/

大リーグ新労使協定、日本ハム大谷が被る損失額は?

スポーツライター 丹羽政善

テレビ放映権、スポンサー料など、大リーグの総収入は昨年、14年連続で上昇し、100億ドル(約1兆1500億円)に迫ったという。昨年12月、経済誌「フォーブス」の電子版が伝えた。別会社も加えれば、大リーグ公式ページ「MLB.COM」を運営するMLBアドバンス・メディアから派生した「BAMTech」という会社に対してウォルト・ディズニーが10億ドルを出資し、すでに5億ドルが支払われていることから、実質的な総収入は、100億ドルの大台に乗ったとみられる。

17年オフにもメジャー挑戦する大谷。新労使協定の影響を受けそうだ=共同

ハードルが上がった海外選手との契約

世界のプロスポーツリーグで総収入が100億ドルに達するのは、2014年のNFL(米プロフットボールリーグ)に次いで2リーグ目。この2強が、他のプロリーグを圧倒する。

ただ、そんな100億ドル産業に成長した大リーグが、抜群の素質を誇る22歳の若者に1億ドル以上もの損失を強いようとしている。昨年12月、大リーグ機構は選手会と新たな労使協定を締結。そこではキューバ、ドミニカ共和国、ベネズエラといったドラフト対象外の国の選手について新たな枠組みが決められた。これまで外国のプロリーグで5年以上の経験があり、23歳以上であれば、海外フリーエージェント(以下FA)とみなされ、莫大な契約を勝ち取ることも可能だった。

一方、23歳未満でプロ経験が5年未満であればマイナー契約しか結べず、契約ボーナスにも上限があった。その条件が今年から変更され、FAとして契約できるのは、25歳以上、プロ経験6年以上となり、ハードルが上がった。契約ボーナスにしても、かつてはペナルティーさえ覚悟すれば上限を超えることも許されたが、それもできなくなった。

メジャーでの大谷の契約総額は2億ドル超とも報じられた=共同

最も大きな影響受けるのは大谷か

もともとこうしたルールは存在しなかった。ドラフト対象外の国の選手に関しては16歳以上という年齢制限こそあったものの、あとは自由競争。結果的に契約総額が高騰し、資金力に乏しいチームには不利という状況が顕著となると、12年から戦力均衡の原理原則を持ち出して、リーグは歯止めをかけた。金に糸目をつけなかった球団にしても、なんの実績もない選手に多額の投資をするのはリスクと映ったか。

対象として念頭にあったのはキューバ人選手だが、目下のところ、すでにキューバの有望選手の多くは海を渡っており、向こう何年かはこのルール変更の影響を受ける選手は少ないとみられている。となると今回、一番影響を受けるのかといえば、誰あろう、早ければ17年オフにも大リーグ挑戦を意識し、所属する日本ハムもそれを容認する姿勢を示している大谷翔平だ。彼が移籍すれば、契約総額は2億ドル、約229億円を超えるのではと報じるところもあっただけに、大リーグが冷や水を浴びせた形だ。

では、17年オフに移籍するとして、ルール変更前と後とではいったい、どれくらい大谷が受け取る額に差が出るのか。

まず、契約時のボーナスについて。先ほど触れたように、昨年までも各チームに上限が設けられていたが、平気で超えるチームもあった。レッドソックスなど一昨年、キューバ出身のヨアン・モンカダに3150万ドルというボーナスを支払っている。ペナルティーとして同額をリーグに納めなければならなかったが、選手の素質次第では、そこまで額が跳ね上がるのである。

契約ボーナスだけで23億円減る計算

ところが今年からは、リーグ全体におけるボーナスの総額が、昨年の8700万ドルから1億5350万ドルと倍近くになった一方で、それぞれのチームがあらかじめ設定された額を超えることができなくなった。例えば今年は、前年度の勝率、市場の大きさ、収入などが加味された上で30球団が3つのグループに振り分けられ、それぞれの上限が575万ドル、525万ドル、475万ドルと定められている。

ただし、割り当てられた額の75%をトレードできるため、上限はこの限りではない。例えば、575万ドルのグループ同士でトレードが成立し、一方が、575万ドルの75%にあたる431万ドルを受け取れば、そのチームのボーナスの上限は最大で1006万ドルとなる。これなら、過去のボーナス額と比べても少なくはないが、大谷は3000万ドルをくだらないとみられていただけに、彼はここで約2000万ドル、約23億円の損失を被る計算になる。

それはまた、契約するチーム次第でさらに膨れ上がる。先ほど触れたように、これまで限度額を超えた場合にはペナルティーがあり、罰金の他、その超過率に応じて向こう1年、もしくは2年間は、30万ドルを超えて選手と契約をすることはできない、と定められていた。この規定は持ち越しとなり、以下の11球団は今年、大谷の獲得に動こうにも、30万ドルしかボーナスを払えない。

カブス、ドジャース、ジャイアンツ、ロイヤルズ、アスレチックス、アストロズ、ブレーブス、カージナルス、ナショナルズ、パドレス、レッズ。

新労使協定で大谷のメジャー移籍1年目は最低年俸でのプレーとなる=共同

チームによりさらに約10億円の拡大も

もしもこの中に大谷の意中の球団があるのだとしたら、ルール変更によって3000万ドル近い額を大谷は失うことになる。3000万ドル、日本円で34億円余りといえば、日本のプロ野球選手の平均生涯年俸を上回るほどの額だ。

もっとも契約ボーナスそのものは、これまでのルールにおいても500万ドル程度だったかもしれない。年俸総額を厚くすることで、それがカバーできる。ただ、その年俸総額抑制こそ今回のルール変更の狙いだ。旧ルールで今年のオフに移籍する場合、総額は2億~3億ドルになるなどと米メディアが球団首脳への取材を通して弾き出していたが、仮に、7年総額2億ドルで契約するとしよう。

それと比較して、新ルールに沿って移籍した場合にどうなるかといえば、まず大谷は今年7月に23歳となるので、マイナー契約しか結べない。開幕時にメジャーのロースターに入ればメジャー契約に切り替わるが、1年目は最低年俸でプレーするしかない。18年のそれは54万5000ドルなので、日本での年俸と比べても大幅なダウンとなる。

2年目以降はその限りではないが、自分の年俸が低いと申し立てができる年俸調停権を得るまでは、さほど上がらない。調停前の年俸はマイク・トラウト(エンゼルス)の100万ドルが最高である。

年俸調停権を得るのはおそらく3年目のオフ。2年目と3年目の選手全体のトップ22%の成績を残せば、"スーパー2"の資格を得るので、調停の権利を得る時期が早くなるが、それでも2年ちょっとの在籍が必要なので、3年目のオフということになる。仮にデビューが遅れ、スーパー2の資格もとれなければ、調停の権利を得るのは4年目のオフだ。

打撃練習する大谷。メジャー挑戦後は、まず実績を積むことが肝心だ=共同

大リーグ6年目までを予想すると…

順調にいって3年目のオフに調停権を得たとしよう。実際に調停にまでもつれることは少なく、期限までに両者が落としどころを探るが、あくまでも前年度の年俸がベースになるので、いきなり、2000万ドルに上がることもない。これまでの例を踏まえた上で1年目からFAとなる6年目までの年俸をざっとシミュレートすれば、こんな感じではないか。

1年目 54万5000ドル

2年目 75万ドル

3年目 100万ドル

4年目 800万ドル

5年目 1200万ドル

6年目 1800万ドル

合計で6年総額4029万5000ドル。7年総額2億ドルとは大きな開きがでる。ここは、ドラフトされる選手も条件は同じなので6年間は仕方がないと割り切るとしても、必ずしも6年でFAになれるとは限らない。

15年にこんなことがあった。カブスは大リーグ全体を見渡しても、最高の有望株と目されたクリス・ブライアントの昇格を4月17日まで遅らせた。ブライアントはその年、新人王を獲得し、昨年はナ・リーグのMVPを受賞。前評判の高さに違わぬ力を見せつけたが、結果としてブライアントがFAになれるのは、7年目が終わってからとなった。FAになるには、満6年の登録日数が必要だが、デビューが遅れたことで、6年目を終えた時点ではFAになるための登録日数が1日だけ足りないのである。大リーグでは当たり前のように行われている操作だ。

まずは実績、大型契約はその後で十分

おそらく大谷を獲得したチームも同様の対応をとるだろう。となると、拘束は7年と考えた方がいい。ただ、調停権を得るのは3年目のオフで変わらないので、年俸は6年目まで先ほどのシミュレーションと変わらず、7年目の年俸が2000万ドルとなれば、年俸総額は7年、6029万ドルとなる。7年総額2億ドルとの差は1億3971万ドル。あくまでも机上とはいえ、大リーグはルールの変更で、大谷にこれだけの損失を迫ることになる。

しかしながら、きっちり結果さえ残せばこの限りではない。トップ選手の多くは調停権を得るタイミングで契約延長をし、トラウトも調停権を得る前に6年総額1億4450万ドルで契約を延長した。

大谷も同様に4年目から一気に年俸が跳ね上がる可能性がある。ポテンシャルが本物だと証明できているなら、そこで7年総額2億ドル、という契約を勝ち取ることもできる。

実際のところ、故障なども考えたとき、金銭的な保障が最初から得られるのは大きいが、大リーグの実績がないにもかかわらず最初から7年総額2億ドルの契約を交わすのは、彼にとっては足かせになるだけかもしれない。チームメートの嫉妬を買い、それに見合うだけの活躍をできなかった場合、責めを負うのは、球団ではなく、彼自身だ。

その一方で、成績を残して結ぶ契約であれば、誰も文句を言わない。手にする額は自分で実績を積み上げてこそのもの。幸い、リーグには金がうなっている。彼らも出すときは出す。そのとき、大谷が手にするお金も真の価値を持つのかもしれない。

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン