2018年10月23日(火)

[FT]英国はメンタルヘルス医療への資金が必要(社説)

FT
2017/1/10 15:12
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Financial Times

英国民の心の健康を真剣に受け止める必要があるとしたメイ首相の9日の発言は、2通りに解釈できる。前向きに解釈すれば、心の病は個人と家族を苦しめるだけでなく、欠勤や欠席、生産性の低下を通じて企業や学校にも多大な損失が及ぶという認識として歓迎される。悲観的に解釈すれば、政府は国営医療制度(NHS)を通じて治療を支える代わりに、精神疾患を抱える人々に対応する負担を企業に転嫁したがっているということになる。

精神疾患は世界の保健における最大の問題の一つであり、状況は悪化している。その理解と治療の向上につながるものは何であれ歓迎される。だが、企業による支援は本来的に公的な医療の提供に取って代わるものではなく、それを補完するものとして捉えられなければならない。

■精神疾患による生産性低下などでGDP約4.5%減

精神疾患は現代の最大の健康問題の一つで、特に先進国と労働年齢の人々の間で著しい。経済協力開発機構(OECD)の推計では、精神疾患は欠勤や生産性低下、医療給付の増加を通じて英国の国内総生産(GDP)を約4.5%減らしている。

対策費が最も足りない医療問題の一つとして放置された数十年の後、精神疾患はブレア政権下でしかるべき関心を受け始めた。2006年には、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのリチャード・レイヤード教授の率いた研究が、心理療法のサービス拡大の機運をもたらした。

その後、12年までに法制面では、心と体の保健が「同等に尊重」されるようになる見通しがついた。ところがそれ以降、多くのNHSトラスト(医療サービスの運営母体)が資金不足を報告し、現場の医療従事者からは、どの資金がどこに振り向けられるのかに大きな混乱があるとの声が上がっている。そしてさらに、保守党政権が発表した医療費抑制が問題を悪化させている。

当のNHSも心の病を抱える人々に対する助言の中で、心理療法は受診待ちの患者が多いことを認め、私費治療を勧めている。NHSに治療ガイドラインを示す国立医療技術評価機構(NICE)が、一般的な精神疾患の初期段階では投薬よりも「対話療法」のほうが望ましいと提言しているにもかかわらずだ。

企業は心の健康に問題を抱える従業員に対して、必要に応じて休職やストレスを減らすための就業パターン変更など重要な支援を提供できる。学校も生徒に同じことができる。だが、これらはNHSや民間医療が提供するセラピーや投薬などの治療に代わるものではなく、補完するものだ。

加えて、特に英国の労働者の半数以上を雇用している中小企業の場合、直接的にケアを提供する能力は財源や管理能力の面から厳しい制約の下にある。

特に学校で心の問題を早期発見するための取り組みなど、メイ氏の介入基調は前向きだ。だが実際の提案内容は、ベストプラクティス(最良の慣行)の推進や医療機関に対する精神保健の「応急処置」訓練など、小さな施策の寄せ集めだ。予算が発表されたのは、クライシスカフェのような地域施設への支援を拡大する1500万ポンドだけだ。

政府として心の健康に真剣に対処するつもりであるのなら、メイ氏は理解を示して小冊子を配る以上のことをする必要がある。全ての先進国に共通だが、精神疾患は英国の社会問題であり、NHSが本腰を据えるための資金が必要だ。

(2017年1月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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