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大学ラグビー8連覇、帝京大の変わる勇気と育成力

敗者がかつての王者と重なって見えた。9日のラグビー大学選手権決勝。帝京大に26-33と健闘した東海大の最大の強みはFWのパワーと堅守だった。この2つは、8連覇を遂げた帝京大のかつての強みとそっくり同じである。

トライを決めた帝京大・竹山。背番号に関係なく、誰もが良く走り良くつなぐラグビーをみせた=共同

東海のFWは、個人でも塊になっても強かった。ナンバー8テビタ・タタフやプロップ渡辺隆之の突進力や、密集戦でのボール奪取力は出色。スクラムでも帝京を押し込み、2つのトライを奪った。

SO真野泰地らのタックルも厳しく、簡単に前進を許さない。綿密なトレーニングと科学的な栄養摂取でしっかり体を鍛えてきたことが分かる奮闘。帝京の岩出雅之監督も「東海は素晴らしいパワーラグビーをされた」と敬意を表した。

ただ、東海の成長が目立ったのには、帝京の側にも理由があった。劣勢だったスクラムを帝京は今季、週に1日しか練習していない。昨季までの週2日でも多いとはいえないのに、半減させた。結果、今季は他チームとの試合でも押し負ける場面が目立った。

帝京がスクラムに力を入れなかったのは、時間を別の部分に投資したから。「今、目指しているボールを動かすことや、守備の対応力などへの時間を割きたかった」と岩出監督は狙いを語る。

磨いた「どこからでも球動かす」意識

成果が良く表れたのが、同点に追いついた前半2本目のトライ。帝京は中盤の密集でボールを奪い返すと、左、右とピッチの横幅をいっぱい使って攻める。今度は内側にスペースができたとみるや、FWが密集の脇に連続で走り込んでさらに前進。最後は外側の人数を完全に余らせ、CTB矢富洋則が仕留めた。

背番号に関係なく、誰もが良く走り良くつなぐ、ダイナミックなトライ。「どこからでもボールを動かす。自分達が練習してきたことができた」とSO松田力也は胸を張った。

スクラム強化の代わりに帝京が得たものはまだある。東海の木村季由監督が話した。「(自分たちが)緩いというか、そこを帝京は見逃さない。一気に畳みかけられてスコアまで持って行かれた」

東海のナイーブな顔が出たのは、リードした時の試合運び。前半の14-0の場面では、キックミスから相手にゴール前のラインアウトを与えた。後半の19-14の時には、確実にタッチラインの外に出すべきペナルティーキックを蹴り損ね、ドロップアウトにしてしまう。2つの場面とも、直後の攻撃で帝京がトライを挙げた。

東海に勝負どころでの足技のエラーが多発した分、帝京の松田の正確なキックによる試合運びがさらに引き立った。コースや高低をコントロールしたキックで確実に稼ぐだけでなく、インゴールへのキックで2トライをアシストした。「アフター(ボールを放した後にタックルを受けること)気味にバンバンくらっていたのに」と岩出監督。タックラーが目前に迫れば体が無意識に縮こまりそうな状況でも、松田の落ち着きは失われなかった。

帝京大は松田のコースや高低をコントロールしたキックを武器に試合を運んだ=共同

後半、2つ目のアシストとなるキックは、周辺のピッチがぬかるんでいることも計算に入れて蹴っている。東海のFB野口竜司は後ろに方向転換する際に一瞬、足を取られ、帰陣が遅れた。その隙にWTB竹山晃暉が追いつき、野口とほぼ同時にボールを抑える。判定の結果、だめ押しとなるトライが認められた。

堅守と肉弾戦のチームから、ボールを大きく動かすスタイルへの転換。連覇を続けながら、これほど個性を変えるチームは珍しいだろう。

1988~94年度に日本選手権を7連覇した神戸製鋼は、展開ラグビーを基調としていた。他競技を見ても、V9時代の巨人は9年間連続リーグ最多得点という数字が示すように打撃や走塁が強みだった。

偏った選手にならぬための路線変更

成功している者が自ら変わることは勇気がいる。路線変更の狙いを岩出監督は、こう語る。「このあとトップリーグに入ったり、日本代表を夢見ていたりする選手もいる。学生が偏った選手にならないようにするため」

トップリーグ首位のサントリーで主将を務めるSH流大ら、確かに近年の卒業生は、多様なラグビーへの適性が高い。今季のメンバーを見ても、既に代表デビューを果たした松田ら2019年ワールドカップ日本大会のメンバーを狙えそうな選手が並ぶ。岩出監督のチャレンジが帝京の「育成力」を高めたのは間違いない。

スタイルの転換は、勝ち続ける上でも意外なメリットがあったようだ。東海がかつての帝京と似ていることを問われた岩出監督が答えた。「このラグビーのウイークポイントは分かる。どこにディフェンスの穴ができるかとかね」。自分達の来し方を振り返れば、強みも弱みも良く分かるという説明だった。

東海は密集付近の守備に穴ができがちだった。特に前半は帝京がボールをピッチの左右に大きく動かした後、FWの帰陣が遅れて大きくスペースが空いた。前半終了間際の矢富のトライの際、帝京はこの穴を連続で突いている。

史上最多を更新する8連覇を成し遂げ、胴上げされる帝京大の岩出監督=共同

新しい衣をまとった帝京。だが、その「地肌」が変わっていないことも、東海の健闘によって明らかになった。個々の身体的な強さである。

例えば、タックル後の密集戦。守勢の時間が長い東海の方がボール奪取の回数では上回ったが、帝京は序盤から静かに重圧を掛けている。相手の球出しを遅らせたり、味方に配球するSHにきれいな球を出させなかったり。東海はSHからFWへのつなぎのパスにミスが続出し、攻撃権を帝京に渡す場面が多発した。

最初は互角だった肉弾戦の優劣も、時間の経過とともに帝京の側に傾いた。「前半、スクラムでプレーが止まっている時に、東海がハアハア言っているのが分かった」と帝京のフランカー飯野晃司。東海は体力の消耗とともに、タックルが少しずつ押し込まれていく。後半、ほとんどの時間で帝京がボールを保持できたのは、肉弾戦の優勢が理由だった。瞬間的な強さだけでなく、それを80分間維持する力ではまだ王者が上だった。

勝利の価値、良き敗者いればこそ

試合後に話題になったのが、後半28分の帝京のだめ押しトライの判定。確かに、帝京・竹山と東海・野口のどちらが先にボールを抑えたかは映像を見る限り、微妙だった。

久保修平副審の位置からははっきり分からなかったが、戸田京介主審からはトライに見えたという経緯で認定されたが、仮に両者がボールを抑えるのが同時と判断されても、帝京ボールの敵陣ゴール前5メートルのスクラムから試合再開となったはず。帝京有利の局面が続いたわけで、この判定だけで大勢は変わらなかったかもしれない。

ただ、トップリーグでは既に全試合でビデオ判定が導入されている。大学選手権決勝の方がトップリーグの多くの試合より注目度が高いことを考えると、来季以降のビデオ判定の採用は検討されるべきだろう。

こうしたかすかなもやもやを消したのが、試合後の木村監督の言葉だった。判定について問われると、「トライというのであればトライです」。審判の判断を尊重するラグビーの精神そのものですがすがしかった。

思い返せば、過去5年の決勝はこうした「もしも」すら、見た人の頭に浮かばないような帝京の完勝がほとんどだった。久々の接戦の後、岩出監督は宣言した。「来年はスクラムを強くします」。かつての姿に戻すということではなく、新しい強みを生かしつつ、やや薄れたFW戦へのこだわりを取り戻そうということだろう。東海も今季の手応えをもとに、さらに進化するはず。良き敗者との切磋琢磨(せっさたくま)が楽しみとなる決勝だった。

(谷口誠)

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