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存在感高まるトレセン近郊の牧場、馬の個性に合わせ臨戦態勢

栗東トレーニング・センター(滋賀県栗東市)などの日本中央競馬会(JRA)の調教拠点の近郊にある牧場が存在感を高めている。次のレースまでの間の競走馬の休養などに利用されるのだが、リフレッシュだけでなく、実戦に向けての臨戦態勢が整えられるような充実した調教施設を持つ牧場が増えている。

調教施設も充実、馬の入れ替え容易

こうした牧場を利用すれば、トレセンにいるレースを使った後の馬と、牧場にいるレースへの準備が整った休養馬の入れ替えがスムーズにでき、調教師は管理馬を効率的にレースに出走させられる。トレセン近郊の牧場のなかでも数多くの有力馬が利用しているのがノーザンファームしがらき(滋賀県甲賀市)だ。

タヌキの置物などの陶器を販売する店が軒を連ねる焼き物の町、信楽の中心部から車で10分ほど。のどかな山あいを進むと、ノーザンFしがらきが見えてくる。大手牧場のノーザンファーム(北海道安平町)が開設した牧場で、東京ドーム6個分にあたる約28ヘクタールという広い牧場内には11の厩舎があり、最大320頭が滞在できる。「近ごろは馬房が大体埋まっている」と場長の松本康宏さんは話す。

牧場内にある調教コースは900メートルの周回コースと直線800メートルの坂路の2つ。馬場には砂にゴム片やワックスを混ぜた人工素材を使用している。特に優れているのは坂路で、高低差が39.7メートル、最大の勾配は8%もある。全長1085メートルで高低差32メートル、最大勾配4.5%の栗東トレセンの坂路よりも傾斜がきつい。センサーで馬を感知し、自動的にカメラで追うシステムも設置。自動に計測されたタイムとともに、調教をモニターで確認できる。映像データは保存され、馬の走りや騎乗者の騎乗フォームをチェックするのに役立てているという。

オルフェーヴルなど有力馬も

診療所も設置されており、松本場長も含め、3人の獣医が診察、治療にあたる。レントゲンやエコー、内視鏡などを使った検査もできる。栗東トレセンから車で約30分という近さもあり、2010年の開場以来、11年の三冠馬オルフェーヴル、12年の牝馬三冠馬ジェンティルドンナなどの有力馬が休養期間をここで過ごした。昨年の有馬記念を勝ったサトノダイヤモンドもノーザンFしがらきを利用している。

現在、JRAに所属する調教師はJRAから貸し付けられた馬房数の2.5倍まで馬を預かることができる。標準的な20馬房の調教師の場合は最大50頭だ。一方で、レースに出走するには10日前(中央競馬に出走経験のない馬は15日前)までにトレセンに入らなくてはならない。

上記の例でいえば、50頭に馬房が20しかないことになる。一度レースを使った馬は、連戦する場合でも1カ月程度レース間隔を開けるケースが多い。その間に厩舎に置いて馬房をふさいでおいてしまっては、ほかの馬がレースに出られなくなってしまう。そのため、レース直後の馬を放牧に出して馬房を空け、空いた馬房に出走をさせたい馬を入れる必要が出てくる。この時に重要な役割を果たすのがトレセン近郊の牧場だ。近距離の牧場との間でこうした入れ替えが機動的にできれば、厩舎の管理馬全体を効率的にレースに出走させられる。実際、ノーザンFしがらきでも週に40~50頭と、頻繁に馬を入れ替えさせているという。

ノーザンFしがらきでは、馬はどのように過ごしているのか。レースの合間に滞在する施設だけに「リラックスさせるのがメインとなる」と松本場長。確かにすぐに実戦を迎える馬が集まるトレセンと比べると、雰囲気はのんびりとしている印象がある。朝5~11時の調教でも「そこまで苦しいトレーニングはしない」。

トレッドミル使い調子や個性に合わせ調教

ただ、次のレースを考えると、ゆるめすぎても問題がある。松本場長は「リラックスさせつつ、馬の状態を見ながら、スムーズに競馬に向かえるように調整することを心がけている」と語る。実際、調教コース以外にも、馬用のトレッドミル(ランニングマシン)を6基設けるなど、馬の調子や個性に合わせた、きめ細やかな調教ができる体制を整えている。トレッドミルの調教は人が乗らなくても済むため、脚元への負担を軽減したい馬や、人が乗ることにストレスを感じる馬などの調教に利用している。速度のほか、傾斜も変えられ、走る時間と組み合わせて負荷を調整するという。

馬の世話と調教を担当する従業員は65人。単純に計算をすれば、1人が4~5頭の馬を担当することになる。1人で2頭を担当するJRAのトレセンと比べると、多くの馬の面倒をみなくてはならない。そのため効率化の取り組みも進んでいる。

例えば、11ある厩舎に1基ずつ馬用のウオーキングマシンを設置している。円形の建物のような装置で、回転ドアのように壁に仕切られた部屋がいくつもあり、その壁が動くことで馬も一緒に歩く仕組み。通常、馬を歩かせて運動するときは人間が引いたり、乗ったりしなくてはならないが、この装置を使えば、馬がひとりでに歩くため、運動に人手がかからなくなる。

ノーザンFしがらきでは1度に8頭が使えるタイプを主に使用する。1つの厩舎には基本的に30頭の馬がいるが、朝一番に8頭をマシンに入れて歩かせる。その間に空いた8つの馬房を掃除。掃除が終わった馬房に、マシンに入っていない残りの馬のうちの8頭を移して、今度はその8頭がいた馬房を掃除する。これを繰り返すことによって、1組目が歩いている間に一気に馬房の掃除を終わらせる。こうしたウオーキングマシンを活用した効率化にも工夫を凝らす。

栗東トレセンからの距離が近いというのも効率的といえる。今後のレース選択や馬の調整などに、調教師との意思疎通がかかせないが、毎週水曜日には松本場長が栗東トレセンに出向き、木、金曜日にはノーザンFしがらきを訪れる栗東の調教師も多いという。なにより馬の入れ替えにかかる移動時間が少なく、「馬への負担が軽い」(松本場長)のも距離が近い利点である。充実した設備と効率的な運営で、今後も重要性を増していきそうだ。

(関根慶太郎)

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