伸ばした爪から正確なシュート バスケ折茂武彦(中)
レバンガ北海道代表兼選手

2017/4/29 6:30
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一般男性なら1~2ミリくらい。しかし、折茂武彦の右手中指の爪は4~5ミリの長さがある。奇異の目で見られることもしばしばだ。「ケガさせる可能性があって、僕らの時代は爪を伸ばすのはいいことではなかった。外国人選手になぜ伸ばすんだと言われたこともある」。それでも、正確なシュートにはこの爪が欠かせないのだという。

理想的なフォームでシュートを打つと、ボールが爪に引っかかった音がするという=共同

理想的なフォームでシュートを打つと、ボールが爪に引っかかった音がするという=共同

今季の3点シュートの成功率は45パーセント。Bリーグ1部で100本以上打った83人の中でトップに立つ。折茂のフォームではギリギリまでボールに触れているのが中指。「最後の最後まで指でリリースできたとき、入る確率が一番高い」。爪が長ければ、長く球に触れていられる。もう一つ大事なのが音。「シャカッという爪に引っかかった音がすると、本当に指の先からボールが出ている」

爪の沈黙はフォームの乱れの知らせ。手当ての仕方はシュートがそれる方向で違う。左右へのずれは、やや重症。「体のバランスが崩れている」ため、マッサージなどを受ける。

前後のずれは「力の調整をすればいいだけだから気にしない」。距離感の照準合わせには絶対の自信がある。この能力を測る1つの目安があるという。「ゴミ箱にゴミを投げてショート(距離が短い)したとする。次にまたショートならその人には修正能力がない」。「能力」と言っても、天性のものだけではないというのが持論だ。

得意な部分を生かす

先日のバスケ教室での出来事。シュートが手前に落ちた女の子に「強く打って」と言うと、距離は合ったが今度は横に外れた。「次は真っすぐ行くよ」と声を掛けると、本当に言葉通りになった。「ということは、打つ時に意識するかしないかだけ。外れた時に『曲がっちゃった』くらいに思っていてはダメ」

センスがあっても、深く考えて投げないとシュートは上達しない。折茂はこの思考の量で誰にも負けない自信がある。毎年、シーズン開幕前に数十本、シュートの打ち込みをする。「試合中に自分がボールをもらえる位置からしか打たない。心拍数を上げたり、(ダッシュをして)足に負担を掛けたりして試合通りの状況でしか練習しない」

試合中、シュートに持って行くまでの駆け引きもそう。各人が決まった動きをするセットプレーの最中。折茂は人さし指を振って味方に叫ぶ。「違う違う!」。舌打ちも鳴らす。相手はプレー失敗だと気を緩める。その隙に予定の場所へ急げば、好機の到来だ。

190センチ、75キロはバスケでは平凡。「足が速いわけでも高く跳べるわけでもない。ドリブルも下手」。弱点があれば克服したくなるのがアスリートなのに、折茂は「苦手分野を克服しようとか、余計なことは考えたことがない」と断言する。「そこに時間を掛けるより、シュートと駆け引きという得意な部分を生かすことしか考えなかった」

自分という原石を磨いて角を取り、日本一のスコアラーの輝きを得たのではない。伸ばし続けてきた爪と同じように、凸凹を逆に先鋭化することで生き残ってきた。(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊4月25日掲載〕

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