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ハーボニー偽造 なぜ起きた?

1人当たり460万円かかる高額なC型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品事件から、1カ月が過ぎた。販売元のギリアド・サイエンシズは3月から偽造品対策を施した薬剤包装に変更し、事件はひとまず収束しそうだ。だが今後別の高額薬でも安く仕入れようとする薬局を狙って、同種の事件が続く懸念は残る。業界団体が再発防止に向けて動き始めた。

偽造されたハーボニーの薬価は1錠約5万5000円で、28錠入りボトルの薬価は150万円を超える。

患者の95%以上に効く有効性の高さが評価され、処方が拡大。2016年の売上高は2960億円(IMSジャパン調べ)と、15年比で2.5倍に増加した。国内の医薬品売上高では2位以下に1千億円以上の差を付けて、断トツのトップ製品だ。

ハーボニーを取り扱う正規卸は、スズケンなど数社に限られる。医療現場からの需要が強い大型ヒット薬の場合、卸各社は病院や薬局などに対しほとんど値引きせずに納入するのが実態だ。

医薬品の場合、薬価と卸の納入価格との差が、薬局や病院が受け取る利幅になる。新薬の場合、この利幅(消費税分は除く)はおおむね1割弱とされる。

だが、ハーボニーの利幅(同)は「わずか1%しかない」(大学病院関係者)。加えて高額薬だけに管理面のリスクも負担になる。

国内販売額トップのハーボニーは、品ぞろえに欠かせない新薬だが、薬局にとっては収益面のうまみが乏しく、しかも扱いが難しい薬と映る。「少しでも安く仕入れたい」との動機が働きやすい薬といえる。

それでも偽造の手口はずさんだった。

「偽造品というにはあまりにも手口が稚拙。なのに引っかかるとは」。事件に対し、こうぼやく製薬関係者は多い。

奈良県の薬局などで見つかったハーボニーの「偽造品」は、ボトルの中身を漢方薬やビタミン剤などに入れ替えただけ。ボトルを開けて中身を確認しさえすれば、簡単に見分けることができたからだ。

ハーボニーのボトルの開口部は、アルミシールで密封されている。薬の保存状態が変わってしまうため、薬局でシールを外して中身を確認することは、ほとんどなかったという。

 そこで厚生労働省は、ボトルを患者の目の前で開封してから渡すよう、ギリアドと共同で関係各所に通達した。

さらにギリアドは来月からパッケージを刷新する。錠剤を目視で確認できる透明シートを採用。新パッケージが流通すれば、ボトルの中身を入れかえるような手口は今後通用しなくなる。

奈良県の薬局が仕入れた偽造品は、正規卸ではない「現金問屋」を経由したものだった。

現金問屋は東京・神田駅前に集まっている。薬局や病院の過剰在庫を買い取り、市価よりも大幅に安く販売している。薬局や病院が現金問屋から医薬品を仕入れても、違法ではない。「一昔前は、国立の病院なども薬を現金問屋から仕入れていた」(大手製薬関係者)という。

今回は現金問屋に持ち込まれた偽造品が、複数の卸を経て、薬局にたどりついた。現金問屋の仕入れチェックが不十分だったため、偽造品を持ち込んだ犯人はいまだに分かっていない。

ハーボニーの事件を通じて国内の医薬品流通に穴があり、そこを突けば容易に偽造品が入り込む事実が浮き彫りになった。再発防止に向けて業界団体も動き始めた。

日本薬剤師会は23日、日本保険薬局協会と日本チェーンドラッグストア協会と共同で、薬局間で医薬品を授受する際のガイドライン作りに着手したことを明らかにした。薬局間でも、医薬品の授受が日常的に行われているからで、譲渡時の確認や記録方法などを、まずまとめる予定だ。

しかし今回の事件の本質は医薬品卸業界の不適切な流通形態にある。薬局だけではなく医薬品卸業界でも、信頼性の高い流通の枠組みづくりが求められている。

(企業報道部 野村和博)

[日経産業新聞 2月27日付]

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