地銀もフィンテック 近畿大阪銀がハッカソン
りそなホールディングス(HD)傘下の近畿大阪銀行などは、IT(情報技術)と金融サービスが融合した「フィンテック」のハッカソン(短期集中的なソフトウエアの共同開発)を始めた。今後はHD全体で、利用者だけでなく今後はベンチャー企業などとの協力も視野に入れる。フィンテックが急激な広まりを見せて約2年。地方銀行が対応を急ぐなか、サービス向上のための利用策の研究を進める。

「全国の自動販売機をATMに」――。そんな斬新なアイデアが飛び交ったのは1月中旬、近畿大阪銀とりそな銀行が初めて開催したハッカソン「MEET UP KANSAI」だ。
発表を聞く同HDの東和浩社長も舌を巻く。近畿地方の大学生や大学院生の62人が13のチームに分かれ、アプリを用いたフィンテックを考える。法律や常識にとらわれない学生の案を参考にするほか、利用者でもある若者が銀行に求める声を集めることが目的だ。
今回のハッカソンは3日間のプログラムだ。初日は日本一長い商店街で知られる天神橋筋商店街を散策し、消費者の目線になって「欲しい」「不便だ」と思う金融サービスを探す。散策の中で見つけたヒントを基に2、3日目でアイデアをイラストに描き起こし、アプリにする。評価の大きなポイントには実現のしやすさなども含まれる。優勝チームへの商品は米シリコンバレーへの往復航空券だ。
散策で見つけた疑問は写真に撮ってコメントを書き、作業する部屋の壁に貼る。近畿大阪銀の支店を回った学生は「パンフレットとポスターだけの商品の案内ではわかりづらく不親切だ」と指摘。同行の酒井真樹副社長は「厳しい」と苦笑した。従来の店舗のあり方では若者の心はつかみにくい。
優勝したのは、街中の自動販売機に専用アプリを入れたスマートフォンをかざすと少額の引き出しや入金ができるサービスだ。小銭の入出金に対応できるほか、ATMが少ない地域での利便性の向上が期待できる。他にも、ポイントカードの一元管理や、ファイナンシャルプランナーが助言する家計管理アプリなど、さまざまな発想があった。今回出たアイデアを生かし、今後は「企業とのハッカソンも視野に入れる」(りそな銀・中尾安志常務執行役員)。
同HDの東社長は「銀行も楽しい場所に変えないと(いけない)」と焦りを隠さない。2年ほど前からフィンテックが日本でも広まり始め、支店を訪れなくても済むサービスが増えている。若い世代を中心に支店への足はますます遠のく。将来メーンの利用者になる学生が銀行や金融に関心を抱くための鍵になるのもフィンテックだ。
大阪の地銀各行はフィンテックへの対応を急いでいる。近畿大阪銀は2019年度までに全118店で投資信託などを印鑑なしで購入できる体制づくりを目指す。池田泉州銀行も17年春にタブレット(多機能携帯端末)を使った生命保険商品の販売を始める。関西アーバン銀行も昨年10月、フィンテックの研究部署を設置した。
今回ハッカソンの企画の中心となった同HDの伊佐真一郎リーダーは「フィンテックが目的ではない」と話す。日銀のマイナス金利政策の影響で、金融機関の収益環境は厳しい。老若男女の利用者のニーズに応えられる地銀の姿を求め、フィンテックをヒントにした模索は続く。
大手も導入相次ぐ 外部の発想活用
IT(情報技術)と金融サービスが融合した「フィンテック」に限らず、様々な業種の大企業がハッカソン(短期集中的なソフトウエアの共同開発)を自社の事業に活用しようとする動きが広がっている。
三菱東京UFJ銀行は2016年3月にフィンテック開発のイベントを開催した。このイベント向けに「認証」「残高照会」「振り込み」などの銀行の機能を外部から利用できるようにするデモ用の「API」を用意するなど、力の入ったイベントとなった。
三菱東京UFJ銀がイベントを開催した狙いのひとつは、金融サービスを開発できる優秀なベンチャー企業や技術者を発掘すること。もうひとつは、参加者がAPIや銀行のサービスについて様々な意見を吸い上げることだ。
ハッカソンは日本のIT(情報技術)業界に定着しつつある。昨年12月には都内で開催された半導体製造技術の展示会「セミコン・ジャパン」でも20代のエンジニアを対象とした3日間のハッカソンが開催された。半導体や製造装置メーカーの若手社員ら31人が「東京オリンピックの興奮を皆で分かち合う技術」をテーマに6つのチームに分かれ、ビジネスプランを検討した。
企業の論理や慣習にとらわれがちな社内での開発に比べ、外部の斬新なアイデアや発想を取り入れられるハッカソンは新たな製品やサービスを生み出す原動力になり得る。企業に求められるのは、ハッカソンの成果を自分たちのビジネスとして取り入れられるかだ。
(大阪経済部 大沢薫)
[日経産業新聞 1月26日付]