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健康経営へ睡眠研修の導入広がる

健康経営に注目が集まるなか、社員の「睡眠の質」の改善に取り組む動きが広がり始めている。眠りの質が悪いと、就業中も睡魔に襲われるなど、生産性の悪化だけでなく事故やメンタルの不調にもつながる可能性がある。どうすれば質の良い睡眠がとれるようになるのか。企業向けに睡眠研修を行うベンチャー企業、ニューロスペース(東京・千代田)の小林孝徳社長に聞いた。

ニューロスペースの小林孝徳社長 2010年新潟大理学部卒。大学受験時代から睡眠不足に悩んだ自身の経験を基に、13年ニューロスペースを起業。筑波大学や医療機関などと連携して、科学的知見から睡眠の質改善に関する企業向け研修を実施している。

――睡眠研修を導入する企業が増えている理由を教えてください。

「企業側には様々な狙いがある。まずはリスクやコスト削減を狙うケースだ。従業員の睡眠の質が悪いと、それだけミスも多くなる。遅刻や製造現場での事故などは企業にとって大きな損失につながりやすい。睡眠障害による作業効率の低下や遅刻、欠勤、事故などで総額3兆5000億円もの損失が出ているとする試算もある」

「人手不足で従業員の採用が難しくなり始めたことも、企業が睡眠研修に取り組み始めた要因の1つだ。電通の女性新入社員が2015年12月に過労自殺した問題もあり、厳しい労働環境の企業は避けられがちだ。睡眠研修を実施し、従業員の満足度を向上することで人材の離脱を減らしたり、新たな採用につなげたりすることができる」

「厚生労働省がまとめた『過労死等防止対策白書』によると、睡眠時間が『足りていない』と答えた労働者は、全体の45.6%を占めた。その理由(複数回答)としては『残業時間が長いため』が36.1%と最も多かった。長時間労働によって、十分な睡眠が確保できていない状況がうかがえる」

「13年の起業以来、右肩上がりで睡眠研修に関する問い合わせが増えている。これまでに20社程度の企業が導入している」

――どのような業種や勤務体系の企業が、睡眠研修に関心を示していますか。

「例えば吉野家ホールディングスのような、不規則なシフト勤務の企業が睡眠研修を実施している。飲食店の店長などは、シフト勤務のため昼に働くこともあれば夜に働くこともあり、睡眠のリズムが乱れがちだ」

「残業が多くなりがちな企業に加えて、サーバーのメンテナンスなどで急な深夜の呼び出しのあるIT(情報技術)企業からも研修を実施してほしいと声がかかる」

――睡眠の質を改善するために、手軽に始められる方法を教えてください。

「単純だが、ベッドでは眠りに関係すること以外はしないことだ。ベッドの上でスマートフォン(スマホ)をいじったり、テレビを見たりしていると、脳が『ここは眠るための場所ではない』と認識してしまう。寝つきの悪さにつながりがちだ。万年床の人などは特に注意が必要だ」

 「また、就寝時間の直前の飲食を控えることも重要だ。寝る1~2時間前にしっかり食べてしまうと、内臓が活動を始めて体の内側の温度である『深部体温』が下がりにくくなってしまう。人はこの深部体温が急降下するときに深い眠りに就くことができるため、就寝直前の食事は眠りの質の低下につながりがちだ。空腹の際は、フルーツやヨーグルトなどの軽食で対応してほしい」

「ホルモンの一種であるメラトニンの量もうまく調整してほしい。この分泌が増えると就寝しやすくなる。部屋をできるだけ暗くすることを心がけて、スマホをあまり見続けないようにするとよい。また、朝なかなか起きられない人は、しっかりと太陽の光を浴びてほしい。メラトニンが減少するため、すっきりと目覚めることができる」

――疲れていると、休日に寝だめをしてしまいがちです。

「睡眠のリズムは一定に保っていた方がいい。リズムが崩れたまま平日を迎えると、日中に眠くなってしまう。基本的には、寝だめしないことが理想的だ」

「ただ、やはり休みの日は普段より多く寝たいという人は、平日の睡眠時間+2時間以内に一度は起きるようにしてほしい。その後で部屋を明るくした状態にすれば、もう一度2~3時間程度寝てもいい。こうすることで睡眠のリズムが崩れにくくなる」

――企業側として取り組めることはありますか。

「寝ていない時間が長いほど眠気は大きくなっていくため、仮眠をとった方が生産性は向上する。日中に仮眠をとることに対して寛容になることだ。仮眠ルームを作ったり、仮眠ができる社内の雰囲気を作ったりすることが大切だ」

「仮眠のタイミングは、起床から6時間後になる。仮眠の時間は、30分以内に収めたい」

――睡眠研修によって、どのような成果が出ていますか。

「昨年、睡眠研修を導入したディー・エヌ・エー(DeNA)では、受講した人の66%が『睡眠が改善した』と回答した。仮眠を実施したことで、成果が出始めている」

「これまで不眠への対策は睡眠薬など医薬品を使うことが多かった。企業と個人の意識改革で行動が変わってくれば、より根本的な解決策になりうる。睡眠の質を改善して健康な状態を維持することで、個人にとっても企業にとっても良い状態をつくることができる」

(企業報道部 黒田弁慶)

[日経産業新聞 2月15日付]

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