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アイデアは若手に任せろ 日本車初エアバッグ開発者

CTO30会議(10)

日経BPクリーンテック研究所

本田技術研究所で1987年に日本初の量産車向けエアバッグの開発・市販に成功するというイノベーションを起こした小林三郎氏。大半の経営陣が反対する中、粘り強く開発を続け、製品化にこぎ着けた。その経験から語るイノベーションの極意は、"本質"と"コンセプト"を徹底的に考えることだ。では、従業員にそれを促すには、経営陣や組織はどうあるべきか。現在、中央大学大学院フェローの小林氏に聞いた。

――エアバッグの開発では、当時の経営陣の大半が反対したと聞きました。それが今や、ほとんどの自動車が標準装備しています。なぜ、こうしたことが起こるのでしょうか。

写真1 中央大学大学院フェローの小林三郎氏(撮影:新関雅士)

小林 当時、久米是志専務(後にホンダ3代目社長に就任)以外の経営陣は全員反対しました。豊富な経験や知識を持つ人たちは、いくらでも、できない理由を頭に浮かべてしまいます。そうした例はエアバッグ以外にも、数多くあります。例えば、ソニーのウォークマン。これも全役員、技術の専門家が、録音機能のないテープレコーダーは売れないと言って大反対だったと聞いています。しかし実際はご存じの通り世界的大ヒットになりました。

何か革新的なこと、イノベーションを起こそうと思ったら、10人中9人が賛成するようなものでは、既に遅すぎるのです。9人が反対するようなものの中にダイヤの輝きを持った発明があるのです。

知識や経験が豊富になる40代以降は、それらがかえって邪魔になり、ダイヤの輝きを持つアイデアを生み出せません。アイデア出しは若手に任せたほうがいいのです。だから本田技術研究所では「40歳定年制」という考え方をしていました。もちろん、40歳を過ぎたらやるべきことがなくなるのかといえば、そんなことはありません。役割を、イノベーションを考えることではなく、イノベーションをマネージメントすることに変えていけばいいのです。

――イノベーションをマネージメントするにはどうすればいいのでしょうか。

小林 まず、イノベーションはオペレーションとは違うということを認識しなければいけません。オペレーションは論理的に正解を追求できるもので、必ず正解があります。しかし、イノベーションを論理的に作り出すことはできません。必ず実現する保証もありません。せいぜい全体の10%くらいしか成功しないでしょう。過去の事例が当てはまらないのがイノベーションなのです。

実現する保証がないわけですから、それは大きなリスクを伴います。未来価値の大きいことで、他社がやっていないことに、リスクを取って挑戦することが求められます。そうした判断をリーダーがしなければいけません。それができないリーダーは、イノベーションをマネージメントできません。

――イノベーションをマネージメントするうえで、数あるアイデアの中から、どれを推進し、どれを却下するのか、どのように判断すればいいのでしょうか。

小林 アイデアを出してきた若手に本質的な質問を投げかけることです。そうすることで、その若手がどれほど熟慮してきたか、どれだけ真剣に考えているかを見抜くことができます。繰り返しますが、まだ見ぬ価値を生み出そうというのですから、内容の良し悪しで判断しようとしてはいけません。

私がエアバッグについて説明したとき、久米専務から「高信頼性確保のキー要素は何か」と聞かれました。予期せぬ質問でしたが、「故障の極小化、故障時に最低性能を保持、故障の予見性」となんとか3つ挙げました。すると専務は、すかさず「では、4つめと5つめは何か」と尋ねてきます。答えられずにいると、専務は「何も分かってないな」と言うと、「ほんとにこの人に開発を任せておいて大丈夫なのか?」とつぶやきながら部屋を出ていきました。打ちのめされた気持ちでした。でも、こうした質問をすることで、熟慮することが大切だと教えてくれたのだと思います。

イノベーションにおける熟慮とは、要素を無数に挙げて、それらを整理しながら、最終的にいくつかの本質的な要素にまとめ上げることです。そうすることで、物事の本質を捉えることができるのです。

――本質を捉えること以外にイノベーションに必要なことは何でしょうか。

小林 コンセプトです。プロジェクトリーダーを務めた人たちは「良いコンセプトを作れれば、必ず良い商品・技術ができる」と口を揃えます。良いコンセプトは物事の「違い」を生み出します。「差」は一瞬で追いつかれてしまいますが、「違い」は簡単に真似することはできません。

――イノベーションの種をどうすれば見つけられるでしょうか。

写真2 熟慮することの大切さを語る小林氏(撮影:新関雅士)

小林 まず、できない理由を考えることをやめることが大切です。「あんなもの売れない」「ここが問題だ」と言う人に限ってイノベーションは起こせない。宗一郎氏も、「なぜダメかを考える暇があったら、どうやって解決するかを考えろ」と、よく怒鳴っていたものです。できない理由が頭に浮かんだら、それを解決する方向へと切り替えなければいけません。

では、その種をどうやって見つけるか。答えは、技術ではなく、どんな"こと"をしたら人々に喜んでもらえるかを突き詰めて考えることです。宗一郎氏は「研究所は技術の研究をするところではない。人間の研究をするところだ」と言ってました。人間の心を研究し、人間が求める価値を見つけることが大切なわけです。価値が見つかったら、それをどのように達成するかを考えます。技術はそのための手段でしかありません。

企業の存在意義は新しい価値を生み出して、世の中の人々に喜んでもらうこと。こう言うと、誰もが同意します。しかし、「では10~20年先の主要な時代価値を3つ挙げろ」と質問すると、大抵の人は答えられません。それは、真剣に考え、議論したことがないからです。潜在的に求められている価値を見つけるためには、本質をつかむために、とことん議論するしかありません。

ホンダには、とことん議論する手法として「ワイガヤ」があります。3日3晩、徹底して話し合う場です。これを繰り返して、本質を見つけ出していくわけです。私がいた頃は1人が平均して年4回、参加しました。20回参加して白帯、議論をリードする黒帯には40回以上参加する必要があると言われています。

価値を見つけるために、もう一つ大切な考え方があります。「三現主義」です。現場へ足を運び、現物を見て、現実を知る。そこから、何が大切なのか、何があればみんなが喜ぶのかといったことを見い出すわけです。

例えば、今、世の中の課題は何かと尋ねると、多くの人が高齢化と答えるでしょう。だとすれば、高齢者が望むものが、これからの時代の新しい価値になり得ます。にもかかわらず、「おばあちゃんの原宿」と言われる巣鴨の地蔵通商店街(とげぬき地蔵)に行ったことがある人は必ずしも多くありません。行ったことがあっても、1度や2度が大半。それでは高齢者の望むものは分かりません。何度も繰り返し訪ねて、腰を据えて観察すべきです。現場に足を運んで初めて気がつくことは多いのです。

創造はねつ造の一歩手前です。「確かにそういうことあるよな」といった暗黙知を見つけること、それが新しい価値のヒントになります。既に存在しているものでは創造とは言えません。かといって、まったく無いことを言ったらウソになります。「無いに近いけれど、あってもおかしくない」というところがポイントです。

――CTOはイノベーションを生み出すために、どういう役割を担えばいいですか。

小林 先ほども述べましたが、アイデアを出すのは若手に任せた方がいいのです。そのためにCTOは、若手がアイデアをどんどん出せるための環境を整えるべきです。出てくるアイデアのうち8~9割は、他愛のないものかもしれません。でも、それでもいいのです。今のことは若手にしか分からないのですから。

アイデアが出てきたら、CTO(最高技術責任者)がやるべきことは、その若手に本質的な質問を投げかけることです。若手が答えているときの態度(型)や目を見ることで、それがダイヤの原石なのかどうかを見分け、判断することがCTOの役割なのです。そして、若手が目を輝かせて3回言ってきたら、最後にはだまされてやることが重要です。

――最後に、イノベーションを起こすために最も必要なものは何ですか。

小林 これは誰に聞いても同じ答えが返ってきます。イノベーションを起こすために最も大切なものは"想い"です。やはり実現したいという担当者の想いが無ければ、イノベーションは実現しません。宗一郎氏の言葉を借りると、「失敗することを恐れるより、何もしないことを恐れろ」です。

(聞き手=日経BP総研 クリーンテック研究所 菊池珠夫)

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