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技術先行でなく顧客ニーズ起点、100事業展開のオムロン

CTO30会議(8)

日経BPクリーンテック研究所

オムロンは1933年の創業時から、顧客のニーズに応える形で一つひとつ事業を立ち上げてきた。今では100以上の事業を持つ。企業全体として特定の事業に依存することはなく、最大規模の血圧計分野でも売上高は500億円程度。ベンチャー企業程度の規模の事業も少なくない。そんな同社は、2015年4月にCTO(最高技術責任者)職を設置した。最大の理由は、事業間の橋渡しを求めるケースが増えてきたことだ。初代CTOである宮田喜一郎執行役員常務に、CTO職が必要になった背景やCTOに求められる能力について聞いた。

――CTO職を設置した背景には何があったのでしょうか。

写真1 オムロンCTO 宮田喜一郎執行役員常務(撮影:今 紀之)

宮田 技術の進歩が急速になってきたことが背景にあります。それによって事業を取り巻く環境が大きく変化するため、経営に技術の視点が必要になりました。そこでCTOを設置することにしたのです。

今から7年前の2010年に長期ビジョン戦略「VG2020」を作成しました。2011年からの10年間に取り組む内容をまとめたものです。ところが時間が経過してみると、技術による環境変化が激しく、予想しなかった分野から競合企業が現れたり、今まで競合企業と思っていた企業と手を組んだりといったことが何度も起こりました。そこで私のCTO就任後、VG2020のうち2017年から2020年の4年間の戦略を、技術を核に練り直し、「VG2.0」に変更しました。

――技術の変化は主にどの分野で起こっていますか。

宮田 変化が激しいのは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボティクス、ヘルスケアの4分野です。これまで技術についてはカンパニーごとに対応していました。しかし最近は、全社横断的に関わってくる技術が増えています。先ほど挙げた変化が激しい4分野の技術は、どれも複数のカンパニーに関わります。そうした技術と、それに関わる技術者の横断的なマネジメントをCTOが担当します。各カンパニーで技術者を抱えるよりも、全社でまとめた方が効率的に動けるうえ、獲得したノウハウを別の事業で生かしやすくなります。

――技術の横断的なマネジメント以外にもCTOの役割があると思いますが、どのようなものがありますか。

宮田 CTOは将来像を作ることが仕事です。構想と言ってもいい。その将来像からバックキャストして現在の事業の方向性が適切なのかもCTOが判断します。

打ち出した構想を外に向かって発信することもCTOの重要な役割です。外での講演、決算発表、展示会など話ができるところへ行っては構想を発表します。さらに、構想に共感した企業をパートナーにすることで仲間を増やしていきます。

このほか、技術を手段にして事業を生み出すマネジメントもCTOの仕事になります。

――その事業を生み出すマネジメントについて詳しく教えてください。

宮田 創業者の立石一真が1970年に国際未来学会で「SINIC(Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution)理論」という未来予測理論を発表しました。SINICとは、科学と技術と社会が相互作用しながら進歩していくという理論で、現在は情報化社会から次の最適化社会に移ったところです。40年以上前の理論ですが、結構な精度で当たっています。オムロンの技術経営は、この科学と技術と社会の相互作用をベースに考えられています。

科学は技術のネタを作り、発展させます。この部分は大学などとオープンイノベーション環境で進めています。そして、科学から生まれた技術を磨き、その技術を手段として社会に提供できる形にします。そしてトライ&エラーを繰り返し、技術を磨きます。これがオムロンの得意な事業化スタイルです。科学と技術が社会を変えていくという流れです。この流れを管理するのがCTOになります。CTOは、技術をコアにして、経営を革新する役割を担います。

技術をコアにすると言っても、技術先行で事業を考え出すわけではありません。ファジー制御や画像処理などでAI開発には数十年前から取り組んでいますし、最近話題のディープラーニング(深層学習)も研究しています。マシンパワーが向上して、ディープラーニングの処理スピードが上がり、精度も高まりました。でも、それと事業化は別の話です。あくまでも顧客の課題解決のための選択肢の一つに過ぎません。

――CTOに求められる能力は何ですか。

宮田 技術系の責任者という点では技術本部長に近いイメージがあるかもしれませんが、CTOは経営者として経営戦略に関わる点が違います。経営が分からないとCTOは務まりません。今日からでもカンパニー長を務められるだけの能力が求められます。

CTOは常にカンパニー長と連携しながら経営を行っています。そのためカンパニー長から相談を受けることが多くあります。その時に的確にアドバイスができなければいけません。自社で開発するべきか、外部から買ってくるのか、どれだけの投資対効果を求めるのか、技術が分かっているだけでなく、経営的な視点でものを言えないとだめです。

――CTOの仕事をする上で役立った経験は何ですか。

宮田 繰り返しになりますが、CTOは経営が分からないといけません。そういう意味でカンパニー長の経験が圧倒的に役に立ちました。お金の使い方、投資対効果のレベル感、価格競争に陥らないようにするための価値の考え方など、実際の経営を経験することで身に付くことはたくさんあります。それがCTOになってからも大いに役立っています。

だからCTOになる前にカンパニー長の経験をしていた方がいいのです。あるいはどこかのタイミングで子会社の社長を経験するとか、CTOになる前のどこかで経営をやってみることが求められるでしょう。

――CTOとして課題は何ですか。

宮田 今後の課題は、技術者を全体的にレベルアップする方法を考えることです。人材育成の仕組みを考えて、海外経験などキャリアパスを考えます。どの人材にどういった経験を積ませたらいいのか、全社の技術者のキャリアパスを考えて行かなければいけないと思っています。

――御社は事業の数がとても多いですが、事業を作るポイントを教えてください。

宮田 オムロンの事業は、社会課題や顧客のニーズが起点となります。私たちは技術先行で事業を作ることはありません。顧客の課題を解決して事業化しているうちに、その数は100カテゴリーになりました。

写真2 宮田常務(撮影:今 紀之)

顧客の課題解決を事業化するときには、試しにやってみることから始めます。このトライ&エラーをオムロンでは「味見システム」と呼んでいます。

実は、この味見システムを少し変えていこうと考えています。これまで味見システムは、カンパニーごと個別に行っていました。ただ最近、カンパニー単独では対応しきれなくなってきました。理由は2つあります。一つは、複数のカンパニーにまたがる案件が増えてきたこと。そしてもう一つは、顧客からのニーズが多様化してきたことです。

そこで、味見システムを素早く動かす組織をCTO直下に作ろうとしています。各カンパニーで行う味見システムは継続しつつ、複数のカンパニーにまたがる案件や、カンパニーでは処理しきれない案件には、CTO配下の新組織で対応しようというわけです。トライ&エラーに特化した部隊が取り組むことで効率を高めて、できるだけ多くの顧客ニーズに対応できるようにします。

この組織は2017年4月に設置する予定です。オムロンでは、ニーズがはっきりしていなければ組織を作りません。今回の組織もカンパニーからの要望に応えるものです。社内の誰が顧客ニーズをつかんでいるかは分かっていますから、それを整理・分析し、課題解決のモデルを作っていきます。あとは実際にトライ&エラーを繰り返して事業化のめどを立てます。事業化できるとなれば、インキュベーション部隊に渡して事業化を進めます。

CTOの下にこの専門組織を設けることには、もう一つメリットがあります。各カンパニーからニーズを集めることで、別のカンパニーで応用しやすくなることです。この解決法を別の事業にも当てはめてみようとか、これは新興国市場でやってみようなど、いろいろなアイデアが出て、一つのカンパニーで閉じていたら気がつかなかったことが、つながるようになります。

――事業化する上で条件としていることはありますか。

宮田 顧客が「困った」と言ったら、「お任せください」というのがオムロンのポリシーです。従って、手掛ける事業に条件はありません。顧客からのニーズには、原則対応するようにしています。粘り強く顧客の要望に対応することがオムロンの強みにつながっています。

「顧客からこんなこと聞いてきた」と言えば、「それはものになる」と事業を立ち上げ続けて、100のカテゴリーにまで増えたのです。もちろん、事業化する上でのチェック項目はあります。「中長期的なニーズに合致しているか」、「技術の強みが生きるか」、「ビジネスモデルが成立するか」などです。でも、原則はニーズがあれば、事業化することです。

――現在、オムロンが着目している分野はどこですか。

宮田 ものづくり、ヘルスケア、モビリティ、エネルギー管理の4分野です。これらの分野では技術革新が進み、ニーズも次から次へと生まれています。

例を挙げると、工場には課題が山積みです。自動化のためにロボットを入れると危険なので柵を設けます。しかし、作業する上では柵はないほうがいい。スペースもできれば費やしたくない。そこで、この柵をどうやって取り除くかを考えます。

ほかにも、ロボットでチューブのようなものをつかみたいというニーズがあります。しかし従来のロボットは柔らかいものをつかむのが苦手ですから、解決策が必要です。また、不良品が出る前に生産ラインを止められれば、損失が少なくて済みます。工場ひとつをとってもニーズは尽きません。

実際には、熟練者が顧客の生産ラインを見て課題の本質を見極め、解決の方法を探ります。顧客のそばで話を聞きながら、解決方法を見つけていくわけです。こうして経験を重ねてきた結果、最近では、顧客から生産ラインを見てほしいと求められることが多くなりました。

ヘルスケアやモビリティ、エネルギー管理の分野にも課題がたくさんあります。それだけ事業化のタネが多くあるということです。オムロンが昔から手掛けているいくつかの事業領域で、最近、新規参入が増えてきています。それだけオムロンのビジネス領域に市場としての魅力があるということだと思います。

(聞き手=日経BPクリーンテック研究所 菊池珠夫)

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