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航空機事故から3カ月 シャペコエンセ再建途上

サッカージャーナリスト 沢田啓明

昨年11月末に起きたスポーツ史上最大規模の惨事から間もなく3カ月が過ぎようとしている。コパ・スダメリカーナ(南米カップ、欧州リーグに相当)決勝第1レグを戦うためコロンビア南西部メデジンに向かっていたブラジルのサッカークラブ、シャペコエンセの選手、コーチングスタッフ、クラブ幹部、随行記者団ら77人を乗せたチャーター機が空港手前の山岳地帯に墜落し、71人が死亡した事故だ。コロンビアの航空当局は「事故の直接の原因はチャーター機の燃料不足」と発表した。

シャペコエンセは1973年、ブラジル南西部の小都市シャペコに創設された新興クラブだ。当初は地域リーグに参加するだけで、2000年代前半には財政難から存続の危機を迎えた。しかし、08年に地元で果物の配送業を営む実業家サンドロ・パラオーロ氏が「南米王者になる」という無謀としか思えない目標を掲げて会長に就任。地元経済界との強いパイプを生かして大企業から中小企業までスポンサーを集め、クラブのソシオ(会員)を増やして財政基盤を強化した。

下部組織に投資して若手育成に力を注ぎ、外部から選手を迎え入れる場合も費用対効果を徹底的に追求して強化を目指した。09年、全国リーグ4部に参戦してから昇格を繰り返し、わずか5年間で1部へ駆け上がるという快挙をなし遂げた。さらに、昨年はコパ・スダメリカーナで快進撃を続け、「奇跡のクラブ」と呼ばれていた。クラブ史上最高の状況を迎えたまさにそのとき、悲劇に見舞われたのである。

世界中のクラブが追悼のメッセージを発表し、試合前に黙とうをささげて連帯感を示した。犠牲者の中には09年に神戸を率いたカイオ・ジュニオール監督、12年にC大阪、13~14年に千葉で活躍したFWケンペスら5人のJリーグ経験者がおり、日本のサッカー関係者とファンにも衝撃を与えた。

自前で再建、特別な優遇措置望まず

ブラジル国内の多くのクラブが所属選手の期限付き移籍を探るなどの支援を申し出たほか、複数の有力クラブが「今後3年間、シャペコエンセは成績に関わらず1部に残留させたらどうか」とブラジルサッカー連盟に提案した。ところが、当のシャペコエンセが「特別な優遇措置は望まない」としてこれを拒絶。クラブとチームをゼロからつくり直す、というサッカー史上でも例のない挑戦に乗り出した。

南米サッカー連盟は、シャペコエンセを昨年のコパ・スダメリカーナ優勝チームに認定。これにより、今季、南米のクラブレベルで最高峰の大会であるコパ・リベルタドーレスに初参戦する。これを含めて7つの公式大会に参加する予定で、最多で90試合以上をこなさなければならない。

昨年12月初め、クラブは新たに強化部を発足させ、かつて中堅クラブを率いてコパ・ド・ブラジル(ブラジルカップ)を制覇した実績を持つバグネル・マンシーニ氏を監督に招いた。クリスマスと新年の休みを返上してチームづくりに奔走し、30人以上の選手を獲得した。

プリニオ・ダビ・デ・ネス・フィーリョ会長は今季の目標として「全国リーグで10位以内に食い込み、コパ・リベルタドーレスで1次リーグを突破し、州選手権で優勝すること」を掲げる。

全国リーグは20チームが参加し、下位4チームが自動降格する。実力が拮抗している熾烈(しれつ)なリーグで、ゼロからスタートしたチームが残留を果たすのは容易ではない。

マンシーニ監督は中盤で激しく守って相手ボールを奪い、手数をかけずに素早く攻めるスタイルを志向している。しかし、現時点では守備では1対1でもカバーリングでもミスが多く、攻撃ではゴール前で呼吸が合わないシーンが目立ち、連携不足は否めない。

今年1月末に開幕した州選手権には10チームが参加して2ステージ制で行われているが、第1ステージの第6節を終えた時点で2勝2分2敗の6位。首位との勝ち点差が10に開き、第1ステージ制覇は絶望的で、第2ステージで巻き返すしかない。

3月7日にはコパ・リベルタドーレスの1次リーグが始まり、5月6日には全国リーグが開幕する。それまでに、チームの総合力を格段に高めなければならない。

フロントと選手、サポーターが一丸

状況は厳しいが、望みはある。今月19日の州選手権フィゲイレンセ戦で、酷暑の中、チームは序盤から積極的に攻め、多くの決定機をつくり出した。シュートが相手GKの再三の好守に阻まれたりバーに跳ね返されたりする不運があり、相手に数少ない決定機を決められて敗色濃厚だったが、終盤、右からのクロスを頭で決めて追いつき、その後も必死に攻めた。結局、引き分けに終わったが、試合終了後、半数以上の選手がピッチに倒れたまま。すべての力を出し尽くした姿に、サポーターは総立ちで拍手を送った。

昨年の「奇跡のチーム」はもはやない。同様の快挙を期待するのは酷だろう。それでもクラブのフロント、選手、そしてサポーターが一丸となって新たな歴史をつくろうとしている。

小さな町の小さなクラブが今後、どのように再建されるのか。その過程をじっくり見守りたいと考えている。

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