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フェデラーら復活で続く 男子テニス界「幸せな時間」

全豪オープンテニスの男子シングルス決勝戦、ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)は2人が交互にセットを取り合って最終セットに突入した。長めの休憩を終えて戻ってきた両雄に大きな拍手が送られたセンターコートは、幸せな空気に満ちていた。どちらが勝つとか負けるとかではなく、ここに間に合った幸運をかみしめるかのような。

2人の決勝、前回から6年も経過

プロ選手への門戸が開かれた1968年以降、四大大会最多の優勝17回を誇るフェデラーと2位タイ(14回)のナダル。かつては当たり前のように四大大会の決勝で顔を合わせていた宿命のライバルも、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第一人者として君臨するようになった近年はそう簡単にはいかなくなった。全仏で雌雄を決した8度目の決勝からは6年も待たされた。フェデラー35歳、ナダル30歳という年齢を考えれば、次がある保証はない。主催者サイドは初めて隣のコートを開放してパブリックビューイングを行った。歴史的な一戦をこの目で見ようと多くの記者がスタンドに詰めかけ、メディア用の座席が足りなくなるという事態も発生した。

第4セットまで、若干の物足りなさがあったのは否めない。1ポイントごとにウィナー級のラリーが何本も飛び交っていた2007~08年のウィンブルドン決勝あたりに比べると、どことなく"熱量"が減ったような印象を受けたのだ。それはフェデラー側からみて6-4、3-6、6-1、3-6のスコアが示しているように、各セットとも先にブレークを許した方が反発力を示すことなく比較的あっさりとセットを失ってしまったからなのかもしれないし、長いラリーを避けたいフェデラーがリスクを覚悟で早い勝負に出続けたからなのかもしれない。全豪のデータ分析班が指摘したように、両者とも12年以降、1ポイントあたりの運動量を減らしてきたという事実も影響したのだろう。

ところが最終セット、第1ゲームでナダルがブレークに成功し、8年ぶりの全豪制覇に向けて視界が開けたと思われたところから試合はまったく違った展開をみせる。第6ゲーム、フェデラーがこのセット6度目のブレークポイントをついにものにして追いつくと、第8ゲームでも2度のジュースの末、再びブレークに成功したのだ。このゲームでは悲鳴と歓声の中、試合を通して最長となる26度のラリーも行き交った。最後の第9ゲームはナダルが2度のブレークポイントを握るものの、フェデラーが3本のサービスエースなどでキープし、紙一重で逃げ切った。最後の最後まで先が読めない展開とヒリヒリするような緊張感はまさにフェデラー対ナダル。期待にたがわぬ名勝負となった。

大会前には「優勝、1秒も考えず」

勝った直後に涙を浮かべたフェデラーは、5年ぶりの四大大会優勝に「大会前はこんなことになるなんて1秒も考えなかった」と話した。掛け値なしの奇跡である。昨年のウィンブルドン後、準決勝で転倒して悪化させた左膝の治療に専念するためにツアーから離れた。半年ぶりの復帰戦となる今大会の開幕2日前、自らの状態を「未知」と話した。何しろこれほど休むのは初めての経験。直前のエキシビションマッチでは「以前と変わらぬ動きに感じた」が、真剣勝負の場で長いセットを戦ったときに「どうなるかはわからない」のだと。

1回戦、立ち上がりのリターンゲームでは4本連続のフレームショットで1ポイントも取れずに終わり「やれやれ、これは簡単ではなさそうだ」と厳しい道のりを覚悟した。それが3回戦で第10シードのトマーシュ・ベルディハ(チェコ)、4回戦で第5シードの錦織圭(日清食品)、準決勝で第4シードのスタン・バブリンカ(スイス)といった実力者を次々と撃破した。フルセットマッチを3回も戦い、頂点まで駆け上がったのだ。

テニス界は強者ほど勝ちやすくなる典型的な格差社会だ。世界ランキングが高い上位シードになるほど勝ち上がりやすいドローが組まれる。しかし今大会のフェデラーは第17シード。早くから強豪と当たる厳しいドローを勝ち抜くのは、さらにハードルが高かった。

35歳の快進撃はなぜ生まれたか。大会の途中、フェデラーは「(長期休養は)正しい判断だったと思う。試合出場と治療を繰り返していたのでは中途半端になっていた」と語った。復帰までの慎重な工程と十分な休養は、試合勘を鈍らせるといったマイナス面以上にプラスに働いたというわけだ。

速いサーフェス、勝敗に影響か

もうひとつはフェデラーを含め、多くの選手が「速い」と口をそろえたコートである。「プレクシクッション」と呼ばれる全豪のサーフェスは同じハードコートでも全米に比べると球足が遅く、跳ねやすいといわれる。それが今年は例年に増して速かった。サーブ巧者で、速い攻めを身上とするフェデラーは芝のウィンブルドンを得意とすることからもわかるように、速いコートと相性がいい。このため大会が進むにつれ、人気者のスーパースターに勝たせたい主催者の計略ではとの臆測までまことしやかに流れるようになった。ちなみにトーナメントディレクターの答弁は「例年と特に変わったことはしていないが、整備した時期に多少の差があり、それが影響を及ぼした可能性はある」という何とも微妙なもの。

ともに守備型に分類される第1シードのアンディ・マリー(英国)と第2シードのジョコビッチが2週目を待たずに姿を消してしまったのも、こうした影響があったのかもしれない。特にマリーは速いコートと相性のいいサーブアンドボレーを得意とするM・ズベレフ(ドイツ)に不覚を取った。一方、準々決勝でズベレフと対戦したフェデラーはネットに出てくる相手に次々とパッシングショットやロブを決めてあっさりと片付けた。試合後の会見では「2000年代前半より前のコートで育った世代は速いコートに慣れている。ビーナス・ウィリアムズ(最後は女子シングルス決勝まで進んだ)も気持ちよくプレーできているのだろう」との見解を述べている。

フェデラーはキャリアの初期、サーブアンドボレーが全盛だった時代の王者ピート・サンプラスらとの対戦経験を持つ世代に属する。サービスの比重が高まりすぎたことを危惧したテニス界は00年代の前半以降、コートを遅くし、ボールを重くすることでより多くラリーを見せる方向に進んできた。それ以前を知るフェデラーは速いコートへの対応力でも一日の長があった。

ナダル復活、準優勝の価値大きく

こうしてみるとナダルの準優勝の価値も一段と大きくなるだろう。ベースライン後方からのストローク戦を得意とするプレースタイルは本来、全仏のクレーのような遅いコートを得意とする。しかも早くから強敵と当たる第9シード。それが3回戦ではM・ズベレフの弟で将来のナンバーワン候補と目される19歳のA・ズベレフ(ドイツ)とフルセットを戦って逆転勝ちし、準々決勝ではブリスベンの前哨戦で敗れたビッグサーバーのミロシュ・ラオニッチ(カナダ)にストレート勝ち。準決勝でも「ミニ・フェデラー」の異名をもつグリゴル・ディミトロフ(ブルガリア)との5時間の激闘を制した。昨年苦しめられた左手首痛からの復調の度合いがうかがえよう。

フェデラーは今後、出場試合数を絞りながらも長くプレーを続けていきたいとの意向を表明している。今大会の結果は、フェデラーもナダルも体調さえ整えば、四大大会で優勝できる力があることを示した。優勝を18回に伸ばしたフェデラーにナダル、史上4位タイ(12回)のジョコビッチ。プレースタイルもキャラクターも違う史上屈指の名選手が共存し、さらにマリーやバブリンカ、錦織といった個性派がそろう現在は後に振り返るとき、テニス史の奇跡として記憶されるのかもしれない。歴代の大横綱が同時代に生きているような男子テニス界の「幸せな時間」はまだ続いているのである。

(吉野浩一郎)

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