スマホケースが不満、だから作っちゃった 平原綾香

高いスキルと愛情あふれる温かな歌声で音楽ファンを魅了するアーティスト、平原綾香さん。おっとりして見えるが、実は凝り性。それが高じて、どこへいくにも持っていくスマートフォン(以下、スマホ)と財布を1つにまとめたケースを自らデザインしてコンサートグッズにしてしまったという。さまざまな工夫は「使う人の目線で」考えて生まれたモノ。誠実で手間を惜しまないそのこだわりは、彼女の楽曲作りにも共通していた。
ぴったりのケースがなく「自分で作っちゃおう」
どこに行くにもスマホと財布は必携なんですが、私はうっかりしたところがあってどちらかを忘れてしまうことも多かったんです(笑)。それで、「スマホと財布が一体になったケースがあれば、忘れることもなくなるのに」と思い、あれこれ物色し、実際に使ったりしました。
いざ使ってみると、お札を折らないと入れられなかったり、小銭入れが付いてないなど、私には機能がいまひとつで。ならば、ファンの皆さんからも「コンサートグッズで作ってほしい」とリクエストも多かったし、一から自分で作っちゃおうって。それが去年のことです。

コンサートグッズを作る時はいつもそうなんですが、「何を作るか」からスタッフを交えてミーティングします。アイテムが決まったら、今度はデザインに取り掛かるのですが、私のオーダーはかなり細かいのでそれを形にする方はきっと毎回大変な思いをしているでしょうね(笑)。
スマホケースももちろん、細部にまでこだわりました。札入れはライブのチケットが折り曲げずに入れられる大きさが絶対条件でしたし(笑)、私は財布にお守りなども入れたいので、小銭入れにはマチを持たせたい。カード類も入れられた方がいいな、PASMOのようなカードは専用ポケットを外側につけたら電車の乗り降りも便利だなとか。

フランスの友人が「こっちでもヒットするよ」
肝心のスマホは吸盤でくっつけられるタイプにしました。それなら、機種を選ばず使えますから。写真を撮りたいときにカバーがマグネット式に外せて邪魔にならないようにするなど、使っている時のストレスが少しでも減らせるよう工夫しました。
また、どなたにも使っていただきたかったので色は男女兼用の黒がいいなとか、大人が持っても恥ずかしくない高級感のあるレザー素材を厳選するなど、見た目にもこだわっています。取り外し可能のストラップも付けて、働く女性などはランチに行く時はこれ1つをポシェット代わりに出かけてもらえたらいいな、など想像は膨らむ一方でしたね。
そうそう。個人的にはミラーを付けたのもポイントが高くて。化粧ポーチを持っていかなくても、これさえあれば「歯に青のり付いてないかな?」ってチェックできますから(笑)。本物の鏡を取り付けようかとも思いましたが、重たくなるし割れてしまう危険性もあるので、別の素材にしました。使う人の身になれば、おのずと「こっちの方がいいな」ってところは見えてくるんですよね。

手前味噌ですが、これだけ使い勝手が良くて値段も手ごろというのも自慢です(価格は5800円)。友達にもプレゼントしましたが、実際に使ってみるとすごく便利さを実感してもらえるようで「新作が出たらまた欲しい」など、とても喜んでもらっています。フランスの友人にも贈ったら「アヤカ、フランスでこれを売ったらいい。きっとヒットするよ」って。でもせっかくなら「あなたの歌はヒットするから、フランスに来て」と誘ってほしかったですよね(笑)。
おかげさまで去年のものが本当に評判が良かったので、今年は張り切ってバージョンアップ版を作りました(笑)。この1年、私をはじめスタッフが実際に毎日使ったから見えてきた反省点や要望を踏まえています。こうして毎回、前回のグッズの反省点を踏まえて作るのは楽しいですね。
欲しいと思ったらしつこいくらい調べる
スマホは必需品、必携品ですが、特にガジェットや新しいものが好きというわけではありません。
むしろ欲しいと思ってもネットなどでしつこいくらいに調べるタイプで、はやっているからと衝動的に買うことは昔からほぼ皆無。ネットなどで1円でも安く買えるサイトをくまなく探しますし、クーポンやポイントカードもよく利用します。
ポイントカードってつい忘れて出かけてしまうこともありますよね。なので、すべてのポイントカードの番号は「アイウエオ順」にスマホにメモしてあるんです。「無駄遣いはしない」が私の生きざまかも(笑)。
ときには、高価なものを買うこともあります。それが自分にとって本当に必要か、価値があるかを見極め、納得できればそれは無駄遣いではないと思うんです。

作品を通じた出会いが表現の引き出しを増やす
話を聞いていると、誠実で手間を惜しまない、真っすぐな人柄が透けて見えてくる。それは、愛の探求をテーマにした人気シリーズの最新アルバム『LOVE 2』からも伝わってくる。宇崎竜童・阿木燿子、谷村新司、宮沢和史、元レミオロメンの藤巻亮太など幅広い作家陣に楽曲提供を依頼する際、手書きの手紙で思いの丈をつづったという。
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前作『LOVE』(2016年)も素晴らしいアーティストさんに曲を提供していただき、多くの方から「いい作品ですね」と褒めていただきました。まだまだ書いていただきたい方もいたので、続編を作れると決まった時はうれしかったですね。
楽曲を書いていただきたい方には、直接お手紙を書くようにしています。日ごろから手紙を書く機会はわりと多いほうです。お気に入りはぺんてるの慶弔用の筆ペン。たとえ達筆でなくても、毛筆だとそれも味になるというか。それに、心が乱れると書に表れるとも言いますし、心が伝わるかなと思って。
メールや電話のほうが手っ取り早いのでしょうが、手書きの方が思いが伝わる気がするんです。ラブレターもEメールより手書きの方がうれしいですものね(笑)。今回は、願いを込めて星の王子様のイラストが描かれている便箋を使いました。私の勝手な思い込みですが、「星の王子様が好きな人に悪い人はいないはず。きっと願いをかなえてくださるだろう」と(笑)。
先日、完成したCDに手紙を添えてお送りしたら、原由子さんからお便りと一緒に「見つけたから」とLOVEのブローチをお贈りいただきました。原さんとは手紙のやり取りだけで、まだ一度もお会いしたことはありません。文通だけのおつきあいなんて、いつの時代だろうって言われてしまいそうですが、とってもうれしいやり取りなんです。
こうして作品を通じた様々な"出会い"によって、表現の引き出しが開く感覚があります。今、キャロル・キングの半生を描いたミュージカル『ビューティフル』の稽古の最中ですが、この挑戦によってまた新しい引き出しが増えそうだなと感じています。どんなことも真面目に、命をかけてやることが、いずれすべて音楽に返ってくると思っているんです。


(文 橘川有子、写真 藤本和史)
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