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W杯出場一番乗り ブラジルの正念場はこれから

サッカージャーナリスト 沢田啓明

3月下旬に行われたサッカーの2018年ワールドカップ(W杯)南米予選の第13節と14節で、ブラジルが見事な試合内容で連勝。4節を残して4位以内を確定し、予選を勝ち抜いて本大会出場を決めた世界最初の国となった。いずれも決してたやすい試合ではなかっただけに、ブラジルの強さが一層際立った。

選手、慌てずひるまず

23日に行われたアウェーのウルグアイ戦では、昨年9月にチッチ氏が監督に就任後の8試合で初めて先制を許した。それも左SBマルセロ(レアル・マドリード)のミスがからんでの失点だったが、ブラジル選手は全く慌てなかった。

19分、左サイドを突破したFWネイマール(バルセロナ)からのパスを受けたセンターハーフのパウリーニョ(広州恒大)が強烈なミドルシュートをたたき込んで同点。52分、CFフィルミーノ(リバプール)のシュートをGKが弾いたところをパウリーニョが押し込む。75分には、自陣からのロングキックを追ってマーカーに走り勝ったネイマールが飛び出してきたGKの頭上を抜く鮮やかなループシュートを決める。さらに、後半の追加タイムも右からのクロスをパウリーニョが胸で押し込んで自身のハットトリックを完成。予選の残り6試合のうち最も困難と思われていた強豪相手のアウェーゲームに4-1と圧勝し、敵地のサポーターを沈黙させた。

その5日後、ブラジルはサンパウロでパラグアイと対戦。試合会場はかつてチッチ監督が多くのタイトルをもたらしたコリンチャンスの本拠地である。

パラグアイは伝統的に堅守カウンターが武器で、ホームに迎えると非常にやりにくい部類の相手だ。

試合の序盤は、ファウルを交えた激しい守備でパラグアイがブラジル選手のスピードと技術に対抗し、ほぼ互角の展開だった。しかし34分、ブラジルはMFフィリッペ・コウチーニョ(リバプール)が右サイドを突破して中へ入り込み、パウリーニョのリターンを受けて左足でファーサイドの隅へ流し込んだ。

その後、ネイマールがPKを獲得したが、GKに阻まれる。嫌なムードになりかけたが、ブラジル選手はひるまなかった。

64分、ネイマールが自陣の深い位置でパスを受けると、中へ入ると見せかけて狭いタッチライン沿いのスペースを強引に突破し、別のマーカーをスピードでぶっちぎって疾走。内側へ切れ込むと、3人に囲まれながらシュート。これがDFに当たってコースが変わり、ゴールに飛び込んだ。約70メートルもの長距離ドリブルからの圧巻のゴールで、相手に大きなダメージを与えた。さらに、85分にはマルセロが複数の選手との素早いパス交換から左サイドを抜け出し、最後はパウリーニョからのヒールパスを左足で軽やかに流し込む。いずれも意外性に満ちた美しい得点で、3-0の快勝に地元観衆は大喜びだった。

試合後、チッチ監督はスタジアム内で記者会見を行っていた。他試合の結果、ブラジルのW杯ロシア大会出場が確定したことを知らされると急に表情を緩めて安堵したような笑みを浮かべ、両手を上にかざして「神様、感謝します」とつぶやいた。就任後、連勝を続けて首位に立っていても、ブラジル代表を率いる精神的重圧は並大抵ではなかったことをうかがわせた。それでも「我々はもっと成長しなければならないし、それは十分に可能」と気を引き締めていた。

監督交代、全く別のチームに

今回の南米予選でドゥンガ前監督が率いた第6節までの成績は、2勝3分1敗(得点11、失点8)。参加10チーム中6位に沈んでいた。しかし、チッチ氏が監督に就任してからは8戦全勝(得点24、失点2)で、2位に勝ち点9差をつけて首位を独走。1試合当たりの平均得点が約7割増え、平均失点は約8割減っている。つまり、全く別のチームに作り変えた。

チッチ監督はフォーメーションを4-1-4-1に変え、前任者が起用しなかったCFガブリエルジェズス(マンチェスター・シティー)、パウリーニョ、マルセロらをレギュラーに抜てき。高い位置でのプレスで相手ボールを奪い、素早いパス交換から相手守備陣を崩し、常に試合を支配するスタイルを植えつけた。前任者が守備の強化に重きを置き、カウンター中心の攻撃を志向したのに対し、守備に気を配りながらもブラジルサッカーの最大の特長である技術、スピード、アイデアを生かした攻撃で勝負する。選手たちは、ブラジル伝統のアグレッシブな攻撃サッカーに回帰したことで気持ち良く伸び伸びとプレーしており、それが好結果につながっている。

とはいえ、これで来年のW杯における好成績が約束されたわけでは全くない。ブラジルはW杯前年に行われるコンフェデレーションズカップで3連覇しながら、大会前の1年間にチーム力を高めることができず、06年大会から3大会連続で優勝を逃している。ここからがブラジルにとっての正念場だ。

チームが目指す方向性は明確で、すでに土台もできている。今後は南米予選の残り4試合を若手・中堅を試す場として活用し、その後は欧州の強豪との強化試合を多く組んでさらなる進化を目指す。

ブラジル国民は、チッチ監督が久々にブラジルらしい魅力を満載した美しいチームをつくり上げ、来年、ロシアの地で世界中のサッカーファンを魅了したうえで6度目の優勝を達成することを切望している。

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