不動産大手がVBに接近、三菱地所は共有空間

2017/2/2 6:30
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大手不動産会社がベンチャー企業(VB)に急接近している。三菱地所は1日、東京・大手町の「大手町ビル」に金融分野のVBを対象にした共有オフィス(コワーキングスペース)を移転・開設した。三井不動産はVBが事業案を披露するイベントを開き、提携相手となるVBを探す。VBが成長すれば、オフィス街に活気をもたらすと期待している。

新フィノラボの内装は海外のラボ(研究所)を感じさせるようにしている(東京・大手町)

新フィノラボの内装は海外のラボ(研究所)を感じさせるようにしている(東京・大手町)

エレベーターホールのれんが造りの壁、柱やはりといった構造物(スケルトン)だけを残した内装、レトロな雰囲気を醸し出す赤色の電話ブース、簡単な調理ができるキッチン――。三菱地所が大手町ビルに開設したコワーキングスペース「新フィノラボ」は、まるで米国のシリコンバレーのIT(情報技術)企業の社屋のようだ。

新フィノラボに「新」の文字があるのは、2016年2月から東京銀行協会ビル(東京・丸の内)にあったフィノラボを前身としているから。同ビルの再開発に伴い、大手町ビルに移ってきた。

三菱地所は、継続して入居するVBの要望をもとに、海外のラボ(研究所)を感じさせるような内装にした。延べ床面積も2.4倍の2150平方メートルに広げた。入居するVBも約1割増の約40社となっている。

「同じ志を持つ起業家らと交流できるのが良い」。入居企業の1社、ピンズの田中茂樹取締役はこう語る。

新フィノラボが対象としているのは、ITと金融サービスを融合させたフィンテックに関わるVB。欧州のIT先進国のラトビアから日本に進出してきたピンズは、インターネットを利用する決済システムを開発した。他にも、海外送金サービスを提供するトランスファーワイズ・ジャパン(東京・千代田)、不正アクセスの検知サービスを手掛けるカウリス(同)などが入居する。

共有スペースで同じ分野のVBが顔を突き合わせて刺激を与え合う。そこから新しいビジネスモデルが生み出されるかもしれない。そうしたリアルな場でのコミュニケーションの可能性を感じ取ったのか、みずほフィナンシャルグループは新フィノラボにブースを構えた。入居VBとの協業を模索するという。

三菱地所が地盤とする東京都心のオフィスビルの空室率は低下し、オフィス賃料は上昇基調にある。そうした中で三菱地所があえてVB支援に乗り出すのはなぜか。

三菱地所は東京・丸の内地区で日本一の高さ(地上390メートル)のビルを開発する計画を持つ。三菱地所はこのビルを国際金融センターにしようとしており、新フィノラボに入るフィンテック分野のVBがテナント候補になり得ると踏んでいる。

フィノラボに拠点を置いていたVBが成長した事例もある。携帯端末(モバイル)を利用した決済サービスを提供するカレンシーポート(東京・千代田)の従業員数は20人弱。フィノラボに1年前に入居した当初は4人程度だった。

新フィノラボに入居する約40のVBのうち数社でも急成長すれば、有力なテナント候補になり、丸の内や大手町に活気を与える。そうした実績が知られるようになれば、新フィノラボに有望なVBが集まってくるという好循環も生まれる。

VBのサービスや技術を、既存のビルで利活用することにも取り組んでいる。まだ実証実験の段階だが、リキッド(東京・千代田)が開発した指紋認証システムを、新フィノラボの入退室のセキュリティーゲート用に導入した。三菱地所の湯浅哲生執行役常務は「将来は他のビルへの採用も検討したい」と話す。

VBとの距離を縮めているのは三菱地所だけではない。

1月下旬、東京・銀座でVBによる事業発表会「ピッチイベント」が開かれた。発表を聞いたのは三井不動産グループの社員約40人。VBの発表内容に耳を傾け、自社との協業の可能性を探った。

「我々の本業にも関わるお話ですね」。司会者がこのように紹介したVBがある。空きスペースの貸し借りをネットで仲介するスペースマーケット(東京・新宿)だ。三井不動産にとってはライバルになりかねないVBだが、あえて協業の可能性を探るために招いた。

「借り主との間でトラブルが起きた場合はどう対処するのか」「カギの管理はどうしているのか」。三井不動産の社員からは質問が相次ぎ、関心の高さをうかがわせた。

三井不動産はピッチイベントを16年から月1回の頻度で開いている。今回は1時間で3社のVBが事業プランを披露した。三井不動産の社員の参加は自由だが、自分の仕事とのシナジーを求めている社員は着実に増えている。「自分たちのリソース(経営資源)をVBにどのように活用してもらえるのかを提案していきたい」(ベンチャー共創事業部の菅原晶部長)

東急不動産ホールディングス(HD)は16年に慶応義塾大学と東京工業大学のそれぞれのベンチャーキャピタルに出資した。大学発ベンチャーとの協業をもくろむ。東急不動産HDの大隈郁仁社長は「新しい分野を切り開くVBにはとても関心がある」と話す。

とはいえ、VB支援の成果は一朝一夕には表れない。テナント候補に育つようなVBが出てくる可能性はそれほど高いわけではなく、本業とのシナジーを感じさせるVBばかりでもない。

既存事業の枠組みを超えた新しいビジネスを生み出す――。このことは不動産会社にとどまらず、内向きになりがちな日本の大手企業全体に共通する課題だ。VBとの協業がその処方箋の1つであることは間違いない。腰を据えた取り組みになるかが成否を左右する。

(岩本圭剛)

[日経産業新聞 2月2日付]

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