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「自動運転車の実用化は間近」の大いなる錯覚

(3/3ページ)
2017/3/31 6:30
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 だが、切迫した事態について、AIが学習できるだけのサンプル数を実験によって確保することは、極めて困難だ。なぜなら、事故につながるような切迫した事態を公道で試すことが許可されることはあり得ず、サーキットなどの実験場でその環境を作り出すことも、精度を担保するための試行を重ねることも、途方もないコストが生じる。

 現実的な手段としては、人間があらかじめ定義・プログラミングする方法が選ばれる可能性が高いが、それにも大きな問題がある。定義するためには、切迫した事態における選択の優先順位を設定する必要がある。事故に巻き込まれる人間も点数化できるのであれば、設定が可能となるが、そもそも人間を点数化することなどできない。

 人間の点数化が困難であることの例を挙げてみよう。あなたは家族と自動運転車に乗っている。ある街に差し掛かった際に、道路の右側に学校帰りの子供たちが列をなしており、左側にはお年寄りが花見をしている。その時、目の前の大きなトラックが急ブレーキを踏んだ(図2)。

図2 切迫した事態にAIにどんな判断をさせるべきか
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図2 切迫した事態にAIにどんな判断をさせるべきか

もはや、今から急ブレーキをかけても衝突は避けられないし、衝突したら家族に生命の危険が及ぶ。とはいえ、衝突を避けるためにはハンドルを切らねばならず、子供たちとお年寄りのどちらかに生命の危険が及ぶだろう。そんな切迫した事態に、自動運転車はどのような対応を取るのか。

 「被害人数の少ない方法を取るべき」「未来ある子供たちを優先するべき」「他人を巻き込まずトラックにそのまま衝突をすべき」など様々な判断があるだろう。どの判断を下したとしても、それが正しい、悪いとは筆者としては一概に言えないし、読者の意見も割れるはずだ。

 どの判断を是とするかは、どの国でも裁判という形で個別事象を検証する方法を採っており、社会的なコンセンサスは取れていない。社会的なコンセンサスが取れていないということは、点数化ができないことを意味する。点数化ができない以上、人間による設定もできないということになる。

 言わずもがなではあるが、人間の点数化も含めた選択の優先順位が機械学習における評価基準になる。仮に試行を繰り返したとしても、評価基準が無いなら、機械学習では答えを出せない。つまり、いずれにせよ人間の点数化は避けては通れないことになる。

■国ごとに学習させればコストが飛躍的上昇

 機械学習をさせる場合は、さらに課題がある。当然ではあるが、国ごとに文化や道徳、倫理概念が異なる。そのため、大枠としてはほぼ同様な交通法規であっても、先ほど例示したような切迫した事態における判断の妥当性は、国ごとに異なってしまう。米国では薬局で購入できる薬が、日本では使用が禁止されている。それと同様の事が起こるわけだ。

 倫理的な面にまで踏み込んでグローバルで統一するためには、各国の法改正だけでは済まない。難易度の高い国家間の調整が必要となる。それをできないなら、AIに学習させる試行を国ごとに実施しなければならないことを意味し、国別に学習する試行量を確保する必要が生じるため、学習に対するコストが飛躍的に上昇してしまうだろう。

 倫理的、法的責任の所在についても根深い問題がある。事故が起きた場合、運転に関与していない自動車の所有者や搭乗者に責任が及ぶことには違和感があるはずだ。だからと言って、PL法(製造物責任法)を拡張して自動車メーカーに責任を負わせると、自動車メーカーは大きな賠償リスクを負うことになり、販売を自粛する可能性が高い。

 損害保険を適用させるとなると、今度は保険料を誰が支払うのかという問題が生じる。自動車損害賠償責任保険(自賠責)の拡大で対応すると、所有者の負担が増すことになる。

 こうした問題は当然、自動車メーカーも行政も子細に把握している。そのため経産省も、2020年代の実現目標を「自動運転車だけが走る閉じた環境での実用化」にとどめている。オープンな公道での実用化は、社会(国民)の理解を前提に、抜本的な法改正を行わない限り不可能と言わざるを得ない。

ベイカレント・コンサルティング 宮崎丈史)

[ITpro2017年2月21日付の記事を再構成]

宮崎丈史(みやざき・たけし) ベイカレント・コンサルティング エグゼクティブ・パートナー。外資系総合コンサルティングファーム戦略グループを経て現職。通信、メディア、ハイテク企業を中心に、新規事業・サービスの構築/立ち上げ、事業再構築、マーケティング戦略やオペレーション改革の立案から実行までを支援。新規事業に関するアイデア出しから、成功に導くためのストーリー作成を得意とする。

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