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鉄の「魂」超高速改修 神鋼、難工事に挑む

神戸製鋼所が2016年末に加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の高炉を20年ぶりに全面改修した。高炉は溶けた鉄をつくる主力設備で製鉄会社の「魂」。世界最高の効率と品質の鉄づくりを目指し、業界最短という3カ月の難工事に挑んだ。(関連記事12面に)

16年12月23日、加古川製鉄所で第3高炉の稼働を始める「火入れ式」が開かれた。会長兼社長の川崎博也(62)がたいまつの火を高炉に入れるのを、口を一文字に結んだまま緊張の面持ちで見守る男がいた。

製銑技術管理室長で高炉改修プロジェクトのリーダーである坂野俊太(49)。15年5月に責任者に任じられて1年半、苦闘はこの日一区切りがついた。

加古川製鉄所で稼働する高炉は第2と第3の2本。高さ数十メートル、筒状の形をした高炉の内部で石炭を焼き固めたコークスと鉄鉱石を高温で反応させて鉄を取り出す。中はセ氏1500度前後。15~20年稼働を続けると耐火れんがが傷み生産性が落ちるため、定期的に全面改修を繰り返す。

坂野は第3高炉が前回改修した1996年4月にも火入れに立ち会った。以来20年間、この高炉と向き合ってきた坂野が命じられたのは、前例のない改修工事を実現することだった。

課された条件は2つ。ひとつは高炉の外壁にあたる鋼板製の「鉄皮」をそのまま残すこと。もう1つは通常1年以上かかる工事を3カ月という短期間で完了することだ。

国内で一般的な改修方法は、あらかじめ完成形を輪切りにしたようなブロックを外部で製造しておくやり方だ。今ある高炉を取り除いたあと、だるま落としをクレーンで積み上げるように組み立てる。解体に時間がかかり改修期間は長引くが、工事は簡単だ。

だが今回は鉄皮はそのままに、耐火れんがなど内部設備だけを入れ替える。いわばコートを着たままシャツを脱ぎ着するようなものだ。大型高炉では世界に例のない方式で、難工事になることは坂野には容易に想像できた。

なぜ難しい方法を選んだのか。加古川製鉄所長で専務執行役員の柴田耕一朗(58)は「とにかく改修費用を抑えるため」と言い切る。

背景にあるのは生産設備のリストラだ。年間粗鋼生産量が約700万トンと国内3位、世界では50位前後に甘んじる神戸製鋼所は17年秋、神戸製鉄所(神戸市)で高炉1基を休止する。

神戸製鋼所が改修して再稼働した加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の第3高炉

鉄鋼業界は中国の過剰生産や国内市場の縮小で一段の効率化が求められている。規模によるコストメリットを追求できない神戸製鋼は収益性で大手に対抗するしかない。高級品へ集中するとともに高炉の生産性を高め固定費を下げる狙いで、休止後には2拠点3基から1拠点2基になる。「加古川は唯一無二の鉄源供給基地になる。責任は極めて重い」(柴田)

だが果たして新しい工法は実現可能なのか。同社はまず、鉄皮が今後さらに何年もの使用に堪えられるか、測定・解析とシミュレーションを重ねた。これまでの操業で鉄皮にゆがみが生じていれば、再稼働した途端に高温のガスで裂けてしまう事態もあり得る。幸い、ゆがみはなく内部さえ入れ替えればあと20年は使えると判断した。

次に工期。改修に備えて作り置きできる鋼材の上限はちょうど90日分。1日遅れると1億円以上の損失になる。高炉内部に可動式の足場を3つ組み、上中下3分割して耐火れんがや冷却装置の入れ替えを並行して進めれば可能と見積もった。操業を止める「吹き止め」を16年9月24日、再稼働は12月23日に設定した。

吹き止めから7日後、内部に水を満たして冷やした鉄皮を爆破して穴を開けた。まだ湯気が立ち上っている炉の中に重機を入れる。底部には厚さ70センチメートル、重さは400トンにも及ぶ鉄の塊が残っていた。切り分けて外部に運び出すと、いよいよ高炉作りが本格化する。

高炉改修はただ内部を入れ替えるだけではない。操業の安定度をより高めるのが真の目的だ。

 20年の稼働で原料の投入口側に近い中段やや上部にある耐火れんがの損傷は大きかった。表面が凹凸になり、鉄鉱石とコークスの投入位置を狂わせていた。最悪の場合、温度が急激に下がり炉が詰まりかねない。

このため、耐火れんがより丈夫な「ステーブ」と呼ぶ金属製の水冷式冷却装置を設置する範囲を広げたほか、中腹部のステーブはより放熱性が高い銅製に変えた。

ステーブは634枚、れんがは3千トン。1つが1センチメートルずれると最後の1枚が入らないという事態も起こり得る。高炉専門の技術者集団が1日平均1千人集結し、手作業で貼り合わせていった。中に熱風を送る「羽口」や原料を投入する装置も設置され12月16日、設備の工事はほぼ予定通り仕上がった。

12月24日、初めての鉄を取りだした(兵庫県加古川市の加古川製鉄所)

火入れ翌日のクリスマスイブ。午後5時8分に出銑口から火花が飛び、溶けた鉄=銑鉄が吹き出した。だが大団円はまだ先だ。鉄に不純物が多かったうえ、詰まり気味で期待通りの出来ではなかった。操業技術者らが何度も大型ドリルで炉に穴を開け調節する。

それでも作業を見つめる坂野は落ち着いていた。「スラグ(不純物)の温度が低いわけではないので心配要らない」。色で温度を見極めていたのだ。2時間後、銑鉄が次の工程に渡され、新しい鉄作りが始まった。今後は人工知能(AI)も駆使して生産性が高く、操業トラブルのない高炉を目指す。

今回の改修を通して神戸製鋼は何を得たのか。「鉄皮を残す方法は国内のスタンダードになる」と柴田は話す。国内需要の縮小が将来見込まれるなか、定期的に巨額を投じなければならない高炉改修は経営に大きくのしかかる。今回の改修費は約200億円、従来方式の半額で済んだ。

とはいえ、神戸製鋼にとってなお軽微ではない。同社の鉄鋼事業部門は17年3月期に300億円の経常赤字を見込む。原料費の高騰が響くほか、14年から進める生産設備リストラの投資負担も重なる。投資効果が出るのは18年以降となる。

コストだけではない。より軽く強い鋼材を開発し続けられるのか。世界経済の構造変化に対応して国内外で安定供給ができるのか。川崎は「これからが本番だ」とネジを巻く。

坂野は今回、プロジェクトメンバーに入社10年前後の若手・中堅社員を入れた。「次の改修時に中心になってほしい」との思いからだ。その1人、白石恒司(35)は「しんどい時もあったが、次のためにここにいる」と自覚するようになった。

次の改修は早くても15年後とみられる。その時、神戸製鋼は「鋼」の文字を掲げているか――。動き始めた第3高炉の役割は重い。=敬称略

(企業報道部 深尾幸生)

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