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なぜ? 国民のスポーツ実施率低下の困った事態

編集委員 北川和徳

3年後に迫る東京五輪・パラリンピックには、国民のスポーツへの関心を高め、スポーツを楽しむ人々を増加させる役割も期待されている。その先にあるのはスポーツの健康効果による医療費の削減だ。ところが、最近の調査データでは、実際の国民のスポーツ実施率はここ数年、低下傾向にあるようだ。

「1億総スポーツ社会」を掲げるが…

文部科学省は今月中に第2期スポーツ基本計画を策定する。同計画は、スポーツ施策の指針として2012年度からスタート。17年度からの第2期計画について今月初め、スポーツ庁の諮問機関、スポーツ審議会が答申した。20年に五輪・パラリンピックが開催される今回は「1億総スポーツ社会」を掲げる。だが、柱となる目標の一つである成人の週1回以上のスポーツ実施率は第1期と同じ65%に据え置かれた。

内閣府と文部科学省・スポーツ庁の調査では、16年度の同実施率は42.5%。目標とは裏腹に12年度の47.5%から大きく下がってしまった。数字の推移では15年度は40.4%で、そこからは上昇している。だが、毎年の調査となった16年度から手法が個別面接から登録モニターによるインターネット調査に変更、調査対象も3000人から2万人に増えているため、単純な比較はできない。

同じ傾向は、笹川スポーツ財団が2年ごとに発表している「スポーツライフ・データ」からも読み取れる。16年の同データ(対象は18歳以上の男女3000人、訪問による調査票の回収方式)では、週1回以上のスポーツ実施率は56%。内閣府・文科省の調査と大きな開きがあるが、これは1日に複数のスポーツをしても1回と数えるのに対して、同財団では複数回と数えるなど設問の違いによるものと推測できるそうだ。

10~12年がスポーツ実施率のピーク?

同財団のデータでも、スポーツ実施率は12年59.1%、14年57.2%と減少傾向は変わらない。どちらのデータでも、増加傾向のピークは10年から12年とみられ、そこから減少に転じている。

スポーツ基本計画の策定後、13年9月に20年東京五輪・パラリンピックが決定。15年10月にはスポーツ庁が発足するなど、スポーツ振興には追い風があった、だが、国民がスポーツを楽しむ機会は、5年間で逆に減少したと考えて間違いないようだ。いったいなぜなのだろう。

同財団では、スポーツ実施率だけでなく、種目別の調査を行い、その変化の分析もしている。週1回以上、最も幅広く楽しまれているのは散歩(ぶらぶら歩き)21.1%、ウオーキング16.8%、体操(軽い体操、ラジオ体操など)11.8%。特別な用具や技術、仲間が必要なく、誰でも手軽にすぐできるエクササイズ系スポーツが上位を占める。毎回、このトップ3の顔ぶれは変わらない。そして、実施率の変化を左右しているのも主にこの上位3種目だという。

この6年で散歩は1.6ポイント、ウオーキングは1.0ポイント、体操は1.6ポイント低下した。この3種目をのぞいた集計をすると、週1回以上のスポーツ実施率は12年の13.9%から16年は14.3%に微増している。

ジョギング・ランニングは100万人減

同財団スポーツ政策研究所の藤原直幸研究員はこう分析する。「健康志向の高まりを受けて、個人で気軽にできる種目がスポーツ実施率を引き上げてきた。それがストップして、飽きてやめる人たちが出てきている」。1人ですぐに始められるからこそ、やめるのも簡単。一方で、野球やサッカー、テニスなど仲間同士のコミュニティーが形成される競技系スポーツは、明確な理由がなければやめることはまずない。こちらは長年にわたって実施率はほとんど変わらないという。

それを裏付けるように、やはり1人で始められるジョギング・ランニングもウオーキングなどと同じ傾向で推移している。こちらは週1回以上の実施率では筋トレに続く5位が定位置。ピークは12年(5.5%)から14年(5.3%)だが、16年は4.5%に低下した。1年に1回以上のジョギング・ランニングを行う推計人口は1009万人から893万人まで100万人以上減った。

スポーツ実施率の向上を目指すには、なかなか厳しい事態ではないか。個人の意識の変革だけで取り組めるエクササイズ系スポーツが頭打ちになったとすると、週1回以上のスポーツ実施率を引き上げることは容易ではない。競技系スポーツを楽しむ人を増やすには、施設や組織など環境整備が不可欠となる。掛け声だけでは進まないし、お金も人手も時間もかかる。

運動と健康の関連の一層の研究を

スポーツ実施率の向上は、スポーツ庁にとって最大の目標になると思う。国民の医療費総額は40兆円を超え、日本の財政を厳しくする大きな要因となっている。スポーツの健康効果によってそれを数%でも抑制すれば、大幅な経費削減が実現できる。

だが、スポーツ庁の発足までは、健康は厚生労働省、スポーツは文部科学省という縦割り行政のもとで、健康増進とスポーツを結びつけた施策は打ち出されにくかった。そもそも運動が体に良いことは漠然と理解されているが、適切な強度、頻度と健康効果との因果関係を明確に示す研究データなどはまだ乏しいという。

第2期スポーツ基本計画は17年度からの5年間の指針となる。20年東京五輪・パラリンピックを経て、国民のスポーツ実施率はどう変化するのか。スポーツ庁では15年まで3年ごとだった調査を、これからは毎年実施する方針。その動向に注目していきたい。

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