オトバンク、「聴く本」市場の門戸開く

2017/3/24 6:30
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オトバンク(東京・文京)の上田渉会長(36)が耳で聴く本「オーディオブック」の市場拡大に挑んでいる。2007年に自社サイトで配信を始めてから10年で会員数は20万人に増えた。文芸書を増やしたり、アプリを活用したりして高齢者から若年層まで幅広い顧客を開拓する。「音声コンテンツの市場を広げていきたい」と意気込む。

東大在学中の2004年にオトバンクを設立した上田渉会長

東大在学中の2004年にオトバンクを設立した上田渉会長

起業を思い立ったのは祖父が緑内障で目が見えなくなったのがきっかけだ。祖父は60歳ごろに失明し、好きな本を読めずに苦労していた。大学に入る直前に祖父が亡くなり「目の不自由な人に何か役立つことができないか」との思いを抱いた。

大学3年生のときに目の不自由な人を支援するNPOの立ち上げを検討した。調べてみると日本は対面での朗読会が中心で、本の内容を音声で聴く文化が希薄なことが分かった。出版社への就職も考えたが「朗読はしていない」と門前払い。それならば「自分で音の文化を広げる会社をつくろう」と在学中の04年にオトバンクを設立した。

当初のアイデアは講演やラジオ、カセットブックの音源を仕入れて販売する事業だった。しかし、音源には複雑な権利が絡んでいてすぐに断念。そこで音源の制作会社から受託制作の仕事をもらい、何とか食いつないでいった。

上田氏は出版社に足しげく通い、オーディオブック普及の必要性を訴え続けた。すると熱意が認められ、ある出版社から「インターネットで本を売る方法を考えてくれないか」と頼まれる。こうして06年に開設したのが書籍の紹介サイト「新刊JP」だった。

出版社とのパイプが太くなるとオーディオブックに協力してくれる担当者も次第に増え、07年にオーディオブックの配信サイト「FeBe(フィービー)」を立ち上げた。用意した1000作品はビジネス書が中心。「通勤時間に聴いて勉強するニーズを狙った」

オーディオブックの制作には朗読する声優や編集者が必要で2カ月程度かかるため、販売価格は書籍の値段と同じ。初めは「ちょろちょろしか売れなかった」が、一度購入した人がリピーターとなり定着してくれた。現在は会員数18万人、月間約5万冊を販売する。

扱う書籍も1万9千作品、提携する出版社は450社に広がった。会員の多くは30~40代のビジネスパーソン。運動などをしていても聴ける利点が受け入れられている。

「5年以内に100万人に増やしたい」という上田氏が注力するのは文芸書だ。配信した作品の中で文芸書が占める割合は07年の3割から16年は5割に増えた。「女性や高齢者、目が不自由な人は文芸作品を好む傾向がある」と言い、利用者層の拡大につなげている。

販売方法も多様化。ここ1年で増やしているのは書店での販売だ。オーディオブック付き書籍という形で、付属するオーディオブックカードに記載されたコードをオトバンクのスマートフォンアプリに入力すると音源をダウンロードできる。

語学書やビジネス書などダウンロード用の音源を提供する書籍は約100作品に達する。特に語学書は10~20代の若者がCDプレーヤーを持たなくなっているため「CD付き語学書を購入しても聴けないという問題を解決できる」と期待する。

日本オーディオブック協議会によると、オーディオブックの国内市場規模は50億~60億円。世界では書籍市場の5~10%を占めており「国内は800億~900億円まで伸ばせる余地がある」と上田氏はみる。

ただ手ごわいライバルも登場した。米アマゾン・ドット・コム傘下のオーディブルだ。15年に日本市場に参入。上田氏は「いつでもどこでも気軽にオーディオブックが聴ける環境づくりとコンテンツの量」に注力する。身に付けられるウエアラブル端末のような機器の開発や、少人数にしか読まれない本を含め様々なコンテンツを低コストで音声化する音声合成技術の研究も視野に入れている。

(企業報道部 鈴木健二朗)

[日経産業新聞 3月24日付]

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