ピコ太郎、武道館で検証 笑いのルーツはドリフターズ
ピコ太郎が『PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)』の世界的な大ヒットで一躍スターになってから半年。今もCMやライブにひっぱりだこで人気は衰えない。3月6日には初の武道館ライブを開催した。そこで見せたパフォーマンスから、人気の3つの秘密が見えてきた。ちびっ子のアイドル、誰とでもからめるコラボ(コラボレーション)力、音楽ネタへのこだわりだ。ピコ太郎は、ザ・ドリフターズの笑いの後継者なのだ。

まず、武道館でのライブをざっと振り返っておこう。開演前にステージに登場したのは、くりぃむしちゅーの上田晋也。芸人人生で初めてという前説を披露。観客が拍手や声を出す練習をリードして、客席を温めた。次に前座で、国立劇場の奏者が和楽器バージョンの『PPAP』を演奏。くりぃむしちゅーの有田哲平が元プロレスラー・高田延彦のものまねで開会宣言をして、ライブが始まった。


ピコ太郎は、天井から宙づりで登場するが、突如落下。ステージ下から松葉づえのピコ太郎がよろよろと現れ、客席の笑いを誘って、『PPAP』を歌った。続く『I LIKE OJ』では、高須クリニックの高須克弥院長が登場して、同曲の替え歌を使ったCMと同じ振り付けで踊って観客を沸かせた。
そのあとピコ太郎は持ち歌7曲を披露。いずれも『PPAP』と同様の1分ほどで、客席からは「はやー」「もう終わり!?」の声が飛ぶが、曲間を絶妙のトークでつなぎながら、次々と歌い踊る。ピコ太郎がステージを降りると、スクリーンにプロデューサーである古坂大魔王が登場。アフリカンミュージックをベースにした新曲のビデオが2曲公開された。
続いて、爆笑問題ふんする爆チュー問題が登場して、ピコ太郎と掛け合い。ぴかり(太田光)がステージ上で大暴れしながら、時事ネタを次々と繰り出し、客席を笑わせた。


イタリア、ドイツからも来日ゲスト
そして、世界のユーチューバー(動画投稿サイトの投稿者)のコーナー。『PPAP』はYouTubeを通じて世界に広まり、世界中の人々がカバーして話題になったが、その人気バージョンを歌った2組が来日。イタリアから激しく体を揺らして歌うメタル版のダニー・メタル氏、ドイツからピアノ演奏をバックにしたバラード版のモリッツ・ガース氏が登場して、それぞれピコ太郎と共演した。
後半は、ピコ太郎が持ち歌4曲を披露したあと、DJセットが出現。ピコ太郎もキーボードを演奏して、ゲストを呼び込む。ガールズバンドのSILENT SIREN、アニソンシンガーのLiSA、アイドルグループももいろクローバーZの派生ユニット、マス寿司三人前(玉井詩織、有安杏果、高城れに)がそれぞれの持ち歌の『PPAP』バージョンを歌った。




次にスペシャルゲストとして五木ひろしが登場。『契り』に続いて『よこはま・たそがれ』のメロディーで『PPAP』を歌い、会場を盛り上げた。さらに東京スカパラダイスオーケストラの生演奏でゲスト全員で『PPAP』。最後は、出演者全員にVIP席の来場者も交えて、ベートーベンの『交響曲第9番』にあわせて『PPAP』の大合唱。前座の国立劇場バージョンを含めると、実に11回の『PPAP』が披露された。ライブのタイトル『PPAPPT』のPTはパーティーの意味だが、まさに『PPAP』祭りだった。


ライブを見てわかった、ピコ太郎の強さが3つある。
まず、ピコ太郎はちびっ子のアイドルであること。7000人が集まった観客の多くはファミリー。小学生以下の子ども連れが目立った。全体の2~3割が子どもだろうか。キッズエリアも設けられ、テーマパークのアトラクション感覚で楽しんでいたようだ。チケット価格は5940円と、ファミリーで来場しやすいようにやや安めの設定。ちびっ子を引きつけるキャラクターの強さが、ピコ太郎の人気を支えている。
ジャンルも国も超えるコラボ力
2つ目が、誰とでもからめるコラボ力。プロデューサー古坂大魔王の芸人仲間であるくりぃむしちゅー、爆笑問題をはじめ、歌手の五木ひろしから高須院長まで、幅広いジャンルの著名人が登場して歌やトークを繰り広げた。五木ひろしには「『紅白歌合戦』でお会いしたのをきっかけにオファーした」という。来日したユーチューバ-とのコラボも、SNS(交流サイト)時代の新スターであるピコ太郎ならではだろう。ジャンルも国も超えて、多くの人を巻き込む力がピコ太郎の武器だ。

3つ目が、音楽ネタへのこだわり。この日、披露された『PPAP』はなんと11回。同じ曲を、そこまで繰り返すライブは聞いたことがない。お笑いライブでも、同じネタを繰り返せば、すぐに飽きられるだろう。ところが、『PPAP』はそのつど盛り上がり、会場を沸かせた。もともとテクノの原曲を、バンド、アニソン、アイドル、演歌、クラシックと、いろんなジャンルに編曲して、そのつど新しい『PPAP』の音を観客に楽しませたからだ。まさに「手を替え、品を替え」なのだが、それができるのもプロデューサーの古坂大魔王が卓越したアレンジ能力を持っているから。彼の音楽センスが、ピコ太郎の魅力をつくり出している。
ピコ太郎によると、古坂は「ザ・ドリフターズが好きで、早口ことばやヒゲダンスから大きな影響を受けている」という。もともとバンドだったドリフは音楽ネタが得意。番組では、アイドルから演歌歌手まで様々なゲストとコラボして観客を楽しませていたし、言葉遊びやダンスの動きはちびっ子に大受けだった。一方、古坂は今の流行であるEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)をベースに音楽ネタを生み出した。そしてドリフの笑いを今の時代に引き継いで、世界中の人々を楽しませているのがピコ太郎なのだ。
(日経エンタテインメント! 小川仁志)
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