大震災から6年

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外国人ユーチューバー 東北を世界へ発信
被災地で魅力発見

2017/3/10 14:17
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動画投稿サイト「ユーチューブ」の人気投稿者「ユーチューバー」の外国人2人が2月下旬、動画を制作するため岩手県を訪れた。日本を訪れる外国人に見てもらい、東北に旅行者を呼び込もうという試みで、復興庁などが2016年に始めた事業の一環だ。東北を訪れる外国人旅行者は国内全体の1%程度にとどまるとされ、需要掘り起こしの余地はある。外国人ユーチューバーの取材活動に同行した。

東北新幹線の「いわて沼宮内」駅に降り立ったフランス人のシャルル・サバスさん(右)と米国人のロレッタ・スコットさん。1日あたりの平均乗客数は85人(2015年)で、新幹線では日本一利用者数が少ないとされる駅を背にカメラを回す(2月22日、岩手県岩手町)

東北新幹線の「いわて沼宮内」駅に降り立ったフランス人のシャルル・サバスさん(右)と米国人のロレッタ・スコットさん。1日あたりの平均乗客数は85人(2015年)で、新幹線では日本一利用者数が少ないとされる駅を背にカメラを回す(2月22日、岩手県岩手町)

■内陸の岩手町で地元に密着

東北新幹線の「いわて沼宮内(ぬまくない)」駅に2人の外国人ユーチューバーが降り立った。フランス人のシャルル・サバスさん(26)と米国人のロレッタ・スコットさん(28)。出発した東京駅に比べ、あまりにも人通りが少ないのにびっくり。2人の「スイッチ」が入り、ハイテンションで自分撮りのカメラを回し始めた。軽妙なトークやテンポの良さは2人の動画の売りだ。

「え、ユーチューバーだって!」。下校中の小学生たちが鈴なりになって物珍しそうに2人を追う

「え、ユーチューバーだって!」。下校中の小学生たちが鈴なりになって物珍しそうに2人を追う

写真右は、精肉店「肉のふがね」で駅弁作りを体験するシャルルさん(右)とロレッタさん。同左は、団子作りを教えた西田拓広さん(左)と広司さん

写真右は、精肉店「肉のふがね」で駅弁作りを体験するシャルルさん(右)とロレッタさん。同左は、団子作りを教えた西田拓広さん(左)と広司さん


出会いを求め、2人はタクシーで「道の駅 石神の丘」に移動した。店内では質問攻めだ。「道路なのにどうして駅なの?」「岩手町の特産はなに? え、キャベツなんだ!」。日本在住の2人は流ちょうな日本語で取材し、英語で感想を滑らかにカメラにふき込んでいく。

岩手町の中心部へ移動した。2人は団子を販売する「西田商店」で焼き団子を作ったほか、精肉店「肉のふがね」で駅弁作りを体験。駅弁の「食レポ」を終えた2人に、「今晩飲み会やるんでよかったら来ませんか」と店主の府金伸治さん(44)が声をかけた。

地元の飲み会でグラスを空ける間もなく、相次ぐビールのお酌に目を丸くするシャルルさん

地元の飲み会でグラスを空ける間もなく、相次ぐビールのお酌に目を丸くするシャルルさん

飲み会の顔ぶれは、地元商店や銀行員などさまざま。みなが岩手町のよいところを2人に熱く語った。ご当地ヒーロー「キャベツマン」も参加し、絶妙な掛け合いで場を盛り上げる。お開きのときには「一本締め」も初体験した。「本当に人がすばらしい。みんな家族みたいに、心に壁を作らず接してくれた」と口をそろえた2人。濃密な1日を岩手町で過ごした。

土地勘がまったくない2人が次々と取材を進められるのには、裏方の存在があった。復興庁が進める「新しい東北」交流拡大モデル事業の一環で、交流型体験予約サイトの「ensorq(エンソーク)」が動画制作の依頼を受けた。担当者が外国人ユーチューバーの2人が取材しやすいよう、事前にある程度のあたりをつけておいたのだ。

■沿岸の被災地で触れた人の魅力

豊かな三陸の海で、ホタテの稚貝の生育を説明する漁師の佐々木淳さん(左)=2月23日、岩手県大船渡市

豊かな三陸の海で、ホタテの稚貝の生育を説明する漁師の佐々木淳さん(左)=2月23日、岩手県大船渡市

翌日、岩手県の沿岸部に移動し、三陸鉄道南リアス線で大船渡市の「恋し浜」駅で下車した2人。シャルルさんは3年ほど前に東日本大震災でのボランティア活動で宮城県の沿岸被災地を訪れたことがあるが、ロレッタさんは東北が初めて。車窓から見える平地を「元は家々があったのが津波に流されてしまった場所と教えられて、ショックだった」。

養殖ホタテの漁場では、漁師の佐々木淳さん(46)が温かく出迎え案内してくれた。採れたてのホタテの刺し身とバーベキューを味わい、「おいしい! バターのように濃厚」と、ロレッタさんはほお張りながらカメラに笑顔で語りかけた。

震災遺構「旧道の駅高田松原 タピック45」を訪れた2人(2月23日、岩手県陸前高田市)

震災遺構「旧道の駅高田松原 タピック45」を訪れた2人(2月23日、岩手県陸前高田市)

しばらくして佐々木さんが震災当時の話を始めた。「ゴ、ゴ、ゴという大きな音とともに海そのものが揺れ、驚きと恐怖しかなかった。急いで浜に戻って丘に上がると、岸壁が津波にのまれ、船が全部ひっくり返った。自然の猛威を前に、いかに人が無力な存在かを実感した」。佐々木さんの話に聞き入る2人。その年の12月には仲間とともに養殖を再開したことも知り、食べたばかりのホタテの味わいがさらに深まったようだった。

佐々木さんに別れを告げ、陸前高田市の震災遺構「旧道の駅高田松原 タピック45」を訪れた。前日、岩手町で訪れたのと同じ「道の駅」と知り、言葉を失う2人。津波で破壊された建物内部などを静かに記録した。そして、千羽鶴や花束が手向けられた慰霊碑の前で静かに手を合わせた。シャルルさんは「安らかに眠ってください」と心の中で母国語のフランス語で祈った。ロレッタさんは「亡くなった人と残された人がお話をする場所だから」と静かに振る舞った。

5階の高さにまで津波が押し寄せた跡が残る集合住宅前で、正午を知らせる防災無線のチャイムが鳴り響いた。「とても悲しげに聞こえた」「もっといろんな人に話を聞きたい」と、ロレッタさんに思いがこみ上げた

5階の高さにまで津波が押し寄せた跡が残る集合住宅前で、正午を知らせる防災無線のチャイムが鳴り響いた。「とても悲しげに聞こえた」「もっといろんな人に話を聞きたい」と、ロレッタさんに思いがこみ上げた

外国人の視点から日本を見ると、東京のポップカルチャーや京都の歴史などには観光として大きな魅力があると2人はいう。しかし、岩手に来て「家が津波で流されても、海を憎まずに生活を続ける強い人たちがいる」ことを知った。ロレッタさんは、「東北には観光以外にも、人の魅力があるということも伝えたい」と次作の動画に思いを込める。(写真部 浅原敬一郎)

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