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働き方はどう変わる、到来「AIが同僚」時代

日経トップリーダー

近い将来、企業内で「人工知能(AI)が同僚」となる時代が必ず到来するだろう。仕事の内容によっては、既にAIの能力が人間を上回っている領域もある。

米グーグルの子会社が開発したコンピューター囲碁プログラム「アルファ碁」は、解説者が「人間の棋士なら絶対に打たない」という手を何度も打って勝利を収めており、その後は同じ手を人間のプロ棋士が盛んに打つようになった。

国立情報学研究所(NII)が中心となって立ち上げた「ロボットは東大に入れるか」の東ロボくんは、東大への合格はならなかったものの受験者の平均点を上回り、「MARCH」や「関関同立」と総称される関東・関西の難関私立大学へ合格する水準に達している。

こうした動きのなか、野村総合研究所(NRI)の未来創発センターは2015年12月、日本の労働人口の49%がAIやロボットなどで代替可能になる──との試算を公表した。英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究によって、国内601種類の職業を対象として、AIやロボットなどで代替される確率を試算したものだ。

日経BP社ではこの試算を行ったNRIのチームの協力を得て、一般企業の業務がAIやロボットなどでどの程度代替される技術的な可能性がありそうかを独自に集計・分析した。

各職種の代替可能確率と就業人口の分布図(出典:英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究により、「国内601種類の職業を対象として、AIやロボットなどで代替される確率を試算」したデータをベースに、日経ビッグデータ編集部で2016年に集計・分析)

「運用・顧客サポート」「販売・マーケティング・営業」「製造・物流・SCM(サプライチェーン・マネジメント)」「人事・人材管理・総務」「経営」「専門職」の6つの業務カテゴリーに分けた。NRIでは約600種類から180種に集約のうえ、代替可能確率を提示したが、このうち企業内で一般的な約50を選択して、就業人口とともにマッピングした。

例えば、「電話応接事務員」は「運用・顧客サポート」、営業・販売事務従事者は「販売・マーケティング・営業」といったように業務カテゴリーを割り振った。一般企業における代表者や役員、それを支援する部門である「経営」については的確な職業がなかったが、販売・マーケティング・営業に分類した「小売店主・店長」「飲食店主・店長」が近い属性であるといえる。

専門職は二極化

リストを6つの業務カテゴリーごとに分類してみたところ、「販売・マーケティング・営業」の各業務の代替可能性が想定よりも低かった。NRI 未来創発センター 2030年研究室の上田恵陶奈氏は「非定型で顧客との密なコミュニケーションが必要な分野の営業は代替される技術的な可能性が低く出ている。店舗が全て無人化するわけでもないし、営業担当が必要な分野は残るはず。一方で受付業務はパターン化しており、定型的な対応が可能なものが多い」と指摘する。

製造現場の業務は「電気機械器具組立従事者」などは80%台にとどまっている。「日本は製造現場の自動化を進めてきており、現時点で人手が残っているのは、そもそも機械化ができないところ。例えば、少量多品種の製品を、複数の作業スキルを身に付けた多能工で対応している。こうした作業を、AIがすぐに代替できるものではない」(上田氏)。

一方で専門職は税理士や公認会計士など定型的な業務が多いものと、医師や看護師など人と直接接する場面が多い業務で二極化した。

IT(情報技術)関連は「設計やマネジメントの要素が強いシステムコンサルティングは代替可能確率が低いが、コーディングやデバッグといった業務が中心のプログラマーは自動化が進み、代替の技術的な可能性が高くなる」(NRI コンサルティング事業本部ICT・メディア産業コンサルティング部の岸浩稔氏)。

教育についてはオンライン教材などでAI活用が進むが、「それぞれの学生とコミュニケーションしながら、どう教えれば理解してもらえるのか。そこの創意工夫に高いスキルが必要になる。大学教授であれば、専門分野の研究に高い創造性が求められる」(上田氏)。

代替可能性が低い専門職の分野にもAIの活用が始まりつつある。同じ業務・職種でもそうしたものを使いこなして"同僚"として働けるかどうかで、仕事の質に大きな差がでてきそうだ。

では、実際にNRIでオックスフォード大学と調査・分析を行った、上田氏、岸氏、そしてNRIグローバルインフラコンサルティング部の森井愛子氏に、代替可能性をどのよう試算し、どのような反応があったのか、そして「AIが同僚」時代にどのように働くべきかについて解説してもらう。

日本が直面する「労働力不足」問題

オックスフォード大学と共同研究した国内601種類の職業を対象とした、AIやロボットなどで代替される確率の試算。この数字から、将来は多くの職場で、AIが同僚として働くことになると予想される。

NRIの未来創発センターでは、2030年の日本の姿を考える研究に取り組んでいる。同年に顕在化する社会問題の一つに「労働力不足」が挙げられる。

日本では人口減が叫ばれて久しい。社会の維持・発展を見据えた場合に、特に課題となるのは労働力人口の減少である。労働政策研究・研修機構の推計によれば、2030年の労働力人口は、2014年の6587万人から、経済ゼロ成長・労働参加現状シナリオで5800万人に減少すると見込まれている。

こうした労働力不足が顕在化する将来を見据えた際に、私たち日本人には大きく2つの選択肢がある。一つは、労働力が不足する社会を維持するために、社会全体のサービスレベルを縮小させ、「しなやかに縮んでゆく社会」を目指すこと。ただし、これを好ましい状況だと思う人は、ほとんどいないだろう。こうした状況を回避するためには、もう一つの選択肢、すなわち何らかの手段で労働力を補っていかなければならない。

労働力を補う可能性として、外国人労働者や高齢者・女性活用といった労働力の量的な補完、そしてAIやロボットといった技術の活用によって労働生産性を高める質的な補完の2種類が考えられる。

NRIでは労働力を質的に補完するという考えから、現在の職業をAIやロボットで代替する技術的な可能性を推計することで、どの程度の労働力を補うことができるのかを検討し、仮にそれらの技術で代替が進んだ場合に企業や政府、社会はどのように変わっていくのかという未来社会を描くことに取り組んだ。

新しいイノベーション機会の創出

NRIのアプローチは、"なくなる仕事"を打ち出すことで危機感をあおることではない。労働力不足社会における新しいイノベーションの機会創出という観点で研究を行っている。

研究チームは「労働力が不足すると社会の前提条件や制約条件が変わり、その結果として企業や社会にとって新しい事業機会が生まれてくるのではないか」という課題意識を抱えている。これを示す事例を紹介しよう。

Jリーグのガンバ大阪がホームグラウンドとしている吹田サッカースタジアム(大阪府吹田市)の建設では、「プレキャスト工法」という技術を用いた結果、一般的な工法と比較して建設コストを大幅に減らすことができた。プレキャスト工法とは、基礎となる部材をあらかじめ別の場所で作っておき、現場で組み立てるという工法だ。古くから確立した技術だったものの、これまでは現場で多くの職人を集めて基礎を作ってしまうほうがコストを抑えられていた。

しかし、現在は東日本大震災や2020年の東京五輪・パラリンピックといった建設需要の増大に伴って職人不足が顕在化し、労務費が高騰している。労働力の不足によって前提条件が変わり、プレキャスト工法による施工に経済的合理性が生じたのである。

AIやロボットによる職業の代替可能性リストを作るという研究には、「2030年に向けて社会変化による新しいイノベーション機会を考える」という背景があった。

「AIが職業の約半分を代替」に対する反応

「職業の約半分はAIやロボットなどによって代替できる」というニュースは、我々のチームの予想をはるかに超えて世の中を駆け巡った。寄せられた反応は、大きく3種類に分けられる。

まず就業者個人を中心として、自分自身の職業がリストに含まれているかをチェックし、主として自分の職業の代替可能性が妥当であるかについて、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を含めて様々な感想を発信していただいた。

今回の分析結果は、「代替される可能性を技術的な側面だけ」から算出したものだが、「消える仕事・消えない仕事」という言葉が独り歩きした結果として、「技術面以外も含めて、実際に消える可能性」だと捉えられる傾向があった。このため、"机上の空論"といったご批判も見受けられた。公表した試算は、機械学習の結果であって個別の妥当性を人間が検証していない。空論ではないが、机上の計算であることには違いない。正確な発信を尽くす必要性を痛感させられた。

次に、約半分の職業が代替可能であるという全体傾向に対する反応である。多くの方が機械による自動化に慣れ親しんできたためか、「おおむね違和感がない」という反応が多かった。さらに踏み込んで「少子化による労働力減少を考えれば好ましいことである」といった反応や、「作業が自動化されれば超過勤務が短縮される」といったワーク・ライフ・バランスの改善を期待する反応も多く見られた。

オズボーン氏は「同様の結果を公表した他国ではAIが仕事を奪うという脅威論が多かったのに比べて、日本では好意的な反応が多くて驚いた」という感想を述べた。日本では労働力不足の解消と生産性の向上という課題が広く社会的に認識されており、AIやロボットによる自動化がその一助と期待される構図が読み取れる。

最後は、AIが職業を代替し得る時代に「人間はどう能力を発揮することが求められ、そのためにはどのような準備が必要となるのか」という、日本が進むべき道に関する議論だ。ここには、大きく3つのものがあった。

1つめは「AIによって代替することが難しく、人間ならではといえる能力とは何であるのか、その能力を身に付けるためにはどうすればいいのか」という職能に関する議論である。2つめは「AIが代替できないような能力を身に付けられる労働者が少数にとどまるとすれば、多くの労働者はAIを下回る職能しか持ち得ず、格差社会が到来することにどう備えるのか」という議論である。3つめは「具体的な職業や企業について、AIで代替される内容と人間が取るべき対策について分析を加え、職業や企業における業務や業容の変化について考察する」といった具合である。

以上のように、分析に対する反応は多岐にわたるが、AIを同僚とする時代を考えるきっかけとなり、今後に向けた議論を広く喚起できたことは、望外の成果であると捉えている。

(野村総合研究所 上田恵陶奈・岸浩稔・森井愛子)

[書籍『AIが同僚』の記事を再構成]

【著者紹介】
上田恵陶奈(うえだ・えとな)。東京大学法学部卒業後、野村総合研究所入社。情報・通信と金融にまたがる横断的な事業戦略や政策課題を主に扱う

岸浩稔(きし・ひろとし)。東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻博士課程修了後、野村総合研究所入社。イノベーションマネジメント及び情報通信・放送メディア分野における事業戦略を担当

森井愛子(もりい・あいこ)。オックスフォード大学大学院グローバルガバナンス専攻修了後、野村総合研究所入社。都市インフラ・情報通信分野で事業戦略を中心に扱う
【参考】日経BP社は2017年1月20日、書籍『AIが同僚』を発行した。企業内でAIが"同僚"となるであろう2020年の新しい働き方と必要なスキルを見通した。リクルートのAI研究所のトップ、野村総合研究所の分析チーム、「東ロボ君」のプロジェクト責任者などの寄稿も掲載。

AIが同僚

著者 :日経トップリーダー/日経ビッグデータ
出版 : 日経BP社
価格 : 1620円 (税込み)

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