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オープンイノベーションが不可欠な時代 味の素

CTO30会議(9)

日経BPクリーンテック研究所

味の素は、100年前に"うまみ"成分のグルタミン酸で事業を開始し、食品から医薬品、化粧品、電子材料へと領域を広げてきた。アフリカや東南アジアに市場を拡大する一方で、国連との協力による「ガーナ栄養改善プロジェクト」やベトナム教育訓練省との共同での「学校給食プロジェクト」を実施し、各国の食の課題解決にも取り組んでいる。こうした活動を支えているものの一つは、海外の研究者とのオープンイノベーションだ。海外研究者との強いネットワークを持つ同社の尾道一哉常務執行役員に、オープンイノベーションの狙いや成功の条件などについて聞いた。

――オープンイノベーションの目的は何ですか。

写真1 味の素 尾道一哉常務執行役員(撮影:新関雅士)

尾道世の中の変化が激しく、商品が多様化して、味の素1社では技術開発できない時代になりました。技術の棚卸を定期的に実施して、社内の技術マップを作成し、強化する分野はどこか、足りない技術は何かを見定めて、当社に欠けているピースを外部から得るためにオープンイノベーションを推進しています。外部組織と連携して、外から良い技術やアイデアを取り入れるにはオープンイノベーションが欠かせません。

オープンイノベーションのパターンは決まっていません。ベンチャー企業と共同で基礎研究を行うこともあれば、他の企業と互いの足りない部分を補完し合いながら具体的な商品を開発し市場投入するケースもあります。ガーナでは、国連と協力して慢性的な栄養不足という社会課題の解決に取り組んでいます。

オープンイノベーションは、パートナー選びが重要です。お互いの思惑が一致しないと失敗してしまうからです。同じビジョンを持っていることは必要条件です。

――オープンイノベーションを進める体制について教えてください。

尾道 味の素には3つの研究所があります。食品研究所、バイオ・ファイン研究所、イノベーション研究所で、研究所の従業員は合計で約1000人。そのうち研究者が800人以上です。グループ企業を含めて世界全体では、約1700人の研究者がいます。

研究テーマは、事業部からの要望で行うものが半分、残りの半分は全社戦略のテーマです。テーマ評価会議で選別し、研究開発推進委員会で検討して、最終的に経営会議でテーマを決定します。テーマごとにリーダーを任命し、リーダーが中心となって、オープンイノベーションの進め方を検討し、その枠組みを構築するわけです。リーダーは、多くの場合、40代の課長クラスから若手の部長クラスが担当します。2011年には、リーダーのオープンイノベーション推進を支援する専任組織が設置されました。

実は、国内でオープンイノベーションを促進する組織を作る以前の2008年、米国にオープンイノベーションの戦略拠点「North American Research & Innovation Center(NARIC)」を設立しました。オープンイノベーションを組織として体系的に推進しようという動きが、このころに始まったのです。

――国内に先んじて北米にNARICを設立したのはなぜですか。

写真2 オープンイノベーションについて話す尾道常務(撮影:新関雅士)

尾道北米には最先端の科学技術を研究する研究機関、大学、ベンチャー企業が数多くあって、研究者ネットワークを構築するのに適しているからです。

最初は味覚の分野で研究者ネットワークを構築し、活動を開始しました。味覚分野で外部研究機関と連携できることが分かってからは、活動領域を栄養分野や再生医療、バイオ科学などに広げました。特に最近では、米国が先頭を走る再生医療とバイオ科学分野での活動が盛んに行われています。

――外部との連携ということでは、「Ajinomoto Innovation Alliance Program」という公募プログラムを実施していますね。

尾道 Ajinomoto Innovation Alliance Programは、世界中から研究テーマを募集するプログラムです。科学雑誌のNatureなどに広告を出して募集します。採用件数は毎年3件。選出された研究テーマには、年間10万米ドル(約1140万円)の研究費を2年間支給します。このため、多くの研究テーマが寄せられ、研究者や新しい研究テーマの発掘に大いに役立っています。

始めたのは2005年。アミノ酸の研究で公募しました。2013年からは、募集するテーマ領域を事業領域全般に広げています。応募数は2013年ころまではせいぜい100件前後でしたが、現在は約50カ国から合計500件ほどの申し込みがあります。応募件数が最も多いのは米国ですが、欧州やアフリカ、アジアからもかなりの応募があります。内容によっては、採用する3件にはあえて入れず、担当者に連絡を取り、味の素との共同プロジェクトとしてオープンイノベーションを始めるケースもあります。

――ベンチャー企業とのオープンイノベーションで気をつけるべきことは何ですか。

尾道 新しい技術を取り入れるために、ベンチャー企業とのオープンイノベーションは欠かせません。例えば沖縄のベンチャー企業であるオーピーバイオファクトリと、沖縄の天然有望素材を発見する取り組みを進めています。東京理科大学発のベンチャー企業、アクテイブとも連携し、同社の技術を利用して二酸化炭素削減包材の導入を試みています。日本の企業だけでなく、海外のベンチャー企業とも積極的に提携しています。

ただ、ベンチャー企業にもそれぞれステージがあります。立ち上げたばかりの企業もあれば、設立してからかなり時間が経っている企業もあります。ですから、経営状態を見て、慎重に相手を選びます。

中には、投資家が口を出してきて、途中から連携しづらくなるケースがあります。そうした経験を踏まえ、ベンチャー企業とのオープンイノベーションは、知的財産部や法務部と連携して進めています。

――ガーナやベトナムで行っている活動の目的は何でしょうか。

尾道 先日、中期計画で、事業を通じて社会に価値提供する「ASV(Ajinomoto Shared Value)」の取り組みについて発表しました。売上高や利益ではない目標を掲げて、長期的な視点で社会に貢献し、最終的には会社としての価値も高めることを目的としています。国連が掲げる持続可能な開発目標SDGsの中には、栄養改善や健康的な生活の確保、食品廃棄物の半減といったテーマがあります。こうした領域で味の素の強みを生かし、SDGsの達成に貢献したいと思います。

ベトナムでは、日本の栄養士会と協力して栄養士を育成しています。ベトナム政府とのネットワークを作り、給食制度の導入にも着手しています。給食を通じて児童の健康状態の改善を図るのが目的です。

ガーナは、主食がトウモロコシであるため栄養に偏りがあります。不足している栄養を補うために栄養サプリメント「KOKO Plus」を開発しました。ポイントは、できるだけ現地の食材を使って、低コストでサプリメントを作ることです。事業としては赤字ですが、この活動は高く評価されています。

こうした新興国での活動は、社会貢献や技術の確立を目的としたものですが、同時に新興国におけるビジネスモデルを探るためのものでもあります。

写真3 食を通じて社会に貢献すると話す尾道常務(撮影:新関雅士)

――将来ビジョンは何年後を描いていますか。

尾道 研究開発部門では、2030年から2035年くらいの未来の暮らしを描いています。その未来の暮らしを前提として、現在はどんな研究をしているべきか、将来に向けた方向性はどうあるべきかを考え、テーマを設定しています。こうした未来の暮らしの絵は、議論を重ねることで共有します。全員と共有することは容易ではありませんが、研究所の中ではなるべく共有できるように努めています。

――最後に味の素が目指すものは何ですか。

尾道 味の素が持つ食品技術やバイオ技術をうまく生かす中で、世界の人々の暮らしを豊かにしたいと思っています。食を通じて、世の中に貢献する企業になることを目指しています。

(聞き手=日経BP総研 クリーンテック研究所 菊池珠夫)

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