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マウスの肺 生きたまま観察 阪大MRI、難病に光

関西サイエンスマガジン

研究室のパソコン画面いっぱいに映るのは、大きな肺の立体画像だ。実はこれ、マウスの肺。指先ほどの大きさしかない小さな臓器を、マウスが生きたまま直接撮影した。大阪大学の免疫学フロンティア研究センター(大阪府吹田市)は、国内では珍しいマウス用の磁気共鳴画像装置(MRI)で難病である「線維症」の謎の解明に挑む。創薬や新たな診断技術の開発につながる研究だ。

3D化したマウスの肺のMRI画像がモニターに映し出される(大阪府吹田市の大阪大学)

2016年12月。同センターの審良静男教授と佐藤荘助教らの研究チームは、肺などの組織が硬くなる原因不明の難病、線維症のメカニズムの一部を解明した。この研究に欠かせなかったのが、生きたままマウスの体の中を観察できるマウス用のMRIだ。

肺の立体画像には、青や赤で色づけされた部分がある。佐藤助教は、ひときわ大きな青いかたまりを指さした。「青で示した部分が線維症の起きている場所です」。数ミリ程度の小さな患部の形状が、でこぼこまで細かく映し出されている。赤は線維症になる前の炎症が起きている場所だ。

どのようにして撮るのだろうか。実験室に入ると、巨大なドラム缶を横に倒したような高さ2メートルほどの装置があった。マウス用のMRIだ。病院などにある人用のMRIより小さいが、解像度が高く、1ミリ以下のものも正確に写し出す。

病院のMRIなら人の横たわるベッドがある。その役目を果たすのが、MRIの正面から突き出た、細い竹筒のような器具だ。竹筒の先端にすっぽり収まるように、体長10センチ足らずのマウスが麻酔をかけられて、うつぶせの状態で眠っていた。竹筒をMRIの中に収め、実験室の隣にある部屋から操作してマウスの体の断面画像を撮る。MRI特有のバリバリという装置の動作音が響き渡った。

佐藤助教は「線維症の肺の画像は(うまく)撮るのに1年半かかった」と明かす。一眼レフのカメラと同じで、MRIも撮影時に様々なコツがある。線維症や炎症の場所だけが際立って写るような撮影方法を探すのは、至難の業だった。

生きたままマウスの線維症を観察できれば、線維症の進行メカニズムを探る実験ができる。研究チームは、薬剤でマウスの肺に炎症を起こしても、一定の条件では線維症が起きないことを確認。発症には特殊な細胞が関わっていることが分かってきた。

線維症は根本的な治療法がない病気だ。肺の隅で炎症が起きた後、その場所を再生するため組織が分厚くなり、硬くなる。肺がスムーズに膨らんだりしぼんだりできなくなり、呼吸がしづらくなる。肝臓や腎臓など、他の臓器で起こる線維症もある。

同センターは16年春、中外製薬と新薬の研究開発などに関する包括提携をした。線維症に関わる特殊な細胞をたたく薬ができれば、画期的な治療薬になる。マウス用MRIで培った撮影技術も、人の線維症の診断に応用できる可能性があるという。線維症のメカニズム解明と治療法確立に向けた今後の研究に、大きな期待がかかっている。

(文・出村政彬、写真・山本博文、動画・三村幸作)

 関西にはけいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)や神戸医療産業都市、京都大学や大阪大学などのほか、大手企業の研究機関が集積する。関西の先端技術や研究を、独自の視点で切り取った写真と文章で毎月伝える。

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