2018年11月18日(日)

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社会保障に「カネ・ヒト」集中 地方経済下支え
ゆがむ分配(6)

2017/2/22 2:00
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地方経済を支えていた公共事業が削減されたことで、社会保障関連への依存度が高まっているのではないか。取材班ではこうした「仮説」を立て、全国各地で取材を重ねた。

宮崎市内の防水施工会社、彩美社は2009年に介護事業に参入した。「公共施設の防水工事などを安定して受注していたが、民主党政権以降、展望が見えなくなった」。市内中心部からクルマで40分離れた新富町で始めた老人ホームとデイサービス(通所介護施設)の「美老苑」は年間1億円を稼ぎ出す。その半分が介護保険制度のもと、公的な支出で賄われる。「利益はあまり残らないが、小さな町の事業としては上出来」と、老山正史社長(62)は話す。

こうした地方経済の実情をデータ面から検証できないか。そこで様々な統計から建設事業関連と社会保障関連の数値を抽出し。公共事業の本格的な削減に乗り出した小泉純一郎政権が発足した2001年度と直近のデータを比較した。すると、「カネ」と「ヒト」の双方で公共工事依存型から社会保障依存型にシフトしている様子が鮮明になった。

地方自治体の歳出のうち、建設支出と社会保障関連支出は、それぞれどれくらいを占めるのか。15年度の支出割合を01年度と比べると、お金の流れが公共工事から社会保障にシフトしている実態が浮き彫りになった。

グラフ1を見てほしい。左側は建設支出の割合の減少幅(ポイント)、右側は社会保障支出の増加幅(ポイント)を表す。全都道府県で建設が減り、代わって社会保障支出が増えた様子が一目瞭然だ。宮崎県などでこの傾向が強い。全自治体ベースで見ると、建設の割合は22%から13%に低下。一方で社会保障は7%から18%に伸びた。比率は建設と逆転した。

再び宮崎県新富町。人口わずか1万7000人の町に美老苑と同様の老人ホームが7つもある。施設は雇用も生み出す。美老苑の施設長、赤木大作さん(34)は高校卒業後、10年ほど神奈川県内の介護施設で働き、今は地元宮崎のこの施設に従事する。「地元に働く場所があるのは助かる」(赤木さん)。美老苑では31人が働き、地元では中規模の事業体だ。美老苑の年間の人件費は5000万円で、介護保険の給付ですべて賄える。

図2の日本地図では、濃い青色の都道府県ほど全従業者に占める医療・福祉関連の割合(14年時点)が高い。九州など西日本で「社会保障依存度」が比較的高いことが分かる。図3のグラフは、01年から14年にかけ雇用が建設関連中心から福祉関連中心に移ったことを示す。「医療・福祉は地方の雇用の受け皿として大きな役割を果たしている」(日本医師会総合政策研究機構の前田由美子氏)

1997年に10兆円に迫った国の公共事業は、2001年からの小泉純一郎政権や、09年からの鳩山由紀夫政権による歳出削減で大幅に減少。ここ5年は6兆円前後で推移する。国の公共事業費減少に伴い、共同で事業をする自治体の建設支出も少なくなった。一方で高齢者の反発の大きい社会保障改革は先送りされた。今や介護や医療など社会保障関連の事業がカネの面でもヒトの面でも地方経済を支えている構図が浮かび上がる。

(大酒丈典)

■データの概要

全国の地方自治体の歳出については、総務省の「地方財政状況調査表」から都道府県と市町村それぞれの2001年度と2015年度のデータを分析した。従業者については01年が「事業所・企業統計調査」、14年は「経済センサス基礎調査」の都道府県別の数値を使った。

自治体の公共事業、建設事業の歳出は「普通建設事業費」の項目を集計。社会保障関連はまず、扶助費歳出のうち「社会福祉費」「老人福祉費」「児童福祉費」「生活保護費」の4項目を集計。保険関係は給付の仕組みが複雑なため、自治体が健康保険組合などへ資金を拠出する「繰り出し金」の項目のうち、国民健康保険関係2項目、介護保険関係2項目と老人保健、後期高齢者医療の各項目を集計し、扶助費4項目と足し合わせた。

市町村データには市や町、村のほか、消防など様々な事務組合のデータも含まれている。こうしたデータを都道府県ごとに集計し、このうち各都道府県から自治体などへの支出金を除いた額を各都道府県のデータに加えることで、都道府県別の建設関連、社会保障関連の歳出を算出した。また、15年度のデータから東日本大震災関連の復旧・復興事業費を除いた額を01年度と比較した。

01年度から15年度にかけて都道府県の枠組みはほとんど変わっていないが、市町村は「平成の大合併」を経て大きく変わり、全国で3200余りあった市町村は2014年4月には東京23区を含め1741にまで減った。市町村ごとの比較では、この約1500の市町村の合従連衡をすべて反映、15年度の市町村に合わせて01年度データを集計した。つまり、A市とB町が合併してC市になった場合と、01年度のA市とB町の数値を足して15年度のC市と比較した。唯一の分割合併となった山梨県上九一色村については、便宜上、半分ずつの数値を甲府市と富士河口湖町に加えた。

従業者の建設関連については、01年、14年ともに「建設業」を集計。医療・福祉関連については01年は「医療業」「保健衛生」「社会保険、社会福祉」の3項目を、14年はこの3項目を集計した「医療・福祉」のデータを使った。

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