こんなにある、アイロン不要ワイシャツ 色柄増え人気

洗濯してもしわになりにくい加工を施した形態安定シャツ。20年ほど前に登場し、現在ではワイシャツの「標準装備」といえるまでに浸透したが、そのシャツが近年「ノーアイロンシャツ」として、さらなる進化を遂げている。
クリーニング代の軽減やアイロン掛けの負担軽減に
東京で営業職をしている20代の男性はここ2年ほど、ワイシャツを購入する時はノーアイロンシャツを選ぶようにしている。それまでは自分で洗濯するのが面倒でクリーニングに出していたが、ノーアイロンシャツにしてからは自宅で洗うようになった。「それまで買っていたシャツよりも値が張るが、クリーニング代や手間を考えると割安」。また、外回りで動いてもしわになりにくいことも気に入っている理由だという。
夫婦で働きながら子育てしている勝田絢子さんも夫のシャツにノーアイロンシャツを取り入れている。アイロンがけの手間が省けるのがうれしいという。「シワもほとんど気にならない」と勝田さん。紳士服店でまとめて購入するそうだ。
個人向けに洋服選びなどのスタイリングを行うパーソナルスタイリストのみなみ佳菜さんも、ノーアイロンシャツに注目している。
「ここ2年ほどで、ノーアイロンシャツもバリエーションが増えてきました。これまで化学繊維のものばかりだったのが、コットン100%のものも増え、着心地も良くなっています。売り場でも以前は隅のほうに少し置かれている程度だったのが、最近はどこからどこまでがノーアイロンシャツのコーナーかわからないほど広がってきています。スタイリングする際にも、奥様のアイロン掛けの手間やクリーニング代の負担が軽減されることを考え、ノーアイロンシャツをおすすめしています」(みなみさん)
改良を重ねヒットしたはるやま商事の「アイシャツ」
昨年11月、はるやま商事は「i-Shirt(アイシャツ)」(税込み5508円~)の累計販売枚数が150万枚を突破したと発表した。アイシャツは2009年4月に発売された、ノーアイロンシャツの先駆けともいえる商品。「完全ノーアイロン」をうたった同社のヒット商品だ。

シャツがしわにならないかどうかは、W&W性(ウォッシュ&ウエア性)という洗濯後のしわの残り具合を示す数値によってあらわす。これが3.2級以上だと「形態安定」と表記することができるが、アイシャツはこのW&W性において最高水準の5.0級を獲得している。形態安定シャツでも洗濯後しわが残ることは多いが、アイシャツはしわの残りやすい縫製部分にもしわができにくい。
「発売当初は生地が分厚く、『ワイシャツなのにポロシャツのよう』という声もありましたが、改良を重ね普通のシャツと変わりなく着られるようになりました」(はるやまホールディングス広報担当)
2014年には累計販売枚数が50万枚を突破。この年には、実際にシャツを着る男性ではなく、主婦層に向けて毎日のアイロンがけが不要になることをアピールしたCMを展開したところ、「少しでも家事の負担を減らしたい主婦のお客様の関心を集めた」(はるやまホールディングス広報担当)。これが売り上げの増加につながり、2年ほどでさらに100万枚を売り上げた。同社の紳士服店「P.S.FA」では、アイシャツだけをまとめて購入する人も多く、夫のシャツを購入する主婦層や一人暮らしのビジネスマンのほか、就活生からの人気も高い。
「アイシャツはアイロン不要なことに加え、部屋干しでも50分で乾くのも特徴の一つです。さらに、抗菌・消臭加工がされているので部屋干し独特の臭いもつかない。就活生はあまりたくさんシャツは買えないですし、少ない枚数で着回せることから好評を得ています」(はるやまホールディングス広報担当)
また、アイシャツはポリエステル素材だが「綿素材のものがほしい」との消費者の声を受け、昨年3月に綿98パーセントの「Cotton Premium Care(コットンプレミアムケア)」(税込み6264円)を発売した。ポリウレタンを2パーセント混紡しているのは、ストレッチ性を高めるため。こちらの売れ行きも好調だという。
青山のノーアイロンシャツも生産数を増やして対応

青山商事も、早くからノーアイロンシャツを発売した企業だ。2009年8月から発売している「NON IRONMAX(ノンアイロンマックス)」は綿100%が特徴で、日清紡テキスタイルが開発した素材「アポロコット」を使用している。W&W性の級数は4.0級で、洗濯機で丸洗いしたままアイロンをかけなくてもしわが残らず、毎日の着用には支障がない。
「嫌いな家事にアイロンがけを挙げる方は多いですし、近年は節約志向からもクリーニングに出さなくても済むノーアイロンシャツは人気です。売り場ではまとめてお買い上げになる方が多く、リピーターも増えています」(青山商事広報室 竹野正治さん)
発売当初から順調に推移し、現在の累計販売枚数は500万枚。2016年には制菌加工と襟カフス部分の防汚加工を追加し、より高機能な商品としての価値を付加した。昨年はリピーターの数が多く、売り切れてしまう店舗も多かったため、今春は前年よりも生産数を4割増やす。
アオキにコナカ 他社も開発を進める
こうした人気を受け、他社も開発を進める。2016年、AOKIはアイロンがけなしで着用できる「スーパーノーアイロンシャツ」を発売。「手入れが簡単なビジネスシャツを探している人が増加していることから、本格的に着手した」(AOKI商品企画担当者)。コナカも「サイズ、デザイン面での拡充を図る」(コナカ総務部担当者)。

また、2015年9月にはスーパー大手のイトーヨーカ堂が「超・形態安定シャツ」(税込み2900円)を発売した。製造工程のコストを抑え、5000円前後が多い他社のノーアイロンシャツと比較して2000円近く安い価格を実現。「ノーアイロン」とはうたっていないが、W&W性で4.0級と高い形態安定性があり、アイロンなしでそのまま着ることができる。セブン&アイ・ホールディングス広報センターの関口遥さんによれば「計画を上回る、好調な売れ行き」。今春には色柄のバリエーションを増やし、夏向けに通気性の良い素材のものを発売予定だ。

ノーアイロンシャツを選ぶポイントは?
進化を遂げるノーアイロンシャツは、発売当初こそ「ポロシャツのよう」だったが、近年は普通のシャツと遜色なく着ることができる。みなみさんも、「着こなしで気をつけることは、普通のシャツと変わらない」と語る。
一方で、注意したいのは購入時のサイズ選びだ。みなみさんによれば現在の紳士服は細身がトレンドだが、ノーアイロンシャツを購入する人の中には手軽さだけに目がいってしまい、サイズ選びがおろそかになる場合も多いという。
「首回りは指が一本入るくらい、袖丈はジャケットから1センチ出る程度が基本。ノーアイロンシャツはせっかく日ごろ楽ができるアイテムですし、最近はサイズも豊富なので、購入時くらいは手間をかけ、体にフィットするものを選ぶといいのではないでしょうか」(みなみさん)
また、すでにサイズを気にせず購入してしまった場合も、カジュアルシーンで着るのであれば「一番上のボタンを開け、袖をまくったりするとこなれた感じも出て十分に使える」という。
春から新生活がはじまる人も多いだろう。気持ち新たにシャツを購入するなら、アイロンいらずのワイシャツを選んでみてはいかがだろうか。
(ライター 小沼理=かみゆ)
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