人は見かけ! ライバルに勝つ「外見力」を身につけろ
ファッションコンサルタント / 評論家 黒部和夫

人の第一印象は最初の5秒程度で決まると言われています。この短い瞬間にできることといえば、(1)口角を上げた笑顔、(2)元気な挨拶、(3)身に着けている服装、くらいでしょう。
またアメリカの心理学者、アルバート・メラビアン氏の研究によると、人の印象が影響を受ける比率は、(1)視覚情報(外見、表情)55%、(2)聴覚情報(話し方、声の大きさ)38%、(3)言語情報(話しの内容)7%――という結果でした。実際の話しの中身ではなく、外見やしゃべり方が9割以上の影響を与えているのです。まさに「人は見かけによる」といえるでしょう。
私がアパレル会社に勤めていた当時、出張先のアメリカでのぞいた書店では、すでに1980年代から、ビジネスで成功するためのハウツー本が多く店頭に並んでいました。仕事のできるビジネスエリートやキャリアウーマンは当然、戦略的に服装に気を配るべきである――という意識が当時から非常に高かったのです。日本の書店でも近年、「外見力」「パーソナルスタイリング」というテーマの本が目につくようになりました。
パーソナルスタイリングサービスも相次いで登場しています。これはファッションの購入時にスタイリストが同行して個々にアドバイスする新しいビジネスです。ヘアスタイルやグルーミングもトータルに見てくれるものや、自宅のワードローブチェックをしてくれるものなど、非常に進化をしています。東京・銀座に4月20日開業して話題を呼んでいる商業施設「GINZA SIX(ギンザ シックス)」にある上顧客のためのプレミアムラウンジ「LOUNGE SIX」でも、パーソナルスタイリングのサービスを提供しています。

男性用スキンケアでも「LAB SERIES(ラボ シリーズ)」の「マックスLS Vセラム」のように高額でも肌にハリを与える効果をうたう美容液が注目されています。女性に比べて男性の皮膚は厚く皮脂も多いのが特徴で、男性に特化した商品開発が進んでいるのです。
「外見力」とは文字通り、見かけや服装の印象を向上させる力のことをいいます。企業間大競争時代を迎え、社員の営業力向上のために「外見力」の研修や社内セミナーの開催も増えています。国際的な仕事の舞台でも有力な「ノンバーバル(非言語)コミュニケーション」として重要性を増しています。顧客様の好感 → 共感 → 信頼 →リピート に結び付けるスパイラルは、あらゆる企業に共通する目標なのです。
「外見力」を高めれば、楽しい人生が待っている
また異性にも好感を持たれた方が人生を楽しめるのは当然のことでしょう。イタリアの男性はこの点で徹底していると思います。仕事でもプライベートでも「外見力」の向上はライバルに勝つ強力な味方になってくれるのです。
ではどのようにすれば「外見力」は向上するのでしょうか?
難しくはないのですが、いくつかの知識やスキルを身に付ける必要があります。
まず手っ取り早く効果が極めて高いのが正しいサイズのスーツを身に着けることです。ビジネスパーソンにとってスーツは鎧(よろい)であって、本来男性を最も魅力的に見せるアイテムだと私は思います。
現状の日本のビジネスマンのスーツ姿を拝見していると、8割の方がサイズの合っていないスーツを着ていてもったいないなと感じます。40~50歳代の方はだぼだぼのオーバーサイズのスーツ、逆に20~30歳代の若い方はぴちぴち、つんつるてんのスーツ姿を良く目にします。
「スーツサイズ5カ条の御誓文」
そこで私は以下のような「スーツサイズ5カ条の御誓文」を提唱しています。
1. 着丈 スーツの衿(えり)の後ろから足元までを「総丈」と呼びます。ジャケットの着丈は総丈の2分の1以内でなくてはなりません。今の感覚ならさらに1~2センチメートル程度短くても良いでしょう。
2. 袖丈 スーツの袖丈はシャツの袖口が1.5センチほど出るように仕立てます。ダークスーツの袖口から白いドレスシャツの袖が見えると清潔感があり活動的に見えるためです。

3. 身幅ジャケットの身幅はウエストラインがしっかり見えるようにぴったり仕立てます。前から見た時にウエストと腕の間に隙間ができて、よりスマートに見えるのです。
4. 衿元 身体が後ろに反った反身体の方は、背中に「月じわ」というシワが出て、前から見ても苦しそうな印象を与えます。反対に猫背気味の屈身体の方は、衿が抜けて頼りない印象になります。衿元が首に自然に沿うのが理想です。
5. 裾丈 スラックスの股下は裾口が軽く当たる程度に仕上げます。裾丈が長すぎるとだらしなく鈍重な印象を与えます。裾口は裾幅21センチ前後で幅4.5センチのダブル仕上げにするのがお勧めです。
全身の見える鏡でご自身のスーツ姿を見て、以上5カ条の条件は満たしていますでしょうか? サイズは全身のシルエットという第一印象を決定する重要な要素なのでおろそかにできないのです。ここを直すだけでビジネスの場での「外見力」は飛躍的に向上するのは間違いありません。
本連載では、ビジネススーツの基本、サイズ、色、コーディネート、ワードローブ、小物使い、グルーミング、マナー、エチケット、コミュニケーションスキルなど、メンズファッションの知識をトータルにお伝えして参ります。読み進めるうちに自然と知識が身に付き、外見力の高い紳士になっているはずです。

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