く走りたい。

いまの私には、力を使い果たし、ゴール後に全身けいれんを起こしていたころの川内優輝選手のようになりたいという願望がある。たぶん、あんなふうになれない自分が嫌なのかもしれない。

エネルギー切れ寸前まで力を尽くせるのが一流ランナーだろう。私にはそれができない。エネルギーが余っているのに、残っているエネルギーを使う意志を失ってしまう。まだ余裕があるのに、逃避心理が働いて、もうエネルギーはないと決めてかかってしまう。

だらしのない自分に腹が立っているから、気持ちがウルトラマラソンに向いたのかもしれない。100キロの戦いに挑み、逃げずに、きちんと走ることができれば、エネルギー・ゼロに近い状態に自分を追い込めるのではないか。

ばったりと倒れたときの快楽が何かを生む。そこに期待して、わくわくしながら準備を進めている。

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