/

任天堂Switch分解、3万円なのに「推定原価250ドル」

柏尾南壮 フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ディレクター

日経テクノロジーオンライン

任天堂が2017年3月3日に発売した新型ゲーム機「Nintendo Switch」(価格は税別で2万9980円、米国では299.99ドル)。一新された形状、先進的な電源環境、将来の拡張性など、多くの魅力と可能性を秘めた意欲作だ。著者と付き合いのある部品メーカーは、2018年までの累計販売台数を「およそ3000万台」と予想する。今回は、このSwitchの内部に迫る。

Nintendo Switch本体部分の外観。タブレットのような形状をしている。両側にコントローラー「ジョイコン」を装着すると、先代の「Wii U GamePad」のようになる

Switchの本体は、箱に入ったタブレット端末のような形状をしている。箱にあたる部分が「ドック」だ。ドックから取り出した本体の重量は、着脱可能な専用コントローラー「ジョイコン」を2個取り付けた状態で約398グラム弱、外した状態で約297グラム、厚さは13.9mmだ。先代の「Wii U」の画面付きコントローラー「Wii U GamePad」の重量500グラム、厚さ4cm以上に比べて、大幅に軽く・薄くなった。

タッチパネルもWii Uの抵抗膜方式から、スマートフォン(スマホ)で広く使われている薄型化に適した静電容量方式となった。それでもiPadなど本物のタブレット端末に比べると少々厚い。

これには、2つの理由が考えられる。1つは、「USB Type-C」のソケットやゲームカセットを入れるスロットがあること。もう1つはメインプロセッサーである米NVIDIA(エヌビディア)製チップの熱対策として、銅の熱伝導パイプと冷却ファンを搭載することだ。NVIDIAのチップは優れたグラフィックス性能を持つが、それと引き換えに熱放出量が大きいことで知られている。

本体両側にジョイコンを装着したところ
本体部分を分解したところ。構造はタブレットに類似している。厚みが増した理由の1つは放熱ファンの搭載

USBでの電力供給や充電でロームのICが活躍

USB Type-Cが登場して数年が経過した。USB Type-Cは開口部の大きさを既存のMicro-Bコネクター並みに小さくしながら、最大データ伝送速度10Gビット/秒のUSB 3.1、さらに大容量の電力を供給する「USB Power Delivery(USB PD)」に対応する。

Switchは、このUSB PDで最大100W(20V/5A)までの受給電を可能にする次世代電源を備える。主要な役割を果たすのは本体のメイン基板に搭載された、ロームの電力受給電コントローラーIC「BM92T36」だ。

ロームのプレスリリースによると、BM92T36はUSB Type-Cの受給電力を、従来の3V/7.5Wから5V/100Wにまで引き上げる。これでノートパソコンやタブレット端末にもUSB Type-C経由で充電可能になった。現在のノートパソコンはメーカーごとに電源端子の形状が様々だが、今後はUSB Type-Cのソケットに統一されていくかもしれない。

このほか、BM92T36はUSBの通信信号線に電力と映像信号を同時に流す「Alternate-Mode制御」にも対応している。この機能を使えば、RGBなどの映像ポートを別途搭載しなくても、充電しながらプロジェクターに接続できるようになるという。

本体メイン基板(PCB#1)のバッテリー側。プロセッサーはNVIDIAのカスタム製品と見られる。同社のプロセッサーは優れたグラフィックス性能を持つが放熱量が大きい傾向がある
本体メイン基板(PCB#1)のディスプレー側。下側の大型ICの詳細は不明だが、その裏側にゲームカセットを装着するスロットに接続するコネクターがある。このため、ゲームソフトの認証やゲーム記録の保存を担当している可能性がある
ゲームカードスロットを搭載する本体サブ基板(PCB#2)。ゲームソフトは、カセットを購入するかオンラインショップでダウンロードして入手する
フラッシュメモリーを搭載する本体サブ基板(PCB#3)。ダウンロードしたゲームは32Gバイトのフラッシュメモリーに保存される

ゲーム機は、ディスプレーを常時点灯した状態で動画データを表示するため、バッテリーの消耗が早い。バッテリーが空になるのは仕方がないとして、一息入れている間に短時間で充電が完了すれば理想的だ。Switch本体のリチウムポリマー2次電池は4310mAhと大容量だが、フル充電は3時間ほどで済む。ここでもロームのBM92T36が活躍している。

ただし、大容量の急速充電はバッテリーに対する負荷が大きい。本体部分のバッテリーの厚みは5.83mmで、ノートパソコンやタブレットで使用されているものより厚みがある。これは安全対策として、セパレーターなどバッテリー主要構造物の厚みを十分に確保したためかもしれない。

バッテリーは3.7V、4310mAhの大容量。少し厚みがある。安全に急速充電するために、セパレーターなど重要部品の厚みを大きく取った可能性がある
バッテリーの厚み

任天堂は長らくVR(仮想現実)やAR(拡張現実感)の研究をしてきたことで知られ、関連特許も出願している。Switchはカメラを内蔵せず、VR/AR関連の機能は特に搭載していない。

Switch本体を収めるドックの内部は、テレビと接続するHDMI関連の機構があるだけでほぼ空になっており、将来の機能拡張に向けたスペースを十分に残している。ここにVR/AR専用の処理ユニットを搭載したり、ハードディスクやSSD(半導体ディスク装置)などの大容量記憶装置を増設することも可能だろう。

ドックの外観。ドックには本体の充電、映像をテレビに伝送する機能がある。中は空洞が多い。将来の機能拡張ではここに大型部品を増設するのだろう
ドックを分解したところ

推定原価は257米ドル

Switchの推定原価は分解調査の結果、タブレット本体と充電ドックが約167米ドル、2個のジョイコンが約90米ドル。合計は約257米ドルである。

これは実売価格から予想される原価より高額だ。特にジョイコンは小型なので原価はもう少し安いと予想していたが、片側の筐体(きょうたい)だけで20個近い小型パーツがある。

ジョイコンはパーティーゲーム集「1-2 Switch」の卓球ソフトのように単体で使ったり、Switch本体の両側に装着して両手で使用したりする。こうした様々な使い方を実現するために、レールやユニットのような部品点数が増加したのだろう。

ジョイコンの振動モーター。Wii U GamePadの偏心モーターに代わって、重りを横滑りさせるタイプの振動モーターを採用する。アルプス電気製と推定

家庭用ゲーム機のフルモデルチェンジのサイクルは、4年から5年に1度と言われる。Switchはテレビに接続したり、外に持ち出したりと様々な利用形態に対応し、先進的な電源機構、将来の拡張性などを備える。ゲーム機器として興味深い構造を持ち、ユーザーが長期間楽しむための工夫が随所に散りばめられている。

ゲーム機の外観やハードの完成度は確かに重要だが、成否は何と言ってもゲームソフトの品ぞろえにかかっている。今後どれだけの人気ソフトが登場するのか、注目される。

柏尾南壮(かしお・みなたけ)フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ディレクター。1974年タイ・バンコク生まれ。1994年10月にフォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ設立。顧客の多くは海外企業。情報通信機器からエアコンまで多種多様な製品の分解調査や分析、原価計算などを行っている。モバイル広告関連技術の特許も保有。著書は「iPhoneのすごい中身」(日本実業出版社)、「スマートフォン部品・材料の技術と市場」 (共著・シーエムシー出版)

[日経テクノロジーオンライン2016年3月29日付の記事を再構成]

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連企業・業界

企業:

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン