/

20年東京五輪に期待される重すぎる役割

編集委員 北川和徳

2024年夏季五輪の招致レースからハンガリーの首都ブダペストが撤退。今年9月に決定する開催都市の候補に残るのはパリとロサンゼルスだけとなった。もともと下馬評は両者の2強対決で、ブダペスト撤退で招致レースに大きな影響がでるわけではない。

来日したIOCのコーツ副会長(右)。3年後に東京大会を控えた五輪はあり方の見直しを迫られている=共同

招致レースからブタペスト離脱の意味

だが、五輪の未来を考えたとき、東欧で初の夏季大会を目指したブダペストが離脱に追い込まれた意味は大きい。3年後に東京大会を控えた五輪は、そのあり方の抜本的な見直しを迫られている。

24年招致レースからの撤退は、ハンブルク(ドイツ)、ローマに続いて3都市目。当初は立候補を目指したボストン(米国)が途中断念した経緯もある。22年冬季五輪も次々と候補都市が脱落、最後は北京とアルマトイ(カザフスタン)のアジア2都市だけになった。

撤退の理由はいずれも膨れあがる開催経費を懸念する住民の反発。ブダペストでは反対派の市民団体が招致の是非を問う住民投票の実施に必要な数の倍以上の26万人の署名を集めたことが決め手となった。欧米の都市では住民投票が五輪招致の前提になりつつある。

五輪開催を引き受ける都市がなくなるピンチは過去にもあった。1970年代から80年代にかけてだ。76年モントリオール大会が莫大な赤字を残し、84年大会に名乗りを挙げたのは80年大会の招致でモスクワに敗れたロサンゼルスだけ。しかも、モスクワ大会はソ連(当時)のアフガニスタン侵攻によって西側諸国がボイコットした。84年にロスが再び大赤字をだせば、五輪は存続の危機を迎えていただろう。

都市発展の起爆剤…今は通用せず

だがロス五輪の組織委員長を務めたビジネスマンのピーター・ユベロス氏(後の大リーグコミッショナー)が救世主となった。既存施設をフルに活用してコストを抑え、商業主義の導入によってテレビ放映権料やスポンサー収入で資金を稼ぎ、公的資金を1セントも使わずに巨額の黒字を出したことで五輪は息を吹き返した。

以後、スポーツの祭典を都市発展の起爆剤にしようと世界の都市が五輪招致に殺到。招致レースは盛況を極めた。公金を使わずに黒字にできて、世界中が注目する大イベントの舞台となれるのなら、どこの都市だって五輪を開催したいと考えるだろう。ところが、このロス方式は今ではまったく通用しない。

そうなった原因もロスが導いてくれた五輪の繁栄にある。商業主義の導入で五輪は「カネのなる木」となった。実施される競技の国際団体(IF)にも資金が流れ込み、競技の普及や発展も進んだ。プロのトップアスリートの参加が当たり前になり、大会は肥大化し、華やかさは増す一方。各IFは自らの競技の価値を最大化しようと、開催都市に世界最高の舞台にふさわしい施設の整備を求める。

東京大会で競泳会場として新設するオリンピックアクアティクスセンター(東京・江東区)に関して、小池百合子都知事が国際水泳連盟の役員に「(収容)2万人の計画でしたが1万5000人に減らしてもいいですね」と耳打ちして、事前了解を求めたシーンを覚えている人も多いだろう。

盛り上がった札幌冬季アジア大会。ただ、冬季五輪となれば多額の開催経費がかかる=共同

26年冬季五輪目指す札幌市はどうする

五輪の競技施設には各IFや国際オリンピック委員会(IOC)が要求する収容数や放送設備など様々な条件がある。既存施設を使おうにもそのままでは対応できず、その結果、開催経費は膨らみ続ける。さらに昨今はサイバーテロを含めて警備対策に莫大な資金を使わざるを得ない。

ブダペストが撤退を表明した先月下旬、北海道の札幌市などでは冬季アジア大会が開催されていた。札幌市は26年冬季五輪招致の意思を現時点で唯一明確にしている都市だ。アジア大会は開閉会式を行った札幌ドームなど会場はすべて既存施設を活用し、開催経費は約69億円とされる。ジャンプは大倉山と宮の森の両ジャンプ台、フィギュアスケートは真駒内セキスイハイムアイスアリーナ、アイスホッケーは月寒体育館、アルペンスキーとスノーボードはテイネスキー場など、懐かしい72年札幌冬季五輪のレガシー(遺産)が舞台となった。

アイスアリーナや体育館はかなり古ぼけた感もあるが、競技開催にはなんの支障もない。来日していたIOCのジョン・コーツ副会長も同大会の運営を高く評価した。ところがアジア大会はこれで十分でも、五輪開催となると通用しない。

フラッグツアーを行う小池百合子東京都知事ら。東京は五輪運動に新たな方向性を示せるか=共同

小手先の対処では解決にならない

札幌市が用意した26年大会の開催提案書によれば、真駒内セキスイハイムアイスアリーナや月寒体育館は建て替えが必要。屋内リンクで実施するスピードスケートは、アジア大会では帯広市の明治北海道十勝オーバルを使用したが、五輪では大幅な座席増が必要となるため、やはり72年の会場である真駒内の屋外リンクを建て替える案が有力という。負のレガシーになりがちなボブスレーやリュージュのコースは、今は閉鎖されている72年大会のコース跡地に再整備するとしている。

最大限既存施設を活用するが、選手村やメディアセンター、仮設費を含めた施設整備費は26年時点で約2900億円(スピードスケートを札幌市で開催の場合)。さらに警備や輸送などの運営費を含めて開催経費は総額4565億円と試算されている。

招致都市が相次いで逃げ出す事態にIOCも危機感を募らせ、24年開催都市を選ぶ際に、同時に28年も決めるというプランさえ浮上している。とりあえず28年までの開催地を確保しようという狙いだろうが、そんな小手先の対処をしても、将来を見通せばなんの解決にもつながらない。

20年東京大会は重い責任を背負う。もはや都の巨額の財政負担は避けられないが、そこに批判が集中して世界に発信される事態が続けば、五輪離れはさらに加速する。84年ロス五輪のように、新たな方向性を示して五輪運動の救世主となれるのか。現状ではとても達成できない無理難題としか思えない。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン