春季キャンプ 主力はもっとヤジって重圧かけよ
いよいよ新たなシーズン開幕に向けた春季キャンプが始まります。解説者時代に日本の12球団、米国の10を超える大リーグ球団のキャンプを視察して感じたのは、活気があり選手たちが目的意識を持って練習しているチームはシーズンに入っても強いということ。一つ一つのプレーに妥協しない雰囲気をつくる上で、自分にも他人にも厳しくできる主力選手の存在が重要です。
■周囲に苦言、楽ではないが…

福良淳一監督がチームのけん引役と期待するT―岡田、安達了一、西野真弘の各選手には、個人成績を伸ばすための努力はもちろん、いかにチームに良い影響をもたらすかということも考えて、キャンプに入ってもらいたいと思っています。
練習での一つのプレーに全員が集中し、ダメなものはダメ、良いものは良いと言い合えるチームは強いものです。例えば、シートノックで気の抜けた緩慢なプレーが出たとき、なんとなく見逃してさらりと流してしまう雰囲気では、首脳陣の考えがチーム内に浸透して意思統一が図れているとは到底言えないでしょう。統制のとれたチームであれば、周囲から当然のように手厳しい言葉が飛ぶはずで、レギュラー格の中堅層にはそうした「憎まれ役」も引き受けてほしいのです。
私が入団した頃のキャンプとは、常に厳しさがにじみ出ているものでした。ベテランの先輩が、同じポジションを守る伸び盛りの若手を事あるごとにヤジって、声で潰そうとするような光景も当たり前に見られました。ポジションは職場ですから、それを奪われれば自分の行き場がなくなります。ある意味、プロ根性が垣間見える行動ともいえますが、先輩からの強烈なプレッシャーをはねのけた若手は、技術的にも精神的にも伸びます。「潰す」という例えはよくないですが、こうした緊張感のある環境は、選手のさらなる成長を促す要素として欠かせません。
そういいながら、現役時代の私は若い頃、他人に厳しいことを言うのは苦手でした。どうしても「自分が言い返されたら嫌だ」という気持ちが邪魔をしていました。しかし、レギュラーに定着してある程度の自信がついてからは、あえて周りの選手にヤジを飛ばすようにしました。練習でミスをした選手に「もっとしっかり投げろよ」「もう一丁いけ」などと言う手前、自分が他人から突っ込まれるようないいかげんなプレーを見せるわけにはいきません。周囲に苦言を呈するのは楽ではありませんが、はっきりと口に出すからには「自分が人一倍やらないといけない」という責任感も生まれました。
■激しい選手間競争欠かせず
チームの主力選手が、自分に跳ね返ってくるプレッシャーを怖がらずに、どれだけ周囲に対して厳しく接することができるか。それがシーズンのチーム成績にも直結してくると私は思います。
リーダーとしての自覚が芽生えてきたT―岡田選手ですが、まだまだ優しくておとなしすぎると感じます。彼は今季から新たに3年契約を結び、新選手会長にも就任しました。チームの顔として、もっと激しさと厳しさを前面に出してくれることを願っています。
最下位に低迷した2016年シーズン、チームに最も欠けていたのは激しい選手間競争でした。上位に浮上するためには、ベテランも若手も巻き込んだレギュラー争いの活性化が不可欠です。国内フリーエージェント(FA)権を行使して糸井嘉男選手が阪神へと移籍した外野陣はもちろんのこと、内野陣にも激しいポジションの奪い合いを促す意味で、中堅層が大きな役割を担っています。

バットで実績を残してきた中島宏之、小谷野栄一の両内野手らは、ベテランの域に差しかかってきたとはいえ、まだまだ老け込む年齢ではありません。体の状態さえきちんと整えれば、もうひと花もふた花も咲かせることは十分に可能でしょう。T―岡田選手や安達選手には、こうしたベテラン勢をときには「何をやっているんですか」と突き上げ、発破をかけて、尻に火を付ける立場になってもらいたいのです。
■選手同士が本音ぶつけ合ってこそ
中堅どころがベテランに自由にものが言え、刺激を受けたベテランが「なんだと」と発奮する空気が生まれればしめたもの。チームは良い方向に動き出すはずです。監督やコーチ陣がいくら選手たちに厳しく接しても、こうした空気は漂ってきません。なぜなら、指導者と選手とでは、そもそも立っているフィールドが違うからです。同じフィールドで戦っている、勝負している人間同士が本音をぶつけ合ってこそ、相乗効果が表れるのです。
今年の宮崎キャンプはとにかく活気があり、うるさいぐらいのキャンプにしたいと思っています。新しいリーダーたちを中心として、グラウンド上で遠慮のないやりとりが展開されるかどうか。それがチーム強化の鍵を握っていると考えています。
(オリックス・バファローズ2軍監督)