サウジアラムコのIPO、米投資銀が助言

2017/2/17 6:30
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サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは、2018年に計画している新規株式公開(IPO)のアドバイザーとして米投資銀行のモーリスを起用すると決めた。時価総額2兆ドル(220兆円)を超えるとされるメガIPOのプロセスが動き出す。

サウジアラビアは大きな変化に直面する(首都リヤド市内)

サウジアラビアは大きな変化に直面する(首都リヤド市内)

モーリスは07年設立の「ブティック」と呼ばれる専門の投資銀行だ。アラムコIPOのアドバイザーには知名度のある国際金融機関が選定されていると見込んでいた市場関係者にとっては驚きだった。モーリスは米国内のM&A(合併・買収)で実績をあげてきたが、エネルギー業界の大型IPOの経験はほとんどなかった。

複数の市場で実施するとみられるIPOでは、ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、香港とともに東京証券取引所も名乗りをあげている。上場する市場はサウジのタダウル証券取引所のほか2、3カ所になるとの見方が有力だ。

日本取引所グループの清田瞭グループ最高経営責任者(CEO)が昨年12月にリヤドを訪問してムハンマド副皇太子と会談するなど日本の関係者の誘致への期待は大きいが、楽観できる状況ではない。サウジ国内の消息筋は「東京が選ばれる可能性は20%程度」と明かす。

モーリスの選定で、ニューヨークが誘致競争で一歩前に出た形だ。サウジは米国と同盟を維持し、投資額のランキングで見ても米国が突出するなど深い関係をもつ。アラムコが世界最大の株式市場であるニューヨークを上場先に選ぶのは自然に思えるが、実はサウジと米国の双方に反対論がある。

01年の米同時テロでは、首謀者のビンラディン容疑者のほか実行犯19人のうち15人がサウジ出身者だったため、米国内には感情的な反発がある。一方、オバマ政権下の昨年9月に、米国で「テロ支援者制裁法(JASTA)」が成立したことで、サウジ側にも米市場への敬遠論がある。同時テロの被害者遺族が外国政府に損害賠償を請求できる内容で、事実上サウジ政府を標的にしているとみられている。

モーリスのアドバイザー起用には政治的意図がうかがえる。代表のケン・モーリス氏は昨年の米大統領選で不利とみられていたトランプ氏の当選をいち早く予測したことで知られる。モーリスは14年に米共和党のエリック・カンター下院院内総務を副会長として迎え入れるなど、トランプ共和党政権との親密な関係が指摘されている。

アラムコのIPOに伴う価値評価では同社が抱える原油埋蔵量が焦点になる。英BPの推計によれば埋蔵量は2666億バレルにのぼる。アラムコは独立組織に埋蔵量についての算定を依頼している。国際IPOに伴い、これまで謎に包まれていたアラムコの財務情報についても明らかになるとみられる。

モーリスは今後、株式引き受け幹事の選定でアラムコに助言する。上場する市場を決めるため、今年前半にも各地を視察し関係者と協議する。そのうえで年内にどの市場に上場するかを決定するとみられる。

脱石油、副皇太子が主導

サウジアラムコのIPOは、脱・石油による産業多角化などの野心的な政策を盛り込んだムハンマド副皇太子主導の改革計画「ビジョン2030」の目玉だ。原油価格がピークの半値以下で推移するなかでの大胆な改革にはリスクも指摘される。

アラムコの上場は世界のIPO史上、最大規模になるとみられている。サウジは最大5%の株式を売却する予定で、その資金を元手に受け皿となるファンド「PIF」を世界最大となる2兆ドルのソブリンファンドに育てようとしている。

人口が急増するサウジは、石油収入に頼った経済運営が続けられず、大きな変化に直面する。

改革の旗印は「脱・石油」だ。現在1630億サウジリヤル(約4.9兆円)の非石油収入を1兆リヤルに拡大することを目指す。国内総生産(GDP)に占める外国直接投資の割合を3.8%から5.7%までに引き上げることを目標にするなど、経済の開放を進める立場を打ち出している。

しかし、改革のスピードに官僚組織や国民がついていけるのかという疑問は残る。王室が改革路線で団結を維持できるかどうかが焦点になる。

ムハンマド副皇太子は王位継承順位ではムハンマド皇太子の下位に位置する。皇太子と副皇太子が同名であるため、皇太子を「MbN」、副皇太子を「MbS」と呼ぶことがある。「ビジョン2030」は「MbS」の権力掌握の手段になっている面もある。改革の行方はサウジ王室内の権力争いとも微妙に関わってくるとみられている。

(カイロ=岐部秀光)

[日経産業新聞 2月17日付]

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