/

24日にW杯予選 UAEで試される日本の底力

大きな分岐点となる試合がやってきた。サッカー日本代表は日本時間24日午前0時半キックオフの試合でアラブ首長国連邦(UAE)と戦う。ワールドカップ(W杯)ロシア大会アジア最終予選B組の戦いはUAE戦から後半戦に突入するが、アウェーに乗り込んで戦うこの一戦に勝てば、ロシアへの視界は一気に開けると思っている。

うらやましいWBC日本代表

同じ代表チームでも日本は今、3月7日のキューバ戦から始まった野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の話題で持ちきりという感じだ。1次リーグ、2次リーグを6戦全勝し、4大会連続でベスト4に進んだ日本の戦いに熱狂している。

野球の日本代表の戦いを見ながら、うらやましく思うのは、その6試合すべてを東京ドームで戦えたことである。"世界一"を決める大会でサッカー日本代表も、こんな有利な方式でやらせてもらえたらと、つい思ってしまう。

サッカー界ではかつてアジアを中心に「セントラル方式」といって、1つの国・地域にすべての参加チームが集まって、上のラウンドに進むチームを決めるリーグ戦を行ったことがあった。その場所というのがすべての参加チームに中立地であれば公平性は保証されるけれど、参加チームに日本が含まれているのに開催地も日本、みたいなことがあったのだ。

そういう方式が多少の抵抗はあってもアジアで受け入れられたのは「実力差」と「カネ」の問題が大きかったのだろう。戦う前から負けることが見えているような格下のチームは自分たちのホームでやろうが日本でやろうが、結果は同じだと思ってしまう。また、大会期間中の滞在費や旅費などの面倒をホストする協会が見てくれるとなれば、台所事情の苦しい国・地域の協会は「その方が楽だ」と思ったりする。そんなこんなで昔は結構、一極集中開催で行われていたのである。

セントラル方式はやがて「ダブルセントラル方式」というものも生んだ。グループの中に飛び抜けたチームが1つだけなら「セントラルでいいよ」と話はまとまりやすいが、そこに対抗できる力を持つチームが現れたら「不公平だ」と異を唱えるのは当然のこと。それでリーグ戦全体を半分に分け、2強とおぼしきチームが仮に日本と韓国だとしたら、片方は東京で、もう片方はソウルでやる、というような二極集中開催になったのだった。

そんなアジアも今では各種の予選はホームアンドアウェー方式が当たり前になった。参加チームの実力差が接近し、どこにもチャンスがある。チャンスがあるということは関心を呼んでお客さんも入るし、国際サッカー連盟(FIFA)やアジアサッカー連盟(AFC)からの分配金もあって極端に貧しい協会もなくなった。その結果、どの協会もホームゲームの主催権を手放すようなことはしなくなり、欧州では常識のホームアンドアウェー方式がアジアでもやっと定着したのだ。

選手としても、コーチや監督としても「セントラル」「ダブルセントラル」「ホームアンドアウェー」のすべてを経験してきた私にすれば、WBCというのは、そういう意味で非常に興味深い。1次、2次のすべてを日本でやれてしまうこと、それに異を唱えるライバルがいないことに、いろんな意味で日本野球の"パワー"を感じるのだ。しかし、1次、2次では日本が有利な条件で戦えるのに、準決勝と決勝は米国に乗り込んで戦わざるを得ない。準決勝で日本はアウェー感満載の中で米国と戦わなければならないが、それはもう当然のこととして受け止められている。そこに米大リーグを頂点とする野球世界の強烈なヒエラルキーを感じるのである。

さて、サッカーの日本代表である。16日には、24日(日本時間)のUAE戦と28日のタイ戦(埼玉スタジアム)に臨む25人のメンバーが発表された。その中にベテランの今野(G大阪)が選ばれたことに驚いた人がいるのかもしれない。私は、ハリルホジッチ監督は2月末に開幕したJリーグの試合を「よく見ているな」と思った。今野もそうだし、倉田(G大阪)と鹿島の昌子、植田の両CBも、Jリーグで素晴らしいプレーを見せているからだ。30歳の高萩(FC東京)の選出もJリーグの試合内容を見て興味をそそられたのだろう。

時差は数時間、欧州組に幸い

G大阪と鹿島の選手のコンディションがいいのは、Jリーグより一足先に戦いの火蓋を切ったアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のために、早めに体を仕上げておいたおかげだろう。明らかに体の切れが違う。昌子と植田に関していえば、昨年末のクラブW杯での躍動を見て、ハリルホジッチ監督はすぐにでも呼びたくなったのだろう。あいにく、昨年11月のサウジアラビア戦を最後に代表戦がなかったので、ここでの招集は「満を持して」の感がある。

一方、今回発表された25人の中に小林(ヘーレンフェーン)や大島(川崎)、柏木(浦和)らの名前がなかったが、それをネガティブに考えることはない。おそらく、ハリルホジッチ監督の頭にはUAE戦とタイ戦でまったく異なるゲームプランがあるのだろう。そのおのおののゲームプランに沿って人選と準備を進めているのだと思う。

例えば、UAEに比べると、埼玉で戦うタイはひたすら守って自陣から出て来ない公算大だ。こういう相手には宇佐美(アウクスブルク)のようなタイプが効くと。ボールはいくらでもタイ陣内で持たせてくれるのだから、ボールを持ってからぐいぐい切り崩し、マークをはがせるアタッカーが欲しくなったのだろう。

タイ戦は大迫(ケルン)のような体の強いFWも有効に思える。いくらタイトにマークに付かれても体の強さを発揮してボールを収め、キープし、そこから先の選択肢を増やしてくれるからだ。そんなふうに考えると、対戦相手やどんな試合になるかを計算しながら、それに合わせてタイプの異なる選手を集められる日本の選手の層の厚さは、むしろ誇っていいことだと私には思える。

UAEが試合会場をアブダビではなくアルアインに設定したことで、アウェーの厳しさはさらに増した。ドバイやアブダビなら欧州や日本から直行便で入って旅装がすぐに解けたが、そこからさらにアルアインまでの砂漠の中のバス移動を課された。「やってくれるぜ」という感じである。収容人数は多くないが、アルアインのスタジアムは屋根に応援の声がよく反響するとも聞いた。日本の選手が普段やっている環境とはかなり異なることは覚悟しなければならない。

一方、欧州とUAEの時差は3~4時間くらいしかないので、日本の欧州組にとってコンディション調整はしやすいだろう。幸いなことに、欧州組は今、吉田(サウサンプトン)も岡崎(レスター)も大迫、久保(ヘント)も調子がいい。試合に出て成果を挙げ、試合で自信を取り戻している選手がいるのは明るい材料だ。香川(ドルトムント)もその中に含めていいと思う。

特に岡崎がイングランド・プレミアリーグ勢で唯一、欧州チャンピオンズリーグでベスト8に勝ち進んだレスターの立派な一員であることは、もっと特筆されてしかるべきことだろう。

日本代表は19日の夜からアルアインで練習を開始した。23日のUAE戦までトレーニングのセッションは公式練習を含めても4回しかない。この回数の中で選手個々のコンディションを見極めながら、対UAE戦に向けた戦術の確認、練度を上げていかなければならない。これは大変な作業である。19日から28日のタイ戦までの10日間は、ロシアへの道のりが開けるかどうかの本当の正念場だ。

残り5試合、戦う度に挽回するチャンスは減っていくから、一つ一つの試合の重みもどんどん増してくる。2002年W杯日韓大会では日本の選手たちが試合を重ねる度に「行きたくても、その一歩が出ない」という状況に陥るのをコーチとして目の当たりにした。厳しい試合というのは、それくらい選手からエネルギーを奪うものであり、その「そこからの一歩」が出るか出ないかが、底力というものだと思い知らされもした。

長谷部離脱、だからこそ団結を

今回のUAE戦は大きなプレッシャーが選手にのしかかると思う。地の利と準備期間に恵まれたUAEは手ぐすね引いて待っている。不利な条件の中でどれだけ力を振り絞り、最後の一滴まで出し尽くして戦えるか。まさに選手の底力が試されることになる。「楽な道より、険しい道の方が成長する」という生き方を実践する日本の選手たちには、その底力があると私は信じている。

主将であり、チームの精神的支柱でもある長谷部(フランクフルト)がドイツのブンデスリーガの試合で傷めたケガが原因で代表からの離脱を余儀なくされた。痛恨事ではあるが、それでも、プレッシャーがよりかかっているのは、負ければ後がないUAEの方だろう。キャリアに勝る日本は自信を持って戦うことだ。ただし、それは、個人プレーに走っていいということではない。経験も技量も戦術眼も上回る選手たちがチームのために汗をかくということだ。

チームのために汗をかくというのは、90分の試合のうち、ボールを持たない87分間をチームのために尽くすということである。レスターでの岡崎はそれを見事に実践している。彼が前線から守備でハードワークするから、レスターのDF陣は思い切ってラインを押し上げることができる。押し上げれば陣形がコンパクトになり、岡崎より後ろの選手は前向きにボールを奪うことができる。前向きにボールが奪えるから逆襲への移行もスムーズになる。

昨季優勝の功労者のラニエリ監督を解任し、コーチのシェークスピアに指揮を任せてからレスターは持ち前のスピーディーなサッカーがよみがえったが、その流れをつくっているのは監督交代後、重用されるようになった岡崎である。岡崎を見ていれば、いかにボールを持たない時の仕事が大事か、献身的なプレーが攻撃の起爆剤になるかが分かるはずだ。そういう目に見えないものに価値を見いだす試合ができれば、日本代表も結果はおのずとついてくるはずである。

本稿の冒頭の方で、WBCの1次、2次リーグ6試合のすべてを東京ドームで戦えた野球の日本代表がうらやましいと述べたが、半分は本音で半分は嘘である。嘘というのは「アウェーがあるから選手もチームも成長できる」と私は信じているからだ。時差もフライト時間も気候も、ばらばらな国からアルアインに集まり、試合に向けて個々とチーム全体のチューニングを同時に行うのは大変な作業だ。だからこそ、それを乗り越えられたら選手もチームも一回り大きくなれるし自信もつく。

UAEが厳しい環境を用意すればするほど、「だからこそ成長できる」「だからこそいい仕事ができる」「だからこそ強さを出せる」と感謝する気持ちが湧いてくるくらいだ。最終予選で設けられるハードルは、ロシアの本大会で待ち受けるさらに大きな試練を乗り越える底力を養うためにある。長谷部の離脱という非常事態も、残された選手で団結して乗り越えられたら、すごい力になるはずだ。

(サッカー解説者)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン