/

IoT、日本の勝機は「T」にあり パナソニック宮部CTO

CTO30会議(7)

日経BPクリーンテック研究所

パナソニックは1918年に大阪の町工場から始まった。創業当時の従業員数は3名だったが、約100年が経った今は世界全体で約25万6000人という大企業になった。パナソニックというと家電のイメージが強いが、売り上げに占める家電の比率は約25%と意外に低い。家電の他には、住宅や車載エレクトロニクス、産業用機器などがある。普及が進むIoT(モノのインターネット)では、「T」の部分が成功の鍵を握ると言われており、「T」を多く扱う同社には有利な条件が整っている。同社の宮部義幸代表取締役専務に、CTO(最高技術責任者)の役割やIoT時代の戦略について聞いた。

――CTOの役割を教えてください。

写真1 パナソニック 全社CTO 宮部義幸専務(撮影:新関雅士)

宮部 津賀が社長になってから大きな構造改革に着手し、今から3年半ほど前、9つあったドメインを再強化・再編成し、4つのカンパニーを設けました。パナソニック全体を4+1のマネジメントということで経営し、各カンパニーにCEO(最高経営責任者)、CTO、CFO(最高財務責任者)を置いています。

全社のCTOもカンパニーのCTOも役割は基本的に同じですが、見ている範囲が違います。全社CTOは、各カンパニーが間違った方向に行かないように監督したり、事業に関係ない分野の技術を担当したりしています。全社CTOは直下に事業をする部を持ちません。新規事業を始める場合も、カンパニーがしっかりと軸を持ち、本社CTOは必要に応じてサポートするだけです。

また全社CTOは技術者の横断的な人事異動を担当します。キーとなる人材を育成するためにカンパニーを越えた配置換えをするなど、全社を横断的に見て人事を行うのです。

――1990年代から2000年代前半までの日本の電機産業は電化と家電のデジタル化でいいポジションを占めていたのに、インターネット時代ではなぜ米国の後塵を拝したのでしょうか。

宮部 出始めたころのインターネットの性能は、決して高くありませんでした。品質は悪く、転送速度も低かったのです。パナソニックも日米間に専用線を引くなどインターネットに積極的に投資しましたが、社会インフラになるとは考えていませんでした。せいぜい一部のマニアが使うアマチュア無線のような存在で終わると考えていました。しかし、それが大きな間違いでした。

一方の米国は、クリントン大統領とゴア副大統領が「情報スーパーハイウエイ構想」を打ち出したことでインターネットの普及に拍車がかかりました。そして、国家戦略としてインターネットというプラットフォームの上でのビジネス展開を促してきました。その結果、シスコシステムズやアップル、グーグルといった企業が活躍するに至ったのです。

日本企業は、家電のデジタル化において経営陣がそこに注力するという決断をしました。デジタル化を必ず実現するという、ある意味で腹をくくったのです。でも米国企業はデジタル化に失敗しました。それがインターネットでは、日本企業が決断できず、米国企業は決断したということです。大きな意味でイノベーションのジレンマと言えます。

――インターネットでは決断ができずに米国企業に主導権を取られました。そして、国内のスマートフォン(スマホ)事業のように、パナソニックではこれまでに一部事業からの撤退を経験しています。CTOとしては撤退に伴い技術の流出という懸念もあるかと思います。そうした撤退を決断する条件を決めていますか。

宮部 事業全体の総合的な判断で撤退するかどうかを決めています。条件や基準は事業によってケースバイケースです。例えば、国内のスマホ事業から撤退しましたが、これは潮目が変わったからです。

いわゆるガラケーの時代はNTTドコモなど通信事業者がスペックを決めていました。そのころはパナソニックがいいポジションにいました。しかしスマホになった時点でスペックを決める人がAndroid OS(基本ソフト)を供給するグーグルに変わりました。ここでのパナソニックのポジションは低く、仕様などの情報を入手するタイミングが遅くなり、開発競争で勝てなくなりました。

であれば、リソースを他に転用したほうが良いと判断しました。スマホの技術は、IoT時代に向けて必要なものですので、事業を売却することはしませんでした。撤退する時に技術の転用先としてタブレットPCとデジカメ、ガラケーの3つの方向性を従業員に示しましたので、比較的スムーズに移行できたのではないでしょうか。

――グーグルをはじめ、米国企業はデファクトスタンダード(事実上の標準)を含めた国際標準を作るのがうまいと思います。一方、日本企業はそういうことが苦手です。日本企業は、国際標準の動きにどう対応すべきだと思いますか。

宮部 必ずしも日本企業が国際標準化を苦手としているわけではないと思います。例えば、携帯電話でも伝送の標準化では、日本企業が技術力を背景に国際社会でも好ポジションに着けました。ただ、その上のレイヤーであるOSやアプリケーションでは標準の座を取れていません。1990年代にiモードで間違いなく世界でトップを走っていたにも関わらず、グローバルスタンダードにはなれませんでした。

かつてのビデオテープのVHS方式も、ゲーム機などもデファクトスタンダードと言えるでしょう。DVDでも国際標準を採ることができました。生産では中国企業にシェアを奪われてしまいましたが、国際標準規格は日本が作ったものです。これは、DVDプレーヤーを製造する日本企業とコンテンツを製作する米国の映画業界が組んで、標準化を進めたことが大きく影響しました。

成功する場合もあれば、失敗する場合もあります。日本にはできないとあきらめてしまわずに、日本が国際社会においてどうやってイニシアティブを採るかをもっと議論するべきです。

――IoTでインターネットの二の舞にならないようにするためにはどうすればよいと思われますか。

宮部 IoTにおいては、Tを多く持つ日本企業に有利です。インターネットでは、パソコンとスマホの2つしかTがありませんでした。そしてこの2つにおいて米国企業に主導権を握られてきました。IoTの時代になるとTがあらゆるところに存在することになります。

本来のTの機能を、日本企業はしっかり作れる強みがあります。あとはIに真面目に取り組むことが大切です。Iを真面目にやらないと、全体の価値が下がってしまって、Tが良くても負けてしまうからです。

例えば、過去にテレビのインターネット化に真面目に取り組まなかった時があります。インターネットに接続しなくてもテレビを見ることはできるので、問題はありませんでした。実際、消費者もインターネットに接続しない人が大半でした。

テレビも、インターネット経由の映像をある程度の画質で見られるようにする技術的な工夫には取り組んできました。しかし、テレビからインターネット接続するように消費者を誘導したりはしてきませんでした。その結果、画質が多少悪くてもスマホやタブレットPCで動画を見る習慣が定着し、テレビの存在を脅かしています。テレビもインターネット接続を避けて通らずに、取り組まなければいけないのです。これは一例であって、これからどのTであっても、Iを怠らずに対応することがIoT時代で勝ち残る方法です。

写真2 IoTでは日本の強みが生かせると話す宮部専務(撮影:新関雅士)

――Iの部分を強化するためにどのような手を打たれていますか。

宮部 幸いにもパナソニックにはデジタル技術が豊富にあります。このデジタル技術をAVから他の製品へ展開することでIの強化につなげています。

また、社内のIoTコンソーシアムで全社データを集約しています。以前は各部署で集めたデータを他の部署に出したがらない傾向にありましたが、今は出した方が得することに気がつき始めました。10あるプロジェクトで、自分のところのデータを出せば、残りの9つのプロジェクトのデータを使えることになるからです。

データ分析においても2015年にAI(人工知能)強化推進室を設立し、全社共通採用でAI人材を採用し始めました。

もう一つ、Iの強化に伴って、ビジネスプロセスも変える必要があると考えています。2015年から毎年作成している「技術10年ビジョン」では、注力する技術領域と一緒に、ビジネスプロセスも提示しています。なぜなら技術だけではビジネスにならないことが分かっているからです。IoTが普及すれば、顧客との接点もデジタル化して、ビジネスプロセスを変更する必要が出てくるでしょう。

――顧客との接点がデジタル化していくときにビジネスプロセスを変更する必要があるとのことですが、それを実際に進めるのは誰ですか。

宮部 中心はCIO(最高情報責任者)、マーケティング担当者です。ただ、技術担当者も積極的に関わるべきです。気がついた人が自分の領域に関係なく実行することです。

――最後に、日本の研究者に何かメッセージがあればお願いします。

宮部 日本の技術者は、具体的なものに仕上げることにおいては世界でもトップレベルです。あとは、いいコンセプトをつかむことが大事になります。いいコンセプトを作ることに長けている人ばかりではありませんが、そこは素直に学べばいいのです。

先進国に目を向けることが大事です。かつて日本が成長できたのは、貪欲に海外から学んだからです。1980年代に(経済規模で)世界のトップに立ってしまったために、謙虚さを忘れ、貪欲さを失ってしまったようですが、もう一度、明治維新や戦後の復興の時のことを思い出して、オープンイノベーションで海外から学べばいいと思います。いいコンセプトに出会い、具体的にしていくことで日本は復活できると思います。

(聞き手=日経BPクリーンテック研究所 菊池珠夫)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン