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培養皿で作る人間の脳 病気の原因、解明に挑む

日経サイエンス

非常に身近でありながら最もわかっていないものの一つが私たちの脳だ。ヒトの脳がどのように発生し機能しているのかを正確に理解することは現代科学の最大の課題ともいえる。培養皿の上で人間のミニ脳を育てて、謎の解明につなげようという動きが出てきている。

「脳オルガノイド」で研究

培養皿で作ったミニ脳によって、私たちの脳の仕組みの解明が進みそうだ(イラスト:BRYAN CHRISTIE)

これまでのマウスやラットの実験から多くの知見が得られているが、マウスなどの脳とヒトの脳の間には重要な違いが1つある。マウスの脳の表面が平坦であるのに対し、ヒトの脳は表面が深く折り畳まれてしわになっていることだ。統合失調症やアルツハイマー病など様々な脳疾患の治療法をマウスやラットの実験で探る研究が失敗してきたのは、こうした脳の特徴の違いによって説明がつくかもしれないとの見方がある。

そこで近年、ヒトの脳そのものを実験材料として扱う新たなアプローチが注目を集めている。人体のどんなタイプの細胞にもなれる多能性を備えたiPS細胞やES細胞を用いて、人間の脳の主要部分を培養皿の上で育てる。1カ月ほどすると、妊娠10週目の胎児の脳(前脳)に驚くほどよく似た組織ができる。いわば人間のミニ脳だ。この培養した脳組織「脳オルガノイド」を使って脳関連疾患の様々な研究が進んでいる。

オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所のグループが取り組んでいるのは、脳のサイズが生まれつき極端に小さい小頭症。研究グループは小頭症患者の細胞から育てた脳オルガノイドが、通常よりもはるかに小さくなることを発見した。現在、発生中の胎児に小頭症を引き起こすのに関与している生化学反応を、脳オルガノイドを使って調べている。

蚊が媒介する感染症、ジカ熱の研究も進展している。妊娠中の女性がジカ熱にかかると、場合によっては胎児に小頭症を引き起こすとされてきたが、以前は仮説の段階にとどまっていた。それが近年、ブラジルや米国の複数の研究グループによる脳オルガノイドを用いた実験で、ジカウイルスが小頭症につながることが実証された。健康な人の細胞から作った脳オルガノイドにジカウイルスを感染させたところ、神経細胞が死に、感染させなかった脳オルガノイドに比べてずっと小さなサイズになった。

脳オルガノイドを創薬に応用しようという研究も活発だ。この技術を使えば、新薬が脳組織に望ましい影響を及ぼすかどうかを動物実験なしで評価でき、医薬品開発のコストを節約できる。また、発達中の脳に及ぼす悪影響も特定できるので、胎児の脳に有害な薬を妊婦が服用する事態を避けられる。

(詳細は25日発売の日経サイエンス2017年3月号に掲載)

日経サイエンス2017年3月号

著者 :
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,440円 (税込み)

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