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マリカー訴訟、焦点は「コスチューム」

任天堂は2月、公道カートのレンタルを手がけるマリカー(東京・品川)について、不正競争行為や著作権侵害行為の差し止めなどを東京地裁に提起した。マリカー社のビジネスが、任天堂のゲームキャラクター「マリオ」の世界的な人気や知名度にタダ乗りしていると見なしたためだ。問題の争点やキャラクタービジネスに与える影響を弁護士の福井健策氏に聞いた。

マリカー社がレンタルする公道カートは、人気キャラクターのコスチュームを着用して走行でき、訪日外国人にも人気だ(4月27日、東京・渋谷)=一部画像処理しています

――任天堂は何を問題視しているのでしょうか。

「任天堂のプレスリリースでは、3つの問題点を挙げている。(1)任天堂の人気ゲーム『マリオカート』の略称である『マリカー』を社名に用いている(2)公道カートの顧客に『マリオ』などのキャラクターのコスチュームをレンタルしている(3)コスチュームが写った画像や映像を無断で宣伝や営業に利用している――の3点だ」

――マリカーという社名の何が問題なのですか。

「不正競争防止法の『周知表示混同惹起行為』との指摘がある。混同惹起は、よく知られた商品と類似の商品名を使用することで、他人のブランドや信頼が持つ集客力などにタダ乗りする行為を指す」

「問題なのは、需要者であるカートの借り手がマリカー社を任天堂の関係会社だったり、カートレンタルが正規の許諾を得ていると勘違いしたりするかどうかだ。似ていても違いが明らかであるなら、裁判所は混同の恐れはないと判断する。商標権侵害を問題視された腕時計の『フランク三浦』は、価格などがオリジナルと明らかに違うため、シロ(商標権の侵害ではない)と判断された」

――マリカーの場合はどうですか。

「当初、マリカー社が任天堂と関係があったり、許諾を得ていたりしていると勘違いされないだろうと私は考えていた。ただ、提訴後のネット上の反応などを読んでいると『許可を取っていなかったのか』と驚く声が意外に多いのも事実だ。また、社名単独ではなく、コスチュームも併せて見れば、裁判所の判断も変わるかもしれない」

――特許庁は1月、任天堂によるレンタルカートのブランド『マリカー』の商標取り消しの申請を棄却しています。

「特許庁が否定したのは、広く一般的に知られた商品表示を指す『著名性』だ。混同惹起行為の要件である『周知性』は需要者に知られているかどうかで直接の関係はない。ただ、特許庁による著名性の否定が混同惹起行為の判断でも、ネガティブに働く可能性はある」

 ――マリオらキャラクターのコスチュームのレンタルはどうなりますか。

「こちらは著作権侵害が問われる問題だ。日本のキャラクタービジネスを支えてきたコスプレ文化全体に影響が及ぶ、非常に普遍的な事例と見て注視している」

「問題となったコスチュームがオリジナルのマリオと類似しているのは、赤い帽子に『M』の文字、青いオーバーオール、白い手袋、そしてヒゲだ。こうした要素を体形がまったく違う人たちが着る行為が、著作権侵害にあたるかどうかだ」

骨董通り弁護士事務所の福井健策弁護士

「コスプレの半分はこの(オリジナルをまねたコスチュームを着用する)スタイルで、もう半分は丸ごと着ぐるみのパターンになる。着ぐるみが著作権侵害になってしまうのは仕方ない。しかし、パーティー衣装程度の(本物との区別が難しいほど完成度の高いものではない)コスチュームを身につけた場合はどうか。問題の衣装はマリオ以外の何物でもなく、マリオを意図するのは間違いないだろう。ただ、意図は著作権侵害に関係ない」

――過去にはどのような判例が出ていますか。

「『マンション読本事件』と『博士イラスト事件』が有名だ。いずれも共通点が多く、よく似たイラストが勝手に使われているとして、著作権侵害が提訴された。しかし、裁判所はイラストの要素は『ありふれたもの』と見なし、著作権侵害ではないと判断した」

「こうした判例と比べ、マリカー社のコスチュームは侵害と判断するに足るほどオリジナルに似ているだろうか。赤い帽子に青いオーバーオールといった程度の衣装の組み合わせを、任天堂は独占できるのか。ここで問われているのは、そういう問題だ」

――どのような影響が考えられますか。

「著作権侵害を認めれば、個人も著作権上の公衆送信権の侵害にあたるのを恐れ、コスプレ姿をインターネットで配信できなくなってしまう。キャラクタービジネスの裾野拡大に貢献してきたコスプレ文化が萎縮する可能性がある。一方、これが侵害でないなら、コスプレ衣装を勝手に製作して稼いでもいいということになってしまうかもしれない」

「実はコスプレの著作権侵害については、裁判で正面から争われたケースはまだない。著作物の利用と保護のバランスを取った法律を作るのは難しく、これまではあえてグレーのまま放置してきた。(所管官庁などが)白黒つければ、一気に従うのが日本人だ。今回のケースも、裁判で白黒はっきりさせてしまうのが良策なのだろうか。別の解決策を考えてほしい」

(聞き手は企業報道部 新田祐司)

[日経産業新聞 5月11日付]

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