2019年8月23日(金)

著者は語る 総合商社の強さと日本企業の可能性  専修大学教授・田中隆之氏

2017/5/8 6:30
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総合商社が日本独自の業態として国際競争力を維持し続けている。「総合商社は商権獲得や商品取引(トレード)中心のビジネスから、バブル崩壊を経て『総合事業運営・事業投資会社』へと生まれ変わった」と説くのが専修大学経済学部教授の田中隆之氏だ。韓国や中国も追随できていない業態といわれる。新シリーズ「著者は語る」第1回は、田中氏が自著「総合商社――その『強さ』と、日本企業の『次』を探る」(祥伝社新書)を通じて総合商社の方向性を解説する。

「資源価格が下がっても総合商社はびくともしないと思う」。専大神田キャンパス(東京・千代田)の小さな研究室で著者はこう語り始めた。田中氏が祥伝社から同書の執筆を依頼されたきっかけは、2016年3月期決算で、業界不動の1、2位の座にあった三菱商事三井物産が連結最終赤字となり、伊藤忠商事が連結純利益で首位に躍り出たことだった。14年から資源価格が大幅に下落し、資源分野に強みを持つ三菱商事と三井物産が影響を受けた。しかし「今の総合商社は、投資対象を適時入れ替える投資リサイクルとリスク管理の仕組みを築けている」と説く。17年3月期は両社とも最終黒字になったもようだ。こうした状況の中で3月、同書は出版された。

田中隆之著:総合商社――その「強さ」と、日本企業の「次」を探る
(祥伝社新書)

田中隆之著:総合商社――その「強さ」と、日本企業の「次」を探る
(祥伝社新書)

同書は経済史の視点から、戦前と戦後の両方を対象に商社の盛衰を描き、まずは総合商社とは何か、なぜ日本にだけ存在するのかを分析している。学術書並みの専門的な内容もふんだんに盛り込み、新書にしては重みのある本だ。「商社勤務の人にも読んでもらえる内容」と田中氏は話す。それもそのはず。同書の前身となった12年発行の田中氏の著書「総合商社の研究」(東洋経済新報社)は「10~11年度に商社業界団体の日本貿易会が行った『総合商社原論特別研究会』に私が主査として参加したのが執筆のきっかけ」だったからだ。この研究会は各社の役職員が委員として参加し、2000年代以降に業態が大きく変化した総合商社の本質を商社内部の人々が自問し、田中氏とともに分析・研究する場だったという。

田中氏自身は銀行のエコノミスト出身で、日本経済論と財政金融政策が専門。商社勤務の経験はない。だが第三者の視点による先入観のない分析は、総合商社の本質を浮かび上がらせる。かつての十大総合商社体制からバブル崩壊後の業界再編を経て七大総合商社体制となった現在の業態を「総合事業運営・事業投資会社」と定義し、「関係会社の活用」「バリューチェーン戦略」「投資のリサイクル」の3つを強さの本質と指摘する。特に、製品の開発から部品や資材の調達、生産、販売に至る各段階で「製品の付加価値を高めるプロセス全体」を意味するバリューチェーンは、「他の業界も学べる事業モデルだ」と主張する。日本企業の可能性と将来像も垣間見ることができる、総合商社という日本独自の業態。その本質を知りたい読者が手に取るべき1冊といえる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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