SOMPO、スマートグラスで保険現地調査
SOMPOホールディングスは火災保険の損壊現場を調べるため眼鏡型のウエアラブル機器、スマートグラスを導入した。社員が取り付けて現場に赴き、保険の専門知識を持つオペレーターが遠く離れた場所から撮影すべき箇所をスマートグラスの画面上に指示する。専門家不足の解消につながるスマートグラスの活躍の場が保険にも広がってきた。

同社子会社で住宅改修のフレッシュハウス(横浜市、中村秀社長)がSOMPOホールディングスから依頼を受けて調査する。火災保険が対象だが、実際は火災よりも台風や水害による損壊の現場に赴くことが多い。
フレッシュハウスは昨年10月に横浜市の2店舗と福岡市の1店舗で導入。今年9月までに全29店舗で採用する。ソフト開発のオプティムがスマートグラスを納める。赤ペンでグラスの画面上に印を付けられる独自機能を持つソフトを、テレパシージャパン(東京・中央、鈴木健一社長)の単眼式グラス、セイコーエプソンの両眼式グラスに入れて販売する。
グラスで大きく3つのことができる。離れているオペレーターから携帯電話網と無線ルーターを通し、利用者に音声が届けられる。2つ目はオペレーターが赤ペンでパソコンに指示を書き込み、現場社員がグラス画面でみられること。最後にオペレーターが写真の撮影を実行できることだ。
フレッシュハウスの本業は改修だが、2015年にSOMPOホールディングスの傘下に入り新たな業務を担うことになった。ただ、保険の専門知識を持つ社員は拠点に1~2人しかいない。
保険の知識がない社員が損害範囲を正確に撮影することは難しい。経営企画部提携推進課の佐山幸康課長は「撮り直しが発生し、保険金の支払いが遅れることもあった」と振り返る。

そこでグラスを導入。オペレーターはグラスのカメラ映像をパソコン上で共有しながら「写真を撮るから、そこで止まって」と指示して遠隔地からシャッターを切る。
状況に応じて「もっと壁に近づいて」「マークした部分を見上げて」と伝達。赤ペンの機能を使うと、建物の特定部分など「言葉では伝えにくい部分をピンポイントで伝えられる」と佐山氏。
当初はスマートフォンで代用する案も検討したが、両手が自由に使えるグラスに決めた。
オプティムのグラスは「接写できるので重宝している」と佐山氏は言う。住宅設備の品番を撮影したり、メジャーを当てて寸法を撮影したりする際に、細かいところまできちんと写る。
カメラ映像の動画は自動的に保存され、撮り忘れがあっても後から静止画を切り出せる。また、静止画や動画のデータはすべてオペレーター側のパソコンに保存され、グラスの中に残らない。このため万が一グラスを紛失しても個人情報が流出するリスクを減らせる。
グラスの導入で社員の業務は変わった。導入前はSOMPOホールディングスに提出する見積書をリフォーム担当の社員が作成し、保険の専門社員がチェックしていた。見積書の手直しが発生、時間がかかっていた。
新たな体制では保険の専門社員が直接、見積書を作成している。写真の撮影ミスに加えて書類の手直しも減って作業効率が大幅に改善した。佐山氏は「調査と見積もりを合わせた期間を従来の1週間から2日ほど短縮できただろう」と語る。
2018年4月からは火災保険の見積もりだけでなく、リフォームにもグラスを活用する。仮想現実(VR)機器として使い、リフォーム後の3次元データをVRコンテンツに変換して顧客に見てもらう。その際は両眼式を利用する。
スマートグラスを巡っては、三菱ふそうトラック・バスが修理の作業を遠隔から助言するために利用するなど、工場や保守の拠点で利用され始めた。専門家や熟練者がハブとなり、遠隔地の作業を効率化する利点は大きく、導入が広がる見通しだ。
(企業報道部 木村雅秀)
[日経産業新聞 2月22日付]
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