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ワールドラグビー副会長に聞く 日本の進むべき道

ラグビー界の「最重要人物」ピチョット氏

現在のラグビー界の「最重要人物」が、国際統括団体ワールドラグビーのアグスティン・ピチョット副会長である。元アルゼンチン代表主将としての輝かしい実績をひっさげ、昨年41歳で大役に就任。7人制ラグビーの五輪種目入りなどの改革を主導してきた。英誌ではエディー・ジョーンズ・イングランド代表監督を抑え、「世界のラグビー界で最も影響力のある人物」に選ばれた。2019年ワールドカップ(W杯)日本大会の組み合わせ抽選会のため初来日したピチョット氏は日本経済新聞の取材に対し、ラグビー界の行方や日本の進むべき道を語った。

 副会長就任前のピチョット氏は、母国アルゼンチンのラグビー協会の幹部として2つの大改革をなし遂げた。世界最高峰の国別対抗戦「ラグビーチャンピオンシップ」への12年の参戦と、南半球最高峰のクラブリーグ「スーパーラグビー」への16年の加入である。
 ラグビーチャンピオンシップはニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアという世界の最強国が毎年、ホーム・アンド・アウェーで対戦する大会。アルゼンチンの参戦は、15年W杯での4強進出に結実した。

――日本ラグビー協会の中には、ラグビーチャンピオンシップに日本代表が参戦すべきだという意見がある。

初来日したピチョット副会長

日本もチャンピオンシップ参戦を

「私もそうすべきだと考えている。日本協会がすぐにでも参戦してくれることを期待している。我々が(日本チームの)サンウルブズをスーパーラグビーに入れたのはその狙いもある」

――日本は現実的にはいつから参戦できそうか。

「個人的な意見では2年間は無理だが、19年W杯の後、すぐにでも参戦してほしい。そのためにはサンウルブズがもっとプロ化されて(選手が所属する)企業との問題を解決しなければいけない。常に最高の選手を起用して代表チームがもっとよくなればすぐに参戦できる」

――スーパーラグビーのチーム数が、来季から3チーム減の15になる。理想のチーム数は。

「現時点でわからないが、私は拡大を望んでいる」

――スーパーラグビーの発展のためには米国のチームを入れるべきではないか。

「私もそう考えている。ただ、私は南米と北米の全体を見ている。この地域のラグビーはもっと成長するだろう。アジアはもっと大事になる。中国、インドも重要で10年、20年単位ではラグビーが大きく拡大する」

――アルゼンチンのラグビーは今後どう成長させていくのか。

「アルゼンチンには力のあるアマチュアクラブがあるが、プロチームはまだ1つ(スーパーに参戦するジャガーズ)しかない。将来はもっと国内の大会をやりたい」

――プロリーグも考えているのか。

「お金の問題で今すぐはできないが考えている。ウルグアイ、チリ、ブラジルなど南米の国のクラブと一緒に行う可能性もある。北米は遠すぎるから、たぶん一緒にはできないだろう」

――テレビ中継のことを考えれば、アルゼンチンは時差の大きいニュージーランドや豪州と戦うラグビーチャンピオンシップより、時差の小さい欧州6カ国対抗に入った方がいいのではないか。

「彼ら(6カ国対抗)の方がアルゼンチンに入ってほしくないんだ。それに、彼らはクラブとチームの(試合日程や選手の拘束期間などの)問題も抱えている。6カ国対抗はこれ以上拡大できない。我々には(ラグビーチャンピオンシップ以外の)選択肢がない」

――アルゼンチンは27年のW杯を招致している。

「アジアでラグビーを拡大するために19年大会は日本で開くことが必要だった。南米もアジアと似ている。ラグビー人口は少なく、大人数がプレーしているのは1~2カ国しかない。南米でラグビーをもっと拡大しなければいけない。これはビジネスの話ではない。W杯の全てがビジネスなら、毎大会をイングランドで開けばいい」

 つい先日、ピチョット氏が音頭を取って実現した施策がある。外国人選手が代表選手になるためにはその国に3年間住めばいいという条件が、5年間に延長された。適用は19年W杯後だが、海外出身選手を多く代表に起用してきた日本などに大きな影響が出るとみられている。

代表資格、5年に延長の根拠は?

――代表の資格を5年に延長するのはなぜか。

「ラグビーの長期的なインテグリティー(誠実さ、高潔さ)をとても重要なことと考えているからだ。私は日本代表を見るとき、東京、京都、長崎の大学など日本でプレーしている選手を見たい。それが子供の心を(ラグビーをやりたいと)かき立て、ラグビーを発展させる」

「クラブならOKだ。彼らはビジネスでやっているのだから。ニュージーランド人がトヨタ自動車でプレーしても、アルゼンチン人がキヤノンでプレーしても問題ない」

「ただ、選手が日本に5年間住んで日本の文化を知る前に日本代表でプレーするのは見たくない。私はとても愛国的な人間で、文化の価値を強く信じている。自分たちの文化や歴史を持つことが国際ラグビーだ。日本代表でプレーしたいと思ったら、日本に5年間住み、税金を払い、言語を知り、国歌を歌って文化の一部にならないといけない」

――今回の変更はラグビーの伝統とは反するという意見も多い。あなたの母国のアルゼンチン代表に外国出身選手がいないため、あなたが制度変更を主張しているという見方もある。

「(そのような意見が出るのは)長期でなく短期の成功を考えているからだ。これがラグビーのために正しい道でラグビーを国際化するために必要だと思っている」

――5年という期間の根拠は何か。

「いい質問だ。(ワールドラグビーが行った)分析の結果、選手がその国の文化になれるまでには5年が十分な期間だと考えている」

――将来はサッカーのように国籍を代表選手の条件にすべきだと考えるのか。

「(5年ルールと国籍の)両方をミックスさせるべきだと考えている。アルゼンチンや日本はパスポートを取るのが簡単ではないだろうが、6カ月や1年でパスポートを取れる国もある」

 5年への延長案は10日のワールドラグビーの理事会で全会一致で可決された。現行のルールは、経済的に選手を自国にとどめておけないフィジーやサモアなどの代表チームの弱体化を招いているのは確か。
 代表選手の条件として国籍の保有を義務化したフランスなど、独自のルールを設ける国も出てきたが、ピチョット氏はさらなる厳格化も示唆する。国籍を持っていても一定期間その国に住まないと代表選手の資格を得られないとなれば、ラグビーの代表選手になるための条件は多くの競技よりも厳しいものとなる。
 ピチョット氏は09年に36歳で引退してから僅か5年で国際統括団体の副会長となった。世界中のアスリートを見渡しても異例の出世のスピードとなる。

――あなたが若くして副会長になれたのなぜか。日本のスポーツ界には国際統括団体で要職に就く人材が極めて少ないのが現状です。

「理由はわからない。でも、私は物事に一生懸命取り組むのが好きなんだ。ブエノスアイレスの近くの小さな街のクラブでラグビーを始め、世界で最高のSHになるために一生懸命プレーした。そこには狂気のようなものがあった」

「引退した後、何かに同じように取り組まなければいけなかった。ロンドンの大学でマネジメントを勉強した後、メディアの会社を起業した。メキシコ、コロンビア、チリなど南米全般でプロデュースをし、300人の社員がいた」

「成功するには百パーセントの力で働くことが必要だ。毎朝7時に起き、夜12時にベッドに入るまで仕事をする。自分が言ったことを実現し、また発言して実行するという繰り返しで成長できる。過ちを起こせばすぐに正す。他のビジネスと同じだ。あとは直感も大事になる」

――スポーツ界の政治は難しいでしょう。

「いや、面白い。政治を理解し、常識を持っている必要はあるが、私はまず最初にラグビー選手やアスリートでなくてはいけないと考えている。私は選手時代に(ピッチで)やっていたように決定を下している」

ラグビーやスポーツで対人スキルを

――将来はアルゼンチン大統領にもなれるという声もあるそうだが。

「ノー。政治はとても複雑だ。スポーツ界の政治は好きだが、(普通の)政治はもっと危険だ」

――今後のラグビーやスポーツ界はどうあるべきか。社会が変わりつつあり、子供はどんどんスポーツをしなくなっている。

「我々がラグビーとスポーツを奨励し、拡大していかなければいけない理由がそこにある。自分たちが若い頃は、時間があると外に出て近所の人と遊び、対人スキルを身につけたものだった。その社会を我々は失った。私の娘は一日中ゲームをしている(このとき、彼女は隣のテーブルでスマートフォンの操作に熱中していた)」

「ラグビーは外で活動する習慣を身につけるためにいいツールになる。屋外を走り、自然を楽しめるようになるし、双方向の会話が促されることで対人スキルを身につけられる。挨拶の重要性や、互いの文化を知らなければいけないということも教えてくれる」

(聞き手は谷口誠)

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