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ディープラーニングは何が「ディープ」なのか

グーグルに学ぶディープラーニング(上)

日経ビッグデータ

人工知能(AI)のビジネス活用が注目を集めているが、基本に立ち返って「人工知能と機械学習、ディープラーニング(深層学習)のそれぞれの違いは何か」と問われて説明できるだろうか。「Google翻訳」の開発に携わる機械学習の研究者であるグーグルのシニアエンジニアリングマネージャの賀沢秀人氏に解説してもらった。

「人工知能が囲碁でプロ棋士に勝った」「機械学習で画像認識ができるようになった」「ディープラーニングで工場の予知保全が可能になった」

こんなフレーズを、目にしたり耳にしたりしたことのある人は多いだろう。「人工知能はAIとも呼ばれ、Artificial Intelligenceを略したものだ」といった知識も一般的かもしれない。

一方のディープラーニングは、近年急速に利用が進んでいるもので、日本語では深層学習と呼ぶことをご存じの方も少なくないだろう。こうした人工知能に関連する言葉は、ニュースの世界だけでなく、日常でも触れる機会が多くなっている。

それでは、「人工知能と機械学習、ディープラーニングのそれぞれの違いを説明しなさい」と問われたらどうだろう。何となく、コンピューターの頭が良くなって、人間に指示されなくても答えを導き出してくれること、といったイメージはあっても、それぞれの違いを説明するのはちょっと難しいのではないだろうか。

人工知能にまつわる潮流は、学術的な研究の進展、クイズ番組や将棋・囲碁といったゲームに勝利するといった次元から、ビジネスのシーンにも押し寄せてきている。これまで、人工知能なんて関係ないだろうと思っていたあなたの仕事にも、近い将来は関係してくる可能性は十分にある。そのとき、きちんとした理解がないとビジネスチャンスをものにできないだけでなく、時代の潮流からあなた自身が置いていかれる危険性だってある。

ディープラーニングは機械学習の一部

では、それぞれの言葉を説明していこう。まずは人工知能だ、と言いつつ、最初からちょっと腰が引けた紹介をせざるを得ない。なぜなら、人工知能そのものは、実はひと言では語り尽くせない概念だったりするからだ。どのような存在を「人工知能」と呼ぶのか、という議論になると学者や専門家の間でも厳密には意見が分かれる。

知能を取り扱うとなると、哲学の範疇にまで議論の範囲が広がってしまう可能性もある。

ここでは、「人工知能=知的な情報処理をするもの、またはその技術」

と、大きく捉えておく。コンピューターなどが、ある情報の入力に対して、何か知的な結果を導き出してくれると考えれば、読者が思い浮かべる人工知能と大きなズレはないだろう。

グーグルで「Google翻訳」の開発に携わり、自身も機械学習の研究者であるシニアエンジニアリングマネージャの賀沢秀人氏は、こう説明をする。「同じコンピューターでも、足し算をしたり画像を白黒に変換したりするといった処理ではなく、画像に何が映っているかを当てるような処理をする場合、知的な情報処理をしていると感じる。何らかの"知的そうな"処理をする機械や技術が、ぎりぎりのコンセンサスだと思う。非常に捉え方が広い概念が人工知能なのだ」。

ここでは、人工知能とは何かという哲学には踏み込まず、大きな概念として知的な処理をする「人工知能」があるとして、先を急ごう。次は「機械学習」「ディープラーニング」についてだ。

機械学習もディープラーニングも、大きな意味では人工知能を実現するための手法だ。その点、「何となく人工知能も機械学習も、そしてディープラーニングもすべて似たようなものではないか」という直感は正しい。では、機械学習とディープラーニングの関係は何か。グーグルの賀沢氏は、今度は定義を明確に語ってくれた。

「機械学習の1つの分野が、ディープラーニングだ」

そう。ベン図で示せば、大きな人工知能の枠があり、その中に機械学習の部分があって、さらに機械学習の中にディープラーニングの円が描かれているということになる。なので、ディープラーニングのニュースを見たときに、機械学習や人工知能のことを話題にしていると思うのは正解だ。ただし、機械学習の話をしているときに、それが必ずしもディープラーニングの技術や手法を使っているかどうかはわからない。そんな関係性を、まず理解しておこう。

機械学習は人間がプログラムを作らない

機械学習の一部がディープラーニングだという定義は分かった。それでは、大きな枠組みである「機械学習」とは何か、賀沢氏に聞いていこう。

「まず、普通の機械、要するにコンピューターのことを考えてみる。普通の機械は、プログラムに従って動作する。これはスーパーコンピューターでも手元のスマートフォンでも同じだ。そのプログラムは人間が記述するわけだ。Aという情報が入ってきたときに、Bの条件が同時に成立すれば、Xという動作をさせるというようなプログラムを人間があらかじめ作っておき、コンピューターはプログラムに従って答えを導く」

それでは、機械学習はどこが違うのか。

「機械学習は、プログラムを人間が作らない。どう判断するかを人間が教えることなく、機械が自分で学ぶことから、『機械学習』と呼ぶのだ。人間が教えないとはいっても、機械がいきなり情報を見て答えを出すことはない。機械には、「A」という情報が入ってきたときには、答えは「X」だよといった例を教えてあげるのが1つの方法。入力に対する答えとなる出力のセットの例を、たくさん機械に与えてあげるのだ。そうすると、機械は人間がプログラムを作らなくても、不思議なことに勝手に学習して『モデル』を作っていく。これが機械学習の基本だ」

機械が答えを出すための手法を、人間がプログラムとして与えるのではなく、機械が自動的に膨大なデータから学習してモデルを作るのが、機械学習なのだ。機械学習では人間がプログラムを書くときのように、「どのような条件のときに、どのような答えが導き出されるか」といったことはわからない。機械の中で、入力に対して正しい答えが導き出されるような"モデル"が作られるだけだ。

しかし、人間の赤ん坊が物を覚えていくとき、親は論理的な条件分岐のプログラムを教え込むわけではない。ある状況(入力)に対して、言葉の意味であったり、取るべき行動だったりの答えを教えている。膨大な入力と答えのセットから知識を獲得していくという意味では、人間の学習にとても近いイメージを持つとも言えそうだ。

人工知能には、人間がプログラムを書くことで動作する種類のものも数多くある。機械学習は、そうしたプログラムを必要とするタイプの人工知能とは別の種類であり、人工知能の1つの種類だと覚えておこう。

コンピューターの発達がディープラーニングを可能に

さて、機械学習のイメージが湧いてきたところで、話題のディープラーニングについて踏み込んでいこう。ディープラーニングは「深層学習」と訳されている。機械学習では、入力と出力があって、その間の関係性を「当てる」モデルを作る。しかし、適切なモデルを作ることは一筋縄ではいかない。賀沢氏はこう言う。

「人間が、画像に何が映っているかを判断するプログラムを作るとしても、非常に難しい。同じことを機械に学習させようとしても、やはり難しいのだ。機械学習では、入力に対して出力を決める『処理』を行う。この処理を1段階で、複雑な判断をさせることは難しい。例えば画像データを入力として与えたとき、明るいか暗いかであったり、右半分が明るい、左半分が明るいであったり、単純な判断は1段階の処理でできたとする。しかし、1段階では単純な処理が限界だ」

「そこで、こうした処理の結果を、さらに処理する階層的な処理を行ってみる。すると、複数の段階の処理によって、画像データに映った形が判断できるようになったりする。もっと処理を重ねると、顔であることが認識できたりするのだ。複数の層の処理を重ねて複雑な判断をできるようにする技術であるため、深層学習、すなわちディープラーニングと呼ばれている」

1段の処理では簡単な結果しか導き出せない機械だが、この処理の層が深くなる(ディープになる)ことで、複雑な処理が行えるというのが、ディープラーニングの考え方だ。

ディープラーニングも機械学習の一種だから、人間が「プログラム」を与えるわけではない。入力と出力のセットをたくさん与えてやると、自動的に1段階ごとの処理の関係性を調整していき、入力に対して正しい答えを導き出すことができるようになるわけだ。

ディープラーニングでは、計算処理を何段にも重ねて行わなければならない。そして、その1段階ごとの処理の関係性を自動的に調整するためには、膨大な入力と出力のセットが必要だ。計算の量がものすごいことになる。

「機械学習の考え方は数十年前からあったし、ディープラーニングもアイデア自体はかなり昔からあった。しかし、10年前でも、まだやりたくてもできなかったというのが現実だった。コンピューターの処理能力が足らなかったし、膨大なデータを収集することも難しかったのだ。それが、コンピューターの計算力の大幅な向上と、インターネットなどを介して大量のデータを収集できるようになったことで、この数年で実用レベルに達してきた」(賀沢氏)

ディープラーニングは、昨日今日で急に登場した新人ではなかった。下積み時代を過ごし、コンピューターやインターネットの発達という時代背景に乗って、今ようやく花開いた"苦労人"だった。しかも、そのディープラーニングが現在の人工知能活用の主流になろうとしている。

「今のトレンドの議論では、ディープラーニングの発達や利用が、人工知能の発達や利用を代表しているといえるかもしれない」

この賀沢氏の言葉にあるように、ディープラーニングを知ることは、今の人工知能活用シーンで最も重要なことだ。人工知能の広い海の中に浮かぶ機械学習の島。その島で生まれたディープラーニングという生物が、人工知能の星を代表する生物として急成長している。地球に生まれた人間のように、機械学習、そしてディープラーニングに着目することの必要性が、少しずつ見えてきたのではないだろうか。

(日経ビッグデータ編集部)

[書籍『グーグルに学ぶディープラーニング』の記事を再構成]

[参考]日経BP社は2017年1月26日、書籍『グーグルに学ぶディープラーニング』を発行。AIの中核技術として注目を集めるディープラーニング技術をやさしく解説。将来のビジネスがどう変わるのか、グーグルのサービスや日本企業の取り組み事例から探った。

グーグルに学ぶディープラーニング

著者 :日経ビッグデータ編集部
出版 : 日経BP社
価格 :1944 円 (税込み)

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