2019年2月21日(木)

がん治療・解体新書(1) 親玉をたたけ 頂上作戦

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2017/5/15 6:30
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札幌医科大学名誉教授の佐藤昇志氏

札幌医科大学名誉教授の佐藤昇志氏

札幌市――。札幌医科大学、佐藤昇志・名誉教授の研究を元に世界初のワクチンが産声を上げる。「Or7c1」。がん幹細胞(CSC)向けワクチンだ。大日本住友製薬と共同で研究に着手、8月から医師主導で臨床試験が始まる。

「20年続けてきた研究がようやく形になりそう」。佐藤名誉教授が待ち望むCSCワクチンは、がんペプチドワクチンと呼ばれるものの1つ。特徴はがん患者の体のなかからCSCだけを選別し、攻撃する点だ。

仕掛けはこうだ。まず、CSCだけが持つ目印のたんぱく質断片(ペプチド)を体に打つ。これを樹状細胞という監視役の免疫細胞が記憶する。そうすると樹状細胞はCSCを敵であると認識、攻撃役のT細胞に教え、死滅させる仕組みだ。

動物実験で効果は確認済み。いよいよ患者で試すことになる。

■患者タイプ別に対応

札幌医大医学部の病理学第1講座は、CSCの分野で世界トップ。データも豊富だ。100種類以上のがんから取得したCSCのデータを持つ。

一言でCSCと言ってもがんが発生する臓器、またがんを罹患(りかん)した患者の属性によって様々。個性がある。患者のがんのタイプと一致したワクチンを投与しなければ、意味がない。つまり例えば胃がんを患っている患者に、肺がんのCSCを攻撃するワクチンを投与しても全く意味をなさないわけだ。

その点、札幌医科大の佐藤名誉教授らのグループには「多数のCSCのデータを取得している」。患者の状況に応じて必要なペプチドを提供することが可能だという。

佐藤名誉教授らはOr7c1の他にもまだ別のワクチンづくりに役立ちそうなペプチドを3つ確認済み。現在、第一三共など3社と共同研究を進めている。データやノウハウを蓄積しながら人が本来持っている免疫力を引き出し、一般のがん細胞はもちろんCSCもたたく治療法を確立しようとしている。

加速度的に高齢化が進む日本。がんの罹患率はますます高まる。ただ、がんを発症したからといって、それで終わりになる時代はもはや過去だ。転移を抑え、他の場所での再発を封じ込めれば、がんも決して恐ろしい病気ではない。がんの動きを止め、うまく付き合う――。その取り組みが日本の医療最前線で急ピッチで動き始めている。

がんは日本人の死因の第1位だ。国立がん研究センターの予測では、2016年に新たにがんと診断される人は前年比約2万8千人増え、101万200人となった。初めて大台の100万人を突破した。30年ごろまで新規がん患者数は増え続ける見通しだ。

16年のがん新規患者をみると男性は57万6100人、女性は43万4100人。この罹患(りかん)数は、統計を取り始めた1970年代から一貫して増えている。

部位別では男性は前立腺、胃、肺など、女性は乳房、大腸、肺などの順に多い。がんによる死亡者数も増え続け、16年の予測では前年比約3000人増の37万4千人。がん対策の重要性は増している。

 ▼がん幹細胞(CSC) がん細胞が集まってできる腫瘍の中にある細胞でがんの親玉とされる。分裂して自分と同じ細胞を作り出すほか、子分となるがん細胞を増やして腫瘍を一から構成する能力がある。
 低栄養や低酸素といった周辺環境のストレスや刺激を受け細胞内の代謝を変える「可塑性」を持っている。
 発生する臓器や組織によって遺伝子も異なるため、目印となるマーカーを発見することも難しいとされており、様々なマーカーの検索やイメージング技術の開発が必要とされている。

(大阪経済部 高田倫志、野村和博、日経メディカルCancer Review編集長 小崎丈太郎、井上孝之、前野雅弥)

[日経産業新聞 5月15日付]

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