2018年8月18日(土)

「次世代の先導者」東大・山口氏、認証技術を研究

2017/5/11 6:30
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 東京大学特任准教授の山口利恵(40)は、「ライフスタイル認証」と呼ぶ新たな個人認証技術の確立に挑んでいる。スマートフォン(スマホ)の位置情報や購買記録などからその人の生活パターンを見極め、本人か否かを見分ける。ネットを使うサービスなどでIDやパスワードを入力する煩わしさが解消できるとして期待を集めている。

開発に取り組む技術は「ライフスタイル認証」と呼ぶ

開発に取り組む技術は「ライフスタイル認証」と呼ぶ

 山口は1月、約5万5千人を対象とする大規模な実証試験に臨んだ。ユニークな技術の反響は大きく、13社が協力した。

 一人ひとりのスマホが示す全地球測位システム(GPS)の位置情報や電波の利用状況、購買記録など個人の行動に関わる情報を集める。普段の生活パターンや過去の履歴から本人か否かを突き止め、個人認証に生かす。「質、量ともに高いデータを得られた」と自信をみせる。

 開発する技術は、生活パターンを本人確認に活用するという。簡単な認証で買い物など様々なサービスを利用できるようにするのが目標だ。

 スマホを持っているだけで個人を特定できれば、ネットを通じて買い物をするときにパスワードの入力などがいらなくなる。実際の店舗でも、商品を持ち出して自動でスマホで決済できるといった未来の姿も想定できるという。

 津田塾大学2年生の時、数論の講義に夢中になった。だが学習が進むにつれ、何のために学ぶのかがわからなくなった。数学の理論研究そのものを仕事にはできないとの諦めに近い感情を抱いていた。

 転機が訪れたのは3年生時のロンドン大学への留学だ。出会ったのは素因数分解の難解さを利用した「RSA暗号」。数学の理論を応用できる分野があることを知り、暗号の道に進むきっかけになった。

 「研究をしたいならうちにいらっしゃい」。暗号研究の大家である今井秀樹の研究室見学で声をかけられ、博士課程では現在も身を置く東大で学んだ。「あの言葉がなければ大学を変える理由はなかった」と振り返る。

 今の研究につながる問題意識をつかんだのは、2007年から11年まで内閣官房に勤めた時だ。

 住民基本台帳カードの暗号移行に携わったが、カードの普及が進まない現状も目の当たりにしてきた。自ら役所にカード取得の手続きに向かった際は「こんなもの作っても何の意味もない」との声も耳にした。

 「人々はより便利なものを求めている」。そんな思いを抱くさなか、三菱UFJニコスから東大に寄付講座の話が持ち上がる。持ち寄られたテーマが本人認証で、山口に白羽の矢が立った。

 研究で重視するのは生のデータだ。暗号の理論研究なら机上でもできるが、今の研究ではデータ抜きには何もできない。今回の実証試験も個人認証に使える情報を追い求めた結果、5万以上の人からデータを集める規模に発展した。

 今は、生活習慣だけで個人を見分けるといっても、信じてもらえないかもしれない。行動だけで本当に一人ひとりを識別できるのか。個人のプライバシーは守られるのか。課題は残っている。

 だが、ネットサービスや通販の利用で、複数のIDやパスワードの管理に不便さを覚えた経験がある人は多い。

 「世の中は簡単な個人認証の方法を求める潮流にある。東京五輪までには実用化されるはず」。熱意を込めた表情でそう語る山口の目は確信に満ちていた。

 やまぐち・りえ 1977年1月東京生まれ。2003年津田塾大学修士課程修了。06年東京大学博士課程修了、産業技術総合研究所研究員。内閣官房情報セキリュティセンター員兼務を経て13年から現職。=敬称略

(松添亮甫)

[日経産業新聞 5月11日付]

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