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難度か完成度か 五輪連覇狙う羽生の選択は?

4回転ループを跳ぶと決めた2016~17年シーズンの羽生結弦(ANA)は、シーズン終盤の3大会連続でループを含む4回転ジャンプをフリーで計4回成功し、18年平昌五輪へいい形で締めくくった。だが、ショートプログラム(SP)、フリーともにミスなく終えた大会はなかった。「五輪で金メダルを取りたいと思ってきた」と語る羽生は4年間の集大成に向け、難しいジャンプに挑み続けるのか、それともプログラムをまとめる方向にシフトするのか。

SPで1、1、2、2。フリーでは2、2、3、4。14年ソチ五輪から毎年、羽生が跳ぶ4回転ジャンプの回数は増えていった。昨季、フリーで4回転を4回跳ぶ猛者、金博洋(中国)が登場すると、15、16年世界王者のハビエル・フェルナンデス(スペイン)は現状(SP、フリー計5回)を維持して完成度を高める方向へと重心を移したが、対照的に羽生は難度を上げて金、宇野昌磨(ともに計6回)、ネーサン・チェン(米国、計8回挑戦)ら10代選手に負けじと4回転ジャンプの回数を増やしてきた。

「好き嫌いの問題ですよね」

4回転を跳ぶか、プログラムの完成度を高めるかは「好き嫌いの問題ですよね」。4月、3年ぶりに世界選手権を制した後、羽生はこう語った。「ジャンプをきれいに跳べれば(ジャンプとジャンプの間のつなぎである)トランジションもいいと思われ、演技構成点も評価される」とも。このまま10代の3選手とのジャンプ合戦を続けるように見えた。

今回の世界選手権では、4回転ジャンプの失敗が響いてSP5位。フリーは4つの4回転をいずれもクリアに決めた。「完璧」といえる演技で世界歴代最高の223.20点を記録し、同じく4回成功した2位の宇野に8.75点差、合計321.59点でSP1位との10点差を逆転した。改めてジャンプの持つ得点力を確信した一方で、羽生はあることにも気づいている。「ジェーソン・ブラウン(米国)は4回転なしで7位に入った。(4回転をフリーで3回しか跳ばない)パトリック・チャン(カナダ)にも得点が出ていた。この辺は新たに考えなくてはいけない」

その3週間後、深く考える事態が起きた。世界国別対抗戦で、SPで4回転が一つも決まらず7位。フリーでは4回転に5回挑戦して4つ成功させて1位になったが、本人も「SPへの苦手意識が出てきた」とこぼしたほど。「考えてみれば、(昔の)僕って難しいジャンプを跳ぶというより、スピンや表現などのトータルパッケージでプログラムを見せるタイプだったんですよね。気持ちよく跳べるもの、そういうものを追求してもいいかな」

プログラムをまとめる方向に振れたように見えたが、フリーの翌朝の練習では4回転ルッツやフリップの練習に取り組んでいた。「来季に入れることはない。ジャンプはスケートでしか味わえないし、(できたときの)達成感にひかれる。難しいジャンプを練習するのは楽しいから」。何をどう跳ぶべきか、試行錯誤しているようだった。

ソチ五輪以降、フィギュアスケートは競技として急速に進化した一方、表現面が置き去りにされがちになった。4回転を跳ぶ選手ほど「トランジションで少し(振りつけを)抜いている。いけないんだけれど、ステップで休む感じになっている」(宇野)という状態にある。フィギュアのもう一つの醍醐味である「感情」があまり観客に伝わらず、「観戦」ではなく「鑑賞」の楽しみが薄れているのは否めない。

技への加点と演技構成点の戦い

国際スケート連盟は平昌五輪後に演技構成点に配慮したルール改正をにおわせており、審判員も今季は演技構成点を微妙に下げてきた。羽生のフリー自己最高得点である今回の世界選手権で、4回転ジャンプを4回(難度の高い順にループ、サルコー2回、トーループ)跳んでノーミスの演技に対し、9人の審判員が5項目について採点する演技構成点の10点満点は45個のうち12個にとどまった。それ以前の自己最高得点だった15年グランプリファイナルでは、4回転3回(サルコー、トーループ2回)のノーミスの演技に対し、10点満点は24個あった。4回転ジャンプへの新鮮さが薄れてきた現在、「技への加点と演技構成点の戦いになってくる」と宇野も予測する。

「伏兵」だった4年前の羽生のように、宇野ら10代の3選手は王者を上回るため全力で攻めるしかなく、目指す方向はシンプルだ。羽生も「すべての選手が僕の追いかける背中です」と挑戦者を強調するものの、前回覇者の胸中は10代の3選手ほど単純にはいかない。

平昌五輪に向けて、羽生は16~17年シーズンのジャンプ構成を大きく変えず、プログラムをまとめにいくのが妥当な選択という意見もある。しかし、サッカー日本代表の本田圭佑や五輪2大会連続2冠の北島康介氏のように、羽生の最大の武器は「自分が絶対1番になる」と信じることができるメンタリティーだ。手堅さより挑戦する気持ちを常に持ち、攻める方が性に合っているだろう。そうしたプログラムを準備できるかどうかが、五輪連覇のカギになるかもしれない。

(原真子)

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