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米国の正月スポーツ、大学はプロ並み巨大ビジネス

スポーツライター 丹羽政善

日本と米国の正月は随分違う。

元日に合わせて大掃除をし、仕事を片付け、家族そろって厳かに新年を迎えるのが日本だとしたら、米国では「サンクスギビングデー(感謝祭)」から始まるホリデーシーズンの締めくくりという位置づけ。ピークはその前のクリスマスにあって、特別感はない。

テレビの前に人々をくぎ付けに

もちろん、大みそかの夜には各地でカウントダウンパーティーが行われる。ただ、今年は1月1日が日曜日だったため翌2日が振り替え休日になったけれど、通常は2日から会社も学校も始まるので、余韻に浸る間もない。長く米国にいても、この習慣だけにはなかなかなじめないが、それでもこの時期、共通するものがある。日米問わず、テレビの前に人々をくぎ付けにするのが、正月スポーツだ。

日本では年末から年始にかけて、サッカーの天皇杯全日本選手権、東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)、ラグビーの全国大学選手権、サッカーの全国高校選手権とビッグイベントが続くが、米国でも元日を挟んで、各スポーツが豪華イベントを並べる。例えば、プロに匹敵する人気を誇る大学フットボールがヤマ場を迎え、「ボウルゲーム」と呼ばれるポストシーズンに人々は熱狂する。

今年は、先ほども触れたように1日が日曜日で、プレーオフ進出をかけた最後の戦いとなった米プロフットボール、NFLのレギュラーシーズン最終週と重なったことから、プロ・アマで注目のフットボールゲームが目白押しとなった。

また、北米プロアイスホッケーNHLは野球場など屋外で試合を行う「ウインター・クラシック」を2008年から正月に開催。14年には10万人を超える観客を集め、そのときのテレビ視聴率が、NHLのレギュラーシーズン史上最高をたたき出したほど。大学バスケットボールも年末に入ると、ライバルがひしめくカンファレンス内の試合が組まれ、シーズンが本格化する。

ボウルゲームの歴史、1世紀以上

ただ、そうした中でも日本の箱根駅伝に匹敵するような米国の伝統的な正月スポーツといえば、やはり大学のボウルゲームということになる。

その歴史は古く、1902年1月1日に東海岸と西海岸の両大学代表が戦ったのが始まり。そのときはミシガン大がスタンフォード大を49-0で下した。後に「ローズボウル」と呼ばれるようになる東西の戦いは、ミシガン大が所属するビッグ10カンファレンスとスタンフォード大が所属するパシフィック10カンファレンス(現パシフィック12カンファレンス)の勝者が対戦するのが伝統となった。

30年代に入ると、開催地の特産品を冠したシュガーボウル(ルイジアナ州、35年~)、オレンジボウル(フロリダ州、35年~)、コットンボウル(テキサス州、37年~)が始まり、ローズボウルと合わせて4大ボウルゲームが1月1日に開催されることが定着。後にフィエスタボウル(アリゾナ州、71年~)とピーチボウル(ジョージア州、68年~)を合わせて、「ニューイヤーズ・シックス」と呼ばれるようになり、正月は大学フットボールというイメージが一層強まっている。

しかしながら、日米の正月スポーツは表面的には似ていても、支える構造に決定的な違いがある。日本と違って米国のそれはビジネスなのだ。

今やボウルゲームの数は41(2016~17年シーズン)に増え、勝敗に関係なく、出場チームとそのチームが所属するカンファレンスには収益が分配される。例えば今回、シーズン通しての全米ランキング上位4校で争われるプレーオフ(準決勝2試合は"ニューイヤーズ・シックス"の6ボウルゲームがローテーションで利用される)に出場した各チームには600万ドル(約7億円)が支払われる予定だ。

収益が1億ドル超える大学も

それ以上に多いのが所属するボウルゲームに関連するカンファレンスからの分配金ではないか。カンファレンスは、東京六大学や東都大学のような連盟と考えていいが、所属するチームが優秀な成績を収めれば収めるほど、お金が集まる。ランキング4位でプレーオフに出場したワシントン大が所属し、12校からなるパシフィック12カンファレンスを例にとると、まずワシントン大がプレーオフに出場したことで、パシフィック12カンファレンスには600万ドルが入る。そのほか、基本配当やUSC(南カリフォルニア大)がローズボウルに出場したことの報奨金などをすべて合わせると、収益は1億ドルを超える。強豪校がひしめくビッグ10カンファレンスが手にする総額は1億3250万ドル程度と見積もられている。

通常、そのお金は経費などを除いた後、加盟大学に均等分配されるので、ワシントン大などは今回、プレーオフ出場に伴う収益がおよそ2000万ドルに達するのではないか。シーズン全体で考えれば、フットボールに関わる収益が1億ドルを超える大学もある。

そうした状況を受け、学生にも奨学金のほか、対価を払ってはどうかという議論があるが、「学生をビジネスに利用するな」という声がほとんど聞かれないのは、そうした事業モデルが確立し、それがそのスポーツの発展を支えて来た歴史があるからではないか。

テレビマネーが支えるビジネス

ちなみに収益にはチケット収入、寄付、グッズの売り上げなどがあるが、大学スポーツビジネスを支えているのはなんといっても、テレビマネーである。

スポーツ専門局ESPNは、上位4校で行われる大学フットボールのプレーオフ3試合(準決勝2試合、決勝)と他のボウルゲーム4試合の計7試合の放送に対して、年間約4億4000万ドルの放映権を支払っている。1試合あたりの放映権料を円で計算すると、約73億円である。

一部では、テレビ放映権を柱としたボウルゲームの拡大路線に陰りがみられ、今季41のボウルゲームのうち6試合で冠スポンサーがつかなかった。また昨季は、前年に比べてプレーオフ準決勝2試合の視聴率がそれぞれ3分の1ほど落ちたという。米国では現在、ケーブルテレビ加入者が年々減っており、放映権ビジネスにも変化が訪れると指摘する声もあるが、それでもまだ、ボウルゲームが極めて優良なコンテンツであることに変わりがない。

DVRという簡単に録画のできる機能がついたケーブルボックスの普及で映画やドラマを録画し、テレビコマーシャルを飛ばして見る習慣が一般化した米国では、圧倒的に多くの人が生放送を見るスポーツイベントは広告主にとって変わらず魅力的な投資先なのだ。

おそらく、米国にも箱根駅伝のようなイベントがあれば、放映権を巡ってすさまじい争奪戦が繰り広げられるのではないか。仮にそんなモンスター・コンテンツがあることを知れば、自分たちが割って入れないことを、米テレビ各局はもどかしく思うに違いない。

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