がん治療・解体新書(2) 心不全薬で転移を防げる

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2017/5/16 6:30
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「ドラッグリポジショニング」――。特定の疾患に有効な治療薬から別の疾患に有効な新たな薬効をみつけだすことを指す。例えば風邪薬を頭痛薬として処方するようなケースだ。このドラッグリポジショニングでがん治療に挑む動きが出てきた。今、最も注目される薬が「ハンプ」。心不全の治療薬だが、がん転移を防ぐ名薬に生まれ変わろうとしている。

がん治療の研究をする国立循環器病研究センター研究所の野尻崇氏(大阪府吹田市)

がん治療の研究をする国立循環器病研究センター研究所の野尻崇氏(大阪府吹田市)

「がん転移の抑制剤なんて最初は誰も信じてくれなかった。しかも、それがあの『ハンプ』なんだから」

こう語る医師、野尻崇氏の経歴ほどハンプを雄弁に説明しているものはない。元は心臓外科医、そして今は肺がん外科医。大阪府吹田市にある国立循環器病研究センター研究所のペプチド創薬研究所室長として、がん転移を防ぐ薬の研究に没頭する。

■3年で実用化も

野尻氏が話す心不全の薬「ハンプ」とは、第一三共が販売する薬の商品名だ。第一三共に吸収されたサントリー医薬事業部が1984年に創製し、95年に医薬品として登場した。心臓が分泌するタンパク質の一種をつかった薬で、血管を広げて心臓の負担を減らす作用があるため心不全の治療に使われてきた。

そんな薬が、がんの転移を防ぐとして、にわかに注目を浴びている。肺がん手術時にハンプを投与する臨床試験が国家プロジェクトとして行われており、順調に行けばあと3年で結果が出る。

これまで154人の患者で試したデータが野尻氏の手元にある。肺がんの手術をする際にハンプを投与しなかった77人は、2年間でがんが転移再発しなかった確率が67%だった。しかしハンプを投与した77人は91%に向上した。投与した方では明らかに再発が少なかったのだ。

「ハンプは世界初のがん転移予防薬になる」。そう意気込むが、そもそもがんと縁遠い心臓外科医の野尻氏がなぜ、このような研究を行っているのか。そしてなぜハンプはがんの転移を防ぐのか。

野尻氏が心臓外科医として大阪大学医学部付属病院に勤務していた2001年ごろ、一部の心臓外科医の間では、心臓手術後の心不全を予防する目的でハンプが使われていた。野尻氏も先輩にならって術後にハンプを患者に投与していた。

06年のある日、大学病院の医局から、国立病院機構刀根山病院(大阪府)への異動を命ぜられる。異動先での仕事はなんと、心臓ではなく肺がんの手術だった。野尻氏の心臓外科医としてのキャリアは中断した。

「心臓病に強い肺がん医になれればいいか」。ある時、肺がんの手術ではハンプを使わないことに気づく。そして肺がん術後でも心臓に負担がかかり、不整脈などが起きることもわかってきた。

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